はじめに
2024年11月7日(木)には自分が所有しているワーナーブラザース・ディスカバリー(WBD)の2024年第3四半期決算発表があった。
前回の決算発表では市場予想を下回る売上、EPSに加えて予想外の巨額な一時費用の計上(ネットワーク部門ののれん代91億ドル、その他21億ドル)があり約9%の下落となり、
「今後のワーナーブラザース株だが今回決算を受けての市場の反応を考えると、年初来からの流れは変わらないだろう。NBA放映権の喪失が裁判で完全に無くなった場合は更に下落するであろうし。上昇の可能性としては、7月に上昇した要因となった資産売却などが実現した場合だけだろう。次回四半期決算でこれ以上の悪材料が出てこないことを願いたい。」
と書いており、実際冴えない状態が続いていた印象がある。
今回の決算及び株価はどうなったのか。以下ワーナーブラザースの決算内容と株価を確認し整理しておく。
ワーナーブラザース・ディスカバリー2024年第3四半期決算概要
以下の内容は、ワーナーブラザース・ディスカバリーの企業サイトより引用・抜粋。
- 2024年第3四半期の総売上高(Total Revenues)は96億2300万ドル、前年同期は99億7900万ドルで為替の影響を除いて3%減少
- 2024年第3四半期のシリーズA株希薄化後1株当たりの純(損失)利益(Net (loss) income per share allocated to Warner Bros. Discovery, Inc. Series A common stockholders Diluted)は0.05ドル、前年同期は0.17ドルの損失
- 2024年第3四半期のフリーキャッシュフローは6億3200万ドル、前年同期は20億5900万ドルで69%減少
事業部別業績
【スタジオ部門】
売上は26億8000万ドルで前年同期比17%減(恒常為替ベースでも17%減)、Adjusted EBITDAは3億800万ドルで前年同期比58%減(恒常為替ベースでも58%減)。
TVの売上は昨年ストライキがあったため前年比で30%増加したものの、ゲームの売上は昨年「Mortal Kombat 1」が好調だった反動から前年比31%減少、そして劇場収入は「Beetlejuice Beetlejuice」、「Twisters」が昨年の「Barbie」に比べて不調だったこともあり前年比40%減となっている。
【ネットワーク部門】
売上は50億1000万ドルで前年同期比3%増(恒常為替ベースでも3%増)、Adjusted EBITDAは21億1500万ドルで前年同期比12%減(恒常為替ベースでは11%減)。
配信収入や広告収入は減少したものの、コンテンツ収入での主にヨーロッパ全土の放送ネットワークへのオリンピックのサブライセンス付与が寄与(5億7800万ドルの効果)して全体的にはやや増加。しかし逆にAdjusted EBITDAではオリンピックの放送コストが悪影響を及ぼしたため前年比で減少している。
【DTC部門】
売上は26億3400万ドルで前年同期比8%増(恒常為替ベースでは9%増)、Adjusted EBITDAは2億8900万ドルで前年同期は1億1100万ドル。
2024年上半期にラテンアメリカとヨーロッパでMaxが開始されたことによる加入者増加と価格上昇により配信収入は増加、広告収入も米国でのad-lite(広告付き配信)加入者増により増加している。
また前四半期マイナスに転じたAdjusted EBITDAが再びプラスに転じている。
DTC加入者数
- 有料ストリーミング加入者の総数は今四半期720万増加し合計1億1050万
2024年見通し
2024年の見通しについてはいつもと同様資料での発表は無く
- Warner Bros. Discovery, Inc. may provide forward-looking commentary in connection with this earnings announcement on its quarterly earnings conference call.
