はじめに
昨日2024年5月23日(木)の米国市場は米S&Pグローバルが発表した5月の米総合購買担当者景気指数(PMI)速報値が54.4と2022年4月以来2年超ぶりの高水準となったことや、5月18日までの1週間の新規失業保険申請件数(季節要因調整済み)が前週比8000件減の21万5000件と前週に引き続き減少して労働市場の底堅さが改めて示唆されたことを受けて、インフレが依然として懸念され米連邦準備理事会(FRB)による利下げが先延ばしされるとの見方が強まったこともあって、エヌビディア(NVDA)が好業績見通しを背景に9.32%上昇したにもかかわらず米国株式市場は
いずれも前日比下落。S&P 500とNASDAQ総合が前半はプラス圏だったのはエヌビディアのおかげだろう。
当然自分の米国株ポートフォリオも低調だったのだが、その中でもボーイング(BA)は
前日比7.55%の下落。以下にボーイング株が大幅下落した原因を確認しておく。
2024年5月23日(木)のボーイング関連アップデート
まず同日のボーイング株の動きを見てみると
開場して1時間も立たないうちに2%程度市場に比べて下落しており、さらに11時前から取引量が増加し一層の下落となっていることが判る。つまり下落の要因は2つあったことが推測され、時間軸から考えると恐らく以下のものとなる。
米連邦航空局(FAA)Mike Whitaker長官のABCニュースGood Morning America(GMA)における発言
前提として2月下旬にFAAはボーイングに対して品質管理上の問題を修正するための総合的な計画を策定するよう命じており、ボーイングは5月30日にその計画を提出する予定となっている。
- 過去90日間にわたりボーイングと緊密に協力し、彼らの工場で必要な品質を取り戻すためには、どのような計画が必要なのかを検討してきた
- 安全システムをあるべき姿に戻し、従業員が何か気になることを発見したときに声を上げられるようなあるべき企業文化に戻すことが必要だ
- 来週私たちが目にするのは今後の計画であり、プロセスの終わりではない(It’s not the end of the process)。それは始まりでありボーイングが安全な飛行機を製造できるようになるには長い道のりとなるだろう(It’s the beginning, and it’s going to be a long road to get going back where they need to be making safe airplanes)
まずこの5月30日の計画提出が終わりではなく、長い道の始まりであるとのMike Whitaker長官の発言がボーイング株下落の要因となったようだ。
Wolfe Research Global Transportation & Industrials Conferenceにおけるボーイング最高財務責任者Brian West氏の発言
- 現在中国民用航空局(CAAC)がコックピットボイスレコーダーのバッテリー認証に関連して追加文書の提出を求めているためここ数週間同国への航空機の引き渡しができておらず、キャッシュ創出に支障を来している
- 生産品質の問題を精算しているため、第2四半期の商用ジェット機の納入は今年最初の3ヶ月と比べて増加しないだろう
- 2024年通期のキャッシュフローは、3月に予想したような小幅なプラスではなくマイナスになるだろう
- 4~6月(第2四半期)のキャッシュバーンは1~3月(第1四半期)と同程度か、さらに悪化するだろう
- 内部にいれば進捗を見ているはずだが、誰もがもっと早く進むことを望んでいる
4月の2024年第1四半期決算でも通期キャッシュフローは2桁億ドル前半としていたのだが、マイナスになるだろうとしたことが嫌忌されたようだ。この講演は10時50分に始まっており、先に挙げたボーイング株の一段下落タイミングと一致している。
まとめ
以上5月23日のボーイング株下落の要因について確認してみた。
年初来のボーイング株の推移を見てみると
市場(S&P 500)が10%上昇しているのに対してボーイングは34%下落となっている。
やや市場を上回るペースで推移していたものの、昨日の下落で第1四半期決算時と同等の株価水準まで戻ってしまった。
昨日のアップデートを含めて現在のボーイングは
- 5月30日に提出予定の新たな品質管理計画は終わりではなく始まりに過ぎない
- 2024年通期キャッシュフローは以前の小幅プラスではなくマイナスが想定される
- 4~6月(第2四半期)のキャッシュバーンは1~3月(第1四半期)と同程度か、さらに悪化する想定
- 2四半期の商用ジェット機の納入は今年最初の3ヶ月と比べて増加しない
- 米司法省がボーイングを起訴するかどうかを7月7日までに決定する意向
- 2018年と2019年の737MAXの死亡事故に関して刑事訴追を免れる2021年の合意における義務に違反したと判断したため
- 737MAXのサプライヤーであるスピリット・エアロシステムズ(SPR)との交渉
- 最高経営責任者のDavid L. Calhoun氏が年末までに退社
- コックピット・ボイスレコーダーの電源となるバッテリーに関する中国の規制当局の審査のため、中国への航空機納入がここ数週間遅れている
- 続く737MAX型機の増産凍結
といった問題・懸念材料を抱えている(抜け漏れもあるかもしれない)ことを考えると今後も株価に期待できそうにない。特に通期キャッシュフローがマイナス想定となると、回復には思ったよりも長い時間がかかりそうで残念ながら我慢の時が続くのだろう。何とかこれ以上の下落は回避してほしいものだ。