はじめに
自分の主力所有銘柄であるAT&T(T)は
AT&T(T)の投資格付けアップデートによる下落(2023/7)
続くAT&T(T)の投資格付け格下げによる下落(2023/7)
でまとめた様に2023年7月14日(金)、18日(月)の2営業日連続で大きく下落していた。
翌日19日(火)も日中は反発する場面もあったのだが、結局は月曜日からまた0.59%下落して取引を終えている。
2連続営業日で大きく下落した際のまとめで
「僅か2営業日で10%を超える下落となっているAT&T株の下げがいつ止まるのかが気になるところだが、下げが止まる気配はあまり感じられず、下げが止まったとしても反発の幅は限定的だろう。」
と書いていた通りに事態は進んでいるように見えた。
ところが19日(火)のAT&T株は
火曜日に比べて8.48%の大幅上昇。ここ数日の下落を取り戻すまでには至っていないのだが、先に書いた様に自分は下げ止まりには時間がかかり、反発も限定的と思っていたので嬉しいサプライズとなった。
ここでは昨日のAT&T株の上昇原因について確認し整理しておくことにする。
2023年7月19日のAT&T株の上昇要因
カリフォルニア州東部地区米連邦地裁への提出資料の内容
これは、AT&Tに対してタホ湖から鉛で覆われたケーブルの撤去を求めているカリフォルニア・スポーツフィッシング・プロテクション・アライアンスによる2021年の訴訟に関連した提出資料。主に大きく以下の2点について言及している。
【タホ湖の鉛で覆われたケーブルの撤去について】
- 2021年に危険性がないとの考えにもかかわらず、訴訟解決のためカリフォルニア州とネバダ州にまたがるタホ湖から鉛で覆われた通信ケーブルを撤去することに同意していた
- しかし、後述のウォール・ストリート・ジャーナル報道を受けてAT&Tはケーブル撤去作業を一時停止し、専門家に状況を評価してもらいたいと裁判所に要望
【ウォール・ストリート・ジャーナル(以下ジャーナル)の報道について】
- ジャーナルは広範な公衆衛生問題の懸念を提起しようとしているが、鉛被覆通信ケーブルがAT&Tのネットワークに占める割合は小さい
- 鉛被覆ケーブルは約200万シースマイルのケーブルの銅設置面積の10%未満に相当し、その圧倒的多数が現役のままである
- 鉛被覆ケーブルの3分の2以上は埋設または導管内に埋設されており、次に架空ケーブルが続き、ごく一部が水中に通っている
- 設置、メンテナンス、撤去にかかる費用はケーブルの種類によって異なる
- ジャーナルの報道とテストはAT&Tが委託した専門家のテストとは大きく異なる
- ジャーナルのテストは、環境防衛基金(Environmental Defense Fund:EDF)から資金提供され、また同誌が望んでいた結果、つまり高濃度の鉛が得られる可能性が最も高いと信じた場所を標的としている
- EPA(U.S. Environmental Protection Agency。米国環境保護庁)を含む適格で独立した利害関係者によるさらなる分析を可能にし、安全性を確保するために適切な場所にこの問題を残すべきである
- この問題については、センセーショナルなメディア報道ではなく、客観的な科学的証拠に基づいて審議されるべきである
アナリストとの電話会議
また報道によるとAT&Tは7月18日(火)の夜にアナリストとの電話会議を開催したとのこと。以下は参加したアナリストのコメント。
【TD CowenのアナリストGregory Williams氏】
- AT&Tがネットワークから鉛被覆ケーブルを撤去するのに年間約2億4600万ドルを費やすだろう
- AT&Tの投資家向け広報担当は、有害な鉛被覆ケーブルのリスクに関する枠組みを説明する臨時の電話会議を主催した
- この枠組みでは、健康リスク、ケーブルエクスポージャー、財務リスクを最小限に抑え、リスクがあったとしても長年にわたって是正されることを示唆している
- 我々は(タホ湖の)訴訟は、影響を受けたすべての通信会社とって非常に建設的だと考えている
【Raymond JamesのアナリストFrank Louthan氏】
- AT&Tは総エクスポージャーは200000ルートマイル以下であると述べている
- もしそれらをすべて除去する必要があると判断された場合、AT&Tに対するリスクは年間約8400万ドルになると推定される
- またAT&Tはジャーナルの記事とそのデータ収集の方法とプロセスを何度か調査し、ジャーナルの取り組みにおけるいくつかの重要な潜在的な利益相反を浮き彫りにした
【Goldman SachsのアナリストBrett Feldman氏】
- 鉛被覆ケーブルの撤去によりAT&Tに最大40億ドルの費用がかかる可能性がある
- AT&Tは自社の鉛被覆電気通信ケーブルはタホ湖の水域で仕事や遊びをする人々に危険を及ぼさないと常々主張してきたが、2021年に訴訟費用を避けるためだけにケーブルを撤去することに同意した
- しかし、ジャーナルによる最近の報道ではこれらのケーブルが全国的な公衆衛生上の危機であると同紙が主張するものの中心に位置づけられている
- AT&Tがこれらのケーブルに対して繰り返しテストを行った結果、ジャーナルのテスト方法とその結果と報告の信頼性に重大な懸念があると述べられている
まとめ
ちなみにウォール・ストリート・ジャーナルはAT&Tが環境防衛基金(EDF)が鉛被覆ケーブルの試験費用を支払った団体と誤って特定したとしている。ただサンプリング検査をしたMarine Taxonomic Services(MTS)はEDFから指導と資金提供を受けているともしている。これについてはAT&Tの昨日の株価から判るように材料視はされなかった模様。
いずれにせよ昨日の開示資料とアナリストとのカンファレンスコールで、それまでは定量化されていなかった鉛被覆ケーブルの費用がある程度推定できるようになったこと、そしてその費用が市場が懸念していた程の高額ではなさそうなことが好感されてAT&T株の上昇につながったのだろう。
ただこの鉛被覆ケーブルの問題が完全に解決した訳ではないので、AT&T株に対する不確定要素として今後の展開に注意しておきたい。
AT&T株は2023年に入ってからこの鉛被覆ケーブルの問題に加えて、2023年第1四半期に予想を下回ったフリーキャッシュフロー、Amazonの低価格携帯サービス参入報道といった大きな不確定要素を抱えており、第1四半期決算以降低調な株価推移が続いている。何とか来週7月26日に予定されている第2四半期決算で、自社である程度コントロール可能なフリーキャッシュフロー問題だけでも改善してほしいものだ。