とカンファレンスコールで言及する可能性があると述べるに留まっている。
その他
その他決算発表及びアナリストとのカンファレンスコールで気になった点は以下の通り。
- 第3四半期の業績は、当社が引き続き環境の異常な混乱に直面している(continue to confront extraordinary disruption in our environment)一方で、将来の成功に備えるために実施した戦略が重要な結果を示していることを改めて実証している
- Maxは第3四半期に720万人の純加入者増加を達成した。これはプラットフォーム開始以来最も力強い四半期増加であり、加入者関連の収益が健全に伸び、2025年のDirect-to-Consumer部門の財務目標達成に向けて大きな前進をもたらした
- 第3四半期にチャーター・コミュニケーションズ(CHTR)とMaxとDiscovery+のストリーミング・サービスを追加料金なしでパッケージに加えることが出来る契約の更新を行った
- 各部門
- DTC:
- 主要な財務指標、純加入者数の増加、加入者関連収益、EBITDAで力強い勢いが見られる
- 第4四半期も、同様のレベルの加入者関連収益成長と EBITDA 貢献を期待
- ネットワーク:
- 配信収入は為替変動の影響を除いて7%減少、AT&T SportsNet の影響を除くと5%減少
- スタジオ:
- 当四半期の業績は社内の予想を下回った
- 今四半期さらに1億ドル以上の減損を計上したゲーム事業における年初からの減損総額は3億ドルを超えており、今年のスタジオ利益減少の重要な要因
- 第4四半期のゲーム事業は前年比横ばいから若干の改善見込み
- 映画事業は「Beetlejuice Beetlejuice」は悪くは無かったが、前年の「Barbie」には及ばず
- また10月に公開された「The Joker Folie à Deux」のマーケティング費用が前年比での重しとなっている
- 「The Joker Folie à Deux」は第4四半期の収益性に重くのしかかるだろうが、現在映画事業はほぼ昨年の第4四半期並みの業績を上げると予想
- テレビ事業は昨年のストライキの影響から前年比で好調で、この勢いは第4四半期も続くと予想
- 全体として、スタジオの第4四半期EBITDA は、特定のコンテンツライセンス契約のタイミングに応じて前年比で数億ドル増加すると予想
- DTC:
- 第3四半期末の純負債は407億ドル(前四半期から29億ドル増加)で純レバレッジの約4.2倍
- 当四半期に約9億ドルの債務を買い戻して返済し、来週には約3億ドルが償還を迎える
- 引き続き前年比でのレバレッジ解消を見込んでいるが、不足額や減損もあって当初の計画よりはるかに控えめなものとなるだろう
- 質疑応答
- DTCへの投資と今後のEBITDAの成長について
- DTC事業は新規市場の成長と既存市場の成熟から恩恵を受けており、加入者数、収益、EBITDAの同時成長が可能
- コンテンツとプラットフォーム開発への戦略的重点投資がMaxの加入者数と収益性の大幅な増加につながっている
- ストリーミング市場における潜在的な提携や統合への取り組みについて
- 消費者体験と事業の強さを向上させるには、業界に意味のある統合が必要であると考えている
- 新政権がそのような変化を促進する可能性がある(バイデン政権下では反トラスト法が厳格に適用されている)
- (新政権は)この業界にとって必要な、本当にポジティブで加速的なインパクトをもたらすだろう
- 現在の株価は、当社が保有する素晴らしい資産の潜在的価値を十分に反映していないと強く信じている
- 当社は常に株主価値を高める方法を模索している
- DTCへの投資と今後のEBITDAの成長について
ちなみに第2四半期決算直前に話題になったNBAの放映権については係争中という事もあり言及は無し。また今夏から米国でウォルト・ディズニー、FOX、ワーナーブラザースの合弁会社(Venu Sports)のスポーツストリーミングを提供する予定だったが、8月16日にスポーツストリーミングサービスFuboTVの訴えが受け入れられて差し止めになっている。これも係争中のためか詳しいアップデートは無し。
市場予測との比較
今回の主な決算内容と市場予想とを比べてみると、
- 2024年第3四半期の総売上高(Total Revenues)は96億2300万ドル、市場予想の98億ドルを下回っている
- 2024年第3四半期の希薄化後一株あたり利益(Diluted EPS)は0.05ドル、市場予想は0.09ドルの損失
- 2024年第3四半期の有料ストリーミング加入者純増数は720万、市場予想の628万を上回っている
となっている。
まとめ
上記の様な決算発表を受けてワーナーブラザース・ディスカバリーの株価は
前日比11.81%の増加。同日の米国市場は
まちまちだったのだが、ワーナーブラザースの株価は急騰といっても良いだろう。売上は市場予想を下回ったものの、DTC加入数が大幅に増加し、EPSも予想外に黒字となったこと、そしてトランプ氏が大統領選に勝利したことで将来的な業界再編やM&Aが期待される点をカンファレンスコールで最高経営責任者(CEO)のDavid Zaslav氏が言及したことが原因だろう。ただし、スタジオ部門やネットワーク部門は低調な事を考えると決算を受けてのこの上昇は上がり過ぎな気がする。
決算後数日を含めた年初来のワーナーブラザース株の推移を市場(S&P 500)と比べてみると
年初から下落傾向にあり停滞していたワーナーブラザース株だが、10月末から今回の決算を経てやや上昇傾向となり3月以来の9ドル台を回復している。しかし、11月15日(金)にはディズニーを除いた同業他社が
大きく株価を下げており(調べたが理由は判らず)、ワーナーブラザースの勢いが続くかどうかは不透明。
今後のワーナーブラザース株だが、週末の11月17日(日)には問題となっていたNBAの放映権に対して和解が成立したとウォール・ストリート・ジャーナル誌が報じており、それも含めて11月15日(金)の株価大幅下落が、これを書いている18日(月)に一時的なもので終わるのかどうかが注目される。今回の決算内容自体は概ね悪くなかったので、これを乗り越えれば堅調な株価推移を期待したいところだが、さてどうなるか。