はじめに
2024年3月6日には米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が半期に一度の下院金融サービス委員会での議会証言を行った。翌日3月7日には上院でも銀行・住宅・都市問題委員会で議会証言を行うのだが、内容はさほど変わらないであろうから下院金融サービス委員会での議会証言について確認し、整理しておくことにする。
2024年3月6日下院金融サービス委員会における米FRBパウエル議長の議会証言
【報告書】
- 政策金利は今回の引き締めサイクルにおけるピークにある可能性が高い
- 経済がおおむね予想通りに推移すれば、今年のある時点で政策抑制の縮小を開始するのが適切となる可能性が高い
- しかし経済の見通しは不透明であり、2%のインフレ目標に向けた継続的な進展は保証されていない
- 政策抑制の縮小が早すぎたり多すぎたりすると、これまでに見られたインフレの進展が逆転する可能性があり、最終的にはインフレ率を2%に戻すためにはさらに厳しい政策が必要となる可能性がある
- 同じく、政策抑制の緩和が遅すぎたり少なすぎたりすると、経済活動と雇用が不当に弱まる可能性がある
- 政策金利の目標レンジの調整を検討する際には、今後得られるデータ、今後の見通し、リスクのバランスを慎重に評価していく
- インフレ率が2%に向けて持続的に推移しているという確信がさらに高まるまで、目標レンジを引き下げるのは適切ではないと予想している
【主な質疑応答】
- Q:FRBが行うことは全て11月の大統領選でのバイデン大統領とトランプ前大統領の再戦というレンズを通して見られることになる
- A:我々はただ慎重に仕事をし、国民が期待しているものを提供するよう努める
- Q:利下げ時期
- A:本当に経済の行方次第だ。われわれが焦点を当てているのは最大雇用と価格の安定、そして見通しに影響を与える今後のデータだ
- A:経済と労働市場の強さ、そしてこれまで成し遂げてきた進展により、われわれは慎重に、かつ熟慮の上でそのステップに臨むことが可能だ
- Q:大手銀行を対象とした資本要件引き上げ案
- A:資本要件強化案には広範かつ実質的な変更が行われるとみている
- Q:規制当局が昨年7月に提示した案を撤回し、新しい提案を行う可能性
- A:何も決定はされていないが、それは非常にあり得る選択肢だ
- Q:商業用不動産のリスクについて
- A:商業用不動産の保有割合が高い銀行を注視しており、そうした資産に損失が生じる可能性に備えて評価替えを行う計画があるかどうかを尋ねている。(そういった銀行は)潜在的損失を吸収するための計画と資本、流動性を備えている必要がある
まとめ
今回のパウエル議長の下院での証言は前回2024年1月のFOMC会合後の会見と大きくは変わっていない。それもあってか米国市場は株式、債券、為替ともそれ程大きな動きは見られなかった。
逆に考えるとFRB/パウエル議長のスタンスが変わるほどの状況変化は前回FOMC以降1ヶ月ほどは無く、年内の利下げ(時期は不明)に向けて順調に進んでいるとも考えられる。
とはいえ、利下げの時期が早すぎれば経済活動の加速を促し2%超のインフレ率が続く恐れがあり、高水準の政策金利を過度に長く続ければ景気後退に陥るリスクが生じる旨を述べており、経済指標次第で市場が大きく変動する可能性がある点は注意しておく必要があるだろう。