2020年6月25日結果発表のFRB銀行ストレステストの追加手法

はじめに

2020年6月9日に米連邦準備制度理事会(FRB)は、米国で営業している大手金融機関を対象とするストレステスト(健全性審査)と包括的資本分析(CCAR)の結果を25日に発表するとしていたのだが、昨日はそれに関連して銀行ストレステストにおけるコロナ禍分析の追加手法が発表された。以下にその内容について整理しておくことにする。


従来のストレステスト

昨年2019年のストレステストについては、以下にまとめている。

米銀ストレステスト第2弾結果とシティ、JPM配当(2019/6)

2020年6月9日の発表では、

  • 検査は資産1000億ドル超の34の金融機関が対象
  • 結果には「新型コロナウイルスへの対応に伴う経済への相応のリスクが銀行資本にどのような影響をもたらし得るか」に関する追加的な分析を含む

といった内容であり、追加的な分析の詳細については説明されていなかった。


ストレステストに関する今回の追加発表内容

以下は米連邦準備理事会(FRB)副議長のRandal K. Quarles氏が2020年6月19日にWomen in Housing and Financeでの講演で述べた内容からの引用・抜粋。

  • In light of that uncertainty, our sensitivity analysis considers three distinct downside risk paths for the economy:
    その不確実性に照らして、私たちのsensitivity analysis(追加分析)では経済の3つの異なる下振れリスクパスを考慮しています。

    • first, a rapid V-shaped recovery that regains much of the output and employment lost by the end of this year;
      まず、今年の終わりまでに失われた生産量と雇用の多くを取り戻す急速なV字型の回復
    • second, a slower, more U-shaped recovery in which only a small share of lost output and employment is regained in 2020;
      第2に、2020年には生産量と雇用の損失がごく一部しか回復しない、よりゆっくりとしたU字型の回復
    • and third, a W-shaped double dip recession with a short-lived recovery followed by a severe drop in activity later this year due to a second wave of containment measures.
      第3に、短期的な回復を伴うW字型のダブルディップ景気後退で、第2波の封じ込め措置により今年後半活動が激減する(シナリオ)
  • Let me emphasize that these are not forecasts by the Fed or me, only plausible scenarios that span the range of where many private forecasters think the economy could be headed.
    これらはFRBや私が予測するものではなく、多くの民間予測家が経済に向かう可能性があると考える範囲に及ぶもっともらしいシナリオのみであることを強調しておきます。
  • In addition, given the special circumstances this year we will use the results of our sensitivity analysis to inform our overall stance on capital distributions and in ongoing bank supervision. The sensitivity analysis will help us judge whether banks would have enough capital if economic and financial conditions were to worsen.
    さらに今年の特別な状況を考慮して、sensitivity analysisの結果を使用して資本の分配および進行中の銀行監督に関する全体的なスタンスを通知します。sensitivity analysisは、経済状況や財政状況が悪化した場合に銀行に十分な資本があるかどうかを判断するのに役立ちます。
  • The sensitivity analysis will help the Board assess whether additional measures are advisable for certain banks or certain future developments.
    sensitivity analysisは、理事会が特定の銀行または特定の将来の動向に追加の対策が推奨されるかどうかを評価するのに役立ちます

この「Sensitivity Analysis」がCOVID-19に関連したストレステストの追加内容となる。ただし、

  • 銀行の資本要件水準の判断にはストレステストの従来の部分を利用(2020年2月時点のシナリオ:2019年12月のエクスポージャーを反映したもの)
  • ストレステストの従来の部分についてはこれまでと同様に各行別のデータを公表するが、新たに追加するCOVI-19を反映する部分については、各行別ではなく全体としてのデータのみを公表

するとしている。


まとめ

この発表を受けて何かが変わるのかというと、銀行株の自社株買い戻しや配当に影響を与える可能性があるという事。昨年のストレステスト結果発表後、自分の所有銀行株であるシティグループ(C)とJPモルガン・チェースは取締役会で配当増と自社株買いを決定している。

今回は「Sensitivity Analysis」に関して上記の様に、「the results of our sensitivity analysis to inform our overall stance on capital distributions」としており、「capital distributions」が配当や自社株買い戻しを指しているものと思われる(実際の公演ではDividendやRepurchaseという言葉はほとんど使われていない。Dividendは0回、Repurchaseは2回で、Repurchaseも第2四半期に銀行が自社株買いを停止したという文脈で使われていた)。

従来のストレステストの部分では、シティグループJPモルガン・チェースも第1四半期決算の内容からすると大丈夫だと思っていたのだが、Sensitivity Analysisの結果によっては、配当据え置きと言った可能性もあるのだろうか。さすがに減配や停止は無いと思うのだが…。

いずれにせよ6月25日の結果発表とそれに基づいて行われる(であろう)所有銀行株の発表に注意しておくことにしよう。

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