米国の一律関税15%引き上げ発表後の市場下落要因(2026/2)

はじめに

米現地時間2026年2月20日(金)には、米最高裁が国際緊急経済権限法(IEEPA:International Emergency Economic Powers Act)に基づく米相互関税を違法とする判決を下し、それを受けてトランプ大統領は同日夜に1974年通商法122条に基づき、2025年2月24日(火)より全ての国の輸入品(一部農産物や医薬品などの例外、また別法律で課されている/免除されている関税は除く)に対して最大150日間一律10%の関税を課す布告に署名したことについては、

米最高裁が米相互関税を違法と判断&直後の米市場(2026/2)

で整理した。

しかしその翌日の米現地時間2026年2月21日(土)にはトランプ大統領が一律関税の税率を10%から15%に引き上げることを表明していた。

当然、それが重しとなって週明け2月23日(月)の米国株式市場は下落すると覚悟しており、実際に後述する様に下落したのだが、確認してみると必ずしも一律関税が15%になったことだけが要因では無かったようだ。

以下、トランプ大統領の発表内容及び前回まとめ以降の動き、その他同日の様々な要因を受けて市場が下落した点について整理しておくことにする。


現地時間2026年2月20日(金)以降の一律関税に関する主な動き

以下は断りが無い限り米東部標準時。これ以前の主な動きはこちらを参照

【2026年2月21日(土)】

  • 午前11時頃(日本時間22日(日)午前1時頃)トランプ大統領がSNSに以下の投稿(一部抜粋)
    • I, as President of the United States of America, will be, effective immediately, raising the 10% Worldwide Tariff on Countries, many of which have been “ripping” the U.S. off for decades, without retribution (until I came along!), to the fully allowed, and legally tested, 15% level.
      私はアメリカ合衆国大統領として、数十年にわたり米国を「搾取」し続け、報復措置も取らなかった国々(私が就任するまでは!)に対する全世界10%の関税を、完全に許容され、法的にも検証された15%のレベルに引き上げる
    • During the next short number of months, the Trump Administration will determine and issue the new and legally permissible Tariffs
      今後数ヶ月の間に、トランプ政権は新たな法的に許容される関税を決定し、発効させる

【2026年2月22日(日)】

  • 米通商代表部Jamieson Greer代表がCBSニュース「Face the Nation」で以下の発言
    • トランプ大統領が24時間以内に関税率を引き上げる決定を下したことは「事態の緊急性」を反映したものだ
    • まだ誰も私のところにきて、この取引は中止だと言ってくるのを聞いていない
    • 彼らは、この判決がどうなるかを見守りたいのだ
    • 米国はEUとの合意を含むこれまでの合意を堅持するし、貿易相手国にも同様の対応を期待している
  • 欧州委員会の声明
    • 現状は、双方が合意した「公正で、均衡が取れ、相互に利益のある」大西洋横断貿易と投資の実現に資するものではない。合意は合意だ
    • 米国は判決を受けてどのような措置を取るつもりなのかを「完全に明確に」示さなければならない

【2026年2月23日(月)】

  • 米税関・国境警備局が以下の発表(米国市場開場前)
    • 国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づき課せられた関税の徴収を、2月24日(火)の東部標準時午前0時1分に停止する
    • 徴収停止は国家安全保障法第232条や不公正貿易慣行法第301条に基づくものを含め、トランプ大統領が課す他の関税には影響しない
    • 必要に応じてCSMS(Cargo Systems Messaging Service)のメッセージを通じて貿易業者に追加のガイダンスを提供する
    • 注:最高裁の判決以降も関税を徴収していた理由や、返還の可能性については触れていない
  • 欧州議会の貿易委員会が2月24日(火)に予定されていた欧州連合(EU)と米国との貿易協定に関する採決を延期することを決定
  • トランプ大統領がSNSに以下の投稿(一部抜粋。米株式市場開場直後)
    • Any Country that wants to “play games” with the ridiculous supreme court decision, especially those that have “Ripped Off” the U.S.A. for years, and even decades, will be met with a much higher Tariff, and worse, than that which they just recently agreed to.
      最高裁の馬鹿げた判決を「ごまかそう」とする国、特に長年、あるいは数十年にわたって米国を「騙し取ってきた」国は、つい最近合意した関税よりもはるかに高い、そしてさらにひどい関税を課されることになるだろう
    • As President, I do not have to go back to Congress to get approval of Tariffs. It has already been gotten, in many forms, a long time ago! They were also just reaffirmed by the ridiculous and poorly crafted supreme court decision!
      大統領として、関税の承認を得るために議会に再度足を運ぶ必要はない。既に、様々な形で、ずっと前に承認を得ている!

【2026年2月24日(火)】

  • 1974年通商法122条(Section 122 of the Trade Act of 1974)に基づき、米東部標準時2026年2月24日(火)0時01分から全ての輸入品(一部農産物や医薬品などの例外、また別法律で課されている/免除されている関税は除く)に一律10%が課される(トランプ大統領が2月21日にSNS投稿した15%ではない)

同日の市場の動き

米国株式市場

米主要3株式指数はいずれも1%を超える大幅下落。前述の様に、週末に新たな関税が10%から15%に引き上げられるとトランプ大統領がSNSに投稿したことが原因かと思ったのだが、調べてみると株式市場に不透明感をもたらしてはいるが、同日の下落の直接的な要因では無かった様に思われる。

