2025年9月下旬からの米銀株下落は信用不安が原因だった模様

はじめに

自分が所有している米国株ポートフォリオの中で一番大きい割合を占めるシティグループ(C)は9月下旬から下落傾向で、10月初旬の自分の資産大幅減の主要な要因の一つ(10月に入ってから10日までシティは8.06%減。もう一つの要因はポートフォリオで2番目に大きいAT&T(T)の投資格付け引き下げが複数回あったこと。10日までAT&Tは9.16%減)となっていた。

その際には

「シティの正確な下落要因は今一つ不明(米つなぎ予算案不成立が要因とは思われる)」

と書いており、原因は不明だが恐らく米つなぎ予算案が不成立でその状態が続いているためなのかと思っていたのだが、どうも10月14日のJPモルガン・チェース(JPM)、シティグループ(C)の決算をまとめた際に、掲題の信用不安が銀行株下落の原因だったらしいことに気が付いた。

以下、その経緯について簡単に整理しておくことにする。


2025年9月からの信用不安の主な経緯

  • 2025年8月、ブルームバーグが業績やファクタリングという会計上の仕組みに対し、投資家から説明の要求を受けていた米自動車部品メーカーFirst Brandsが債務借り換えを目的とした60億ドルの調達を停止したと報道

2025年9月10日

  • Fifth Third銀行が、テキサス州アービングを拠点とし主に米国南西部のヒスパニック系の低所得者層向けに自動車販売とサブプライム(信用力の低い個人向け)自動車ローンを提供するTricolorが保有する2億ドルの資産担保ローンに関連する外部不正行為の疑いを発見したと発表

2025年9月11日

  • 米Tricolorが米連邦破産法第7条に基づく会社清算を申請
    • 裁判所の文書に記載された債務は10億ドルから100億ドル
    • 第7条では第11条と異なり、債務再編が困難な企業の資産が裁判所指定の清算人によって売却される
    • 申請文書にはJPモルガン・チェースやFifth Third銀行、バークレイズなどの大手銀行を含む、2万5000もの債権者が記載
    • 申請の理由は連邦破産裁判所に提出された文書には明記されず

この後は、大手金融機関の融資額や不正の疑いについての調査に関する散発的な報道が行われている。

2025年9月23日

  • ブルームバーグが米First Brandsが米連邦破産法11条の適用申請を来週にも行う準備を進めていると報道
    • 破産法適用下での事業継続のため最低10億ドルの融資確保を目指しており、金融機関は約12億5000万ドルのDIPファイナンス(つなぎ融資)について協議

2025年9月29日

  • 米First Brandsが米連邦破産法11条の適用を申請
    • 破産法適用下での事業継続に向け、総額11億ドルのDIPファイナンス(つなぎ融資)の供与を受けることで合意が成立
    • 裁判所の文書に記載された同社の負債額は推定100億~500億ドル、同社の資産額は推定10億~100億ドル
    • First Brandsの売上高の約70%はファクタリングという会計上の仕組みを通じて得られたものとされる
    • 主な債権者はジェフリーズやUBS、ミレニアムなど

この後はTricolorとほぼ同様に金融機関の融資額や、不正の疑いについての調査に関する報道が行われている。

2025年10月14日

  • JPモルガンのJamie Dimon氏が第3四半期決算発表の中で「こう言うべきではないかもしれないが、ゴキブリが1匹いたら、おそらく他にもたくさんいるはず」と発言し、類似のケースの可能性に言及

2025年10月14日から米企業の四半期決算発表が本格化しており、破綻していたTricolor、First Brandsに融資していた金融機関が言及し、地方銀行によっては1日で10%超下落した企業もある。アナリストもノンバンク金融機関への融資リスクについて質問するケースが多かったようだ。米連邦準備制度理事会(FRB)のデータによると、ノンバンク金融機関への融資は、今年に入って米国銀行業界で最も急速な伸びを見せている分野とのこと。


まとめ

以上Tricolor、First Brandsの破綻について簡単に整理してみた。

この相次いだ破綻が、債権者である米銀にどの程度貸倒損失が発生するのか、今年急成長してるノンバンク機関への融資リスクに対する懸念、今後類似の破綻が発生する可能性といった信用不安を高めていることがここ最近の銀行株の下落要因だったようだ。

自分が所有しているシティグループ(C)、JPモルガン・チェース(JPM)の直近の株価推移を市場(S&P 500)と比較してみると

Tricolorが破綻申請をする前に報道がなされた9月5日に債権者であるJPモルガンは大きく下落(シティは関係なし)したがその後は上昇しており、この時点では単発の事例と捉えられていた可能性がある。

しかし2件目となるFirst Brandsが破綻したことで、Tricolorの破綻が例外的なものではないかもしれないとの認識から信用不安が高まり、しばらく銀行株の下落傾向が続くことになった。

10月10日はトランプ大統領の対中発言で市場全体が下落、そしてその後トランプ大統領がトーンダウンしたことで週明けの13日は上昇と信用不安とは別の要因での上下動。

14日はシティは発表した決算が好調で上昇した一方、JPモルガンは上述した様に更なる破綻の可能性を否定しなかったこともあって下落。

16日は上述した米地方銀行の決算発表を受けて、米地方銀行株の主要指数であるKBWナスダック・リージョナル・バンキング指数が6%急落したこともあって、大手銀行株も下落。

ただし17日は続く米地方銀行の決算で発表された貸倒引当金が一部を除いて市場予想より低かったことでKBWナスダック・リージョナル・バンキング指数は1.5%上昇とやや落ち着きを見せたというのが現状となる。

問題はこの信用不安・銀行株下落傾向がいつ終息するかということなのだが、正直判らない。特に自分が所有しているJPモルガンやシティなどの大手米銀株よりも、規模がより小さい米地方銀行が影響を受けている様子。原因や背景は異なるが、銀行に対する信用不安/銀行株大幅下落という点では2023年3月にあった米地銀2件の破綻を思い起こさせる。その後3件目の破綻があったのだがJPモルガンが買収したことや同時期の米銀決算内容が比較的堅調であったことなどで、銀行システム全体に対する不安は一段落している。

最近発表された地方銀行を含む大手銀行の決算における貸倒引当金から見ると、各行が把握している限りでは更なる融資先破綻の可能性は低そうだと思われる一方で、JPモルガンのJamie Dimon氏が「ゴキブリが1匹いたら、おそらく他にもたくさんいるはず」と発言している事は銀行が把握出来ていない破綻の可能性も排除しきれない気がする。

しばらくは銀行株の上昇傾向は望めないだろうが、下落傾向が早期に解消してくれることを望みつつ、今後の動向について注意を払うことにしたい。

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