はじめに
現地時間2024年1月5日に、アラスカ航空のボーイング737MAX9型機が出発直後に与圧の問題で機体の窓と側壁の一部が欠け緊急着陸したトラブルについては
で1月6日時点の情報をまとめたのだが、その後の情報が色々発表されてきたので以下に整理しておく。
2024年1月5日のボーイング737MAXトラブルアップデート(1月8日(月)米国市場取引開始前時点)
前回からの情報更新
- 1月5日のアラスカ航空の1282便ボーイング737MAX9型機緊急着陸は、上昇する際に機体の左側から胴体のパネルが引き裂かれたことによるもの
- ボーイング737型機の胴体はスピリット・エアロシステムズ(SPR)製で、情報筋によるとスピリット社が噴出したプラグの製造と取り付けを行っていたとのこと
- 情報筋によると、ボーイング社も取り付けに重要な役割を担っている可能性がある
- ボーイング737MAX9は最大220人乗りで、航空会社が最大座席数を設置することを選択した場合承認された数の避難経路を可能にするためのオプションの追加ドアが装備されているが、追加座席を選択しない飛行機はドアをパネル(プラグ)に置き換えることができる
- ボーイングが納入した200機以上の737MAX9のうち、171機がドアの代わりにこのパネルを採用している
- 1月6日(土)NTSB(米運輸安全委員会)のJennifer Homendy氏のコメント
- これはかなり恐ろしい出来事だったと想像する
- 何が原因であったかを語るのは時期尚早である
- 吹き飛んだ機体部分の隣にあった2つの座席は無人だった
- 1月6日(土)FAA(米連邦航空局)はEmergency Airworthiness Directives:緊急耐航空性改善命令)を発行し、影響を受けた飛行機(737MAX9型機)を接地し、FAAが安全であると納得するまで接地したままとする、と発表
- FAAはボーイングが提案する検査要件を承認しなければならない
- FAAによると、必要な検査には1機あたり約4時間から8時間かかるという
- 1月7日(日)NTSB(米運輸安全委員会)のJennifer Homendy氏のコメント
- フライト・データ・レコーダーとコックピット・ボイス・レコーダーは日曜日にNTSBの研究所に送られ読み取られたが、コックピット・ボイス・レコーダーについては、記録が再開され以前のデータが消去される2時間後までに回収されなかったため、データは得られなかった
- 非常に混沌とした出来事だ。もしその通信が記録されないとすれば、それは残念ながら我々にとってもFAAにとっても損失であり、安全にとっても損失である。なぜなら、その情報は我々の調査だけでなく、航空の安全性を向上させるためにも重要だからである
- 1月7日のロイター通信報道によると、FAAが6日に点検にかかる時間は4~8時間との見込みを示したことから航空業界では早期の運航再開期待が高まったが、関係筋によると点検事項を巡りFAAとボーイングの見解が一致していない。7日アラスカ航空は点検についてFAAとボーイングからの指示を待っていると説明し、運航の混乱は少なくとも今週半ばまで続くとの見通しを示した
- 1月7日夜、NTSBが離陸中に側壁の一部が吹き飛び緊急着陸したアラスカ航空の737MAX9のプラグドアを発見したと発表
アナリストらの見解
MorningstarのアナリストNicolas Owens氏
- 現時点では、ボーイングのサプライヤーであるスピリット・エアロ・システムズによるこれらの検査や737MAX9の機体製造方法の修正が、ボーイングやその顧客に重大な財務的影響を与えるとは考えておらず、当社の232ドルの公正価値の見積もりは変更されていない
- しかしこの欠陥の劇的な性質(dramatic nature of the flaw)は、顧客、規制当局、そして飛行機を利用する一般市民から、ボーイングの製品ガバナンスに再び疑問を投げかける影響を持つだろう
TD CowenのアナリストCai von Rumohr氏
- FAAが要求するチェックには4~8時間かかると予想されるが、これはアクセスが困難な最近の737の後部圧力隔壁の問題の場合よりもはるかに短い
- そのため我々は検査は数日以内に完了する可能性が高く、NTSBがアラスカ航空事故の根本原因を特定すれば、修正は複雑なものではなくボーイングと(サプライヤーである)スピリットにプラグのより厳密かつ広範な検査を要求するのと同じくらい単純なものとなるだろうと考えている(fix should not be complicated and may be as straightforward as requiring~)
- 問題となるのはFAAが、MAX9の非常口ドアプラグのより頻繁な検査を要求するのかどうか、そして納入のペースに影響を与えるようなボーイングでの納入前検査を広範に要求するのかどうかという点
- 737型機の後部圧力隔壁と垂直安定板の問題は対処しなければ深刻な結果をもたらした可能性があるが、(今回の件に関しては)我々はその可能性は低いと考えている
Jefferies
- 737MAX9はボーイングの4500機以上のMAX型機の受注残のうち、わずか2%にすぎない
- FAAがジェット機1台につき4~8時間の検査を実施するよう指導していることを考慮すると、現時点ではコンプライアンスのコストは低いと考えられる
- 過去のADs(Airworthiness Directives:耐航空性改善命令)では、FAAは85ドル/時間を人件費の見積もりとしている
- 検査費用を1機あたり1万ドルと仮定した場合(高すぎる可能性が高いが、潜在的なコンテンツ費用を含む)、一般的な4年保証を考えると171機全体で170万ドルをボーイング/サプライヤーが負担することになる
- コンセッション(Concession)は契約ではないだろうが、ベースラインの一時停止を1週間と仮定すると、コンセッションは7回x1日あたり1万5000ドルx171機≒1800万ドルになる可能性がある
まとめ
以上1月5日に発生した737MAX型機のトラブルの続報について整理してみた。
アナリストの見解では自分が当初想定したよりボーイングへの影響は軽微に思われたが、それはFAAの検査が4~8時間であることを前提としており、7日のロイター通信報道でFAAとボーイングの間で点検事項に隔たりがあることを考えるとその前提自体が崩れる可能性もある。
いずれにせよ事故の原因も含めて未だ状況ははっきりしていないのだが、これを書いている1月8日(月)米国市場開場2時間前の時間外取引でボーイング株は約8%下落しており、今日そして今後のボーイング株がどこまで下がるかに怯えつつ情報収集を継続することにしたい。