では何が株式市場下落の要因だったかと言うと、主に以下の点が影響したようだ。

  • 2月22日(日)、Citrini Research社が将来のAI浸透による仮定のシナリオ(失業率10%)を用いて世界経済のさまざまな分野に対する潜在的なリスク概説をするレポートを発表。名前が挙がった主な業界、企業と23日の株価は以下の通り
    • 食品配達サービス
      • ユーザーのアプリへの忠誠心が、最適な選択を行うAIエージェントによって無効化される
        • Uber Technologies(UBER):4.25%下落
        • DoorDash(DASH):6.60%下落
    • クレジットカード/決済
      • AIが手数料の安い決済ルートを自律的に選択するため、既存の決済ネットワークが中抜きされる
        • Visa(V):4.50%下落
        • Mastercard Incorporated(MA):5.77%下落
        • American Express Company(AXP):7.20%下落
        • Capital One Financial Corporation(COF):8.84%下落
    • ソフトウェア業界
      • AIによるコーディングの自動化で参入障壁が消滅し、既存のライセンスモデルが崩壊
        • ServiceNow(NOW):3.33%下落
        • Salesforce(CRM):3.78%下落
        • Atlassian Corporation(TEAM):9.44%下落
        • DataDog(DDOG):11.28%下落
    • 資産運用
      • AIエージェントによる高度なアルゴリズム運用普及により、高額な管理手数料や成功報酬の正当性が失われる
        • Blackstone(BX):6.23%下落
        • Apollo Global Management(APO):5.00%下落
  • 2月23日(月)、AIスタートアップのAnthropic社が、メインフレームで使われる旧来のプログラミング言語「COBOL」の近代化をAIで支援できるとSNSに投稿
    • International Business Machines Corporation(IBM):13.15%下落
  • プライベート・デッド・ファイナンスを専門とする資産運用会社、ブルー・オウル・キャピタル(OWL)を巡る信用不安
    • 2月18日(水)の米国株式市場閉場後、ブルー・オウルは保有する個人向けファンドにおいて、これまで四半期ごとに純資産の5%まで認めていた解約を「運用側の裁量による返還」へと一方的に変更、これを受けて2月19日(木)のブルー・オウル株は急落
    • 2月20日(金)にベッセント米財務長官がダラス・エコノミック・クラブにおける講演の質疑応答で、ブルー・オウルについて「懸念している(We are concerned)」と発言したことを受けて続落
    • 週明けの2月23日(月)は、ブルー・オウルを巡る懸念と上述したクレジット/決済への懸念が金融セクター全体に波及
      • ブルー・オウル・キャピタル(OWL):3.42%下落
      • バンク・オブ・アメリカ(BAC):3.75%下落
      • シティグループ(C):4.53%下落
      • JPモルガン・チェース(JPM):4.22%下落
      • ウェルズ・ファーゴ(WFC):4.00%下落
      • ゴールドマン・サックス(GS):3.25%下落

2月23日のS&P 500の主要11セクター中、10セクターが下落。唯一上昇したエネルギーセクターは米・イランの緊張により原油価格が上昇したためだろう。一番下落したのは情報技術セクターの4.28%下落、続いて金融セクターが3.12%下落となっている。

米国10年債

米国株式市場が開場する米国東部標準時9:30頃は上記チャートのCST(米国中部標準時)では8:30。

米債券市場は株式市場前に取引が始まり、米国株式市場下落の要因として挙げた一律関税10%から15%への懸念、AIへの懸念、信用不安などのためか、株式市場から債券市場へ資金が流入したようで利回り低下(債権買い)傾向。その流れは特に変わることなく取引を終えている。

ドル円為替

週末にあった一律関税10%から15%への引き上げ表明を受けて、週明けの取引は先週末の1ドル=約155円から154円近くまでドル安に。その後はじわじわとドル高になり再び1ドル=155円程度になったが、米国市場(債権含む)が本格化するとドル安となり一時1ドル=154.25円程度に。しかしその後またドル高傾向となり1ドル=155円台に。

そして毎日新聞が2月16日の高市首相と日銀の植田総裁との会談において、首相が追加利上げに難色を示していた、との報道がなされて更にドル高となり1ドル=156円台に。米国市場開場前の時点では1ドル=155円台後半での推移が続いている。

ドル円為替は色々な要素を踏まえて(米国とイランの緊張高まりなども)方向感が定まらない推移となっている。


まとめ

以上、米国の一律関税10%から15%に引き上げ表明後の市場の動きについてまとめてみた。

米主要3株式指数はいずれも1%を超える下落となったものの、その下落要因は上述した通り米国の一律関税以外の部分が大きかったように思える(ちなみにこれまでCitrini Research社のレポートがこれ程市場に注目され、影響を及ぼしたことはない)。

ただ関税に関しても先行きが不透明なための様子見感が主流なだけで、今後の展開次第では明確な下落要因となる可能性も無くなったわけではない。実際に一律関税10%が始まって24日の米国市場がどう反応するか、そして15%に引き上げられる可能性や、1974年通商法122条に基づく150日間が経過した際にどの様な関税が課されるのかもわからない等不安要素は多い。

AIに関しては懸念されていたAIに対する巨額の投資が費用に見合うのかという点に加えて、AIの浸透による企業のビジネスモデルへの悪影響も注目される様になってきているようだ(2月頭にAnthropic社の発表影響でソフトウェア株が大きく下落したことについては、タイトルは違うが少し触れている)。

またブルー・オウルに起因する信用不安がこれ以上広がらないことを願いたい。2025年9月下旬から10月にかけての信用不安で米銀株が下落した際の様に早期に収束してくれるといいのだが。

これらに加えて米・イランの動向、2月25日(水)の米国株式市場閉場後のエヌビディア(NVDA)も気にかかるところであり、気の休まらない日々が続きそうである。何とか市場が安定感を持つ状況になってくれるといいのだが・・・。

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