はじめに
今月2024年9月頭にアナリストによるボーイングの投資格付けがアップデートされて株価が大きく下落したことは既にまとめたが、その際に個人的にボーイングが抱えている懸念点の一つとして
「労組との合意に達しない場合9月12日から3万2000人規模のストライキ」
を挙げていた。そして掲題の通りボーイングの労組が9月13日(金)から2008年以来16年振りのストライキに突入してしまった。
以下、ストライキに至るまでの流れ、現状についてまとめておくことにする。
ボーイング労組ストライキまでの経緯/9月15日(日)時点の状況
- 9月4日(水)、ボーイングは声明で、従業員のニーズと企業として直面するビジネスの現実のバランスをとる契約に到達できると確信している、と発表
- 9月8日(日)、ボーイングは声明で、シアトルの労働者を代表する組合と合意に達し数週間に及ぶ交渉が終結した、と発表
- 4年間で25%の賃上げ
- 退職給付金の引き上げ、生産工程の安全性や質への労組の関与拡大
- シアトルとポートランド近郊のボーイング工場の労働者が12日までに承認する必要
- 賛成が過半数に届かなければ協約は成立せず、ストについては2回目の投票で中止への賛成が3分の2に届かなければ実施が可能
- 9月9日(月)、国際機械工・航空宇宙産業労働者協会(IAM)の地区会長であり、ボーイングとの契約交渉責任者であるJon Holden氏がロイター通信とのインタビューで以下の発言
- 彼らは怒っている
- 多くの組合員は契約期間中の40%の賃上げと、10年前の交渉で不本意ながら断念した確定給付型年金制度の復活を望んでいる
- 投票において、この契約を受け入れるかストライキを選択するかは明らかではない
- 9月10日(火)、ボーイングの最高執行責任者(COO)Stephanie Pope氏は従業員宛てのメールで、新しい労働契約のために最大の労働組合の1つと誠実に交渉したと言及
- 9月11日(水)、ボーイングの最高経営責任者(CEO)Kelly Ortberg氏は従業員宛てのメールで、ストライキを起こせば我々の共同再建は危機に瀕し、顧客との信頼はさらに損なわれ、将来をともに決める能力も損なわれると言及
- 9月12日(木)、ワシントン州シアトルとオレゴン州ポートランドの工場従業員約3万人の従業員による投票が行われ、ボーイングが労働組合と暫定的に合意した労働協約の拒否に94.6%が賛成、ストに96%が賛成
- 9月12日(木)、投票結果を受けてボーイングは以下の声明を発表
- IAM指導部との暫定合意は組合員にとって受け入れがたいものであるというメッセージは明確だった
- 我々は、従業員や組合との関係をリセットすることに引き続き全力を尽くし、新たな合意に達するために再びテーブルにつく用意がある
- 9月13日(金)、米太平洋時間午前0時から16年振りのストライキに突入
- 9月13日(金)、ボーイングの最高財務責任者(CFO)Brian West氏がMorgan Stanley Laguna Conferenceでストライキについて具体的には触れなかったものの「我々は737MAX型機の生産を安定させ、年末までに月38機体制にするための準備を順調に進めてきた。今、それは明らかに時間がかかりそうです」と発言
- 9月13日(金)、格付け会社がボーイングの格付け引き下げについて言及
- フィッチ・レーティングス
- 現在のストライキが1~2週間続くだけなら、格付けが下がることはないだろう。しかしストライキが長引けば運航や財務に大きな影響を及ぼし、格下げリスクが高まる可能性がある
- ムーディーズ
- ボーイングが流動性要件(現在から2026年末までの間に満期を迎える約120億ドルの債務を償還するために必要な資金を含む)を満たすために、株式と並行して債務を発行した場合、格下げになる
- S&Pグローバル・レーティングス(これは12日)
- ストライキが長期化した場合、ボーイング社の業績回復が遅れる可能性があり、総合的な格付けが低下する可能性がある
- フィッチ・レーティングス
- 9月13日(金)深夜、米連邦調停・和解局が、組合員がボーイングの契約提案を拒否しストライキに突入してから両者と話をした後、連邦調停官を交えて来週にも両者を招集すると発表
- 9月14日(土)、IAMの契約交渉責任者Jon Holden氏がナショナル・パブリック・ラジオのインタビューで以下の発言
- 組合員にとっての優先事項は賃金の大幅引き上げと、10年前のボーイングとの交渉でIAMが失った確定給付型年金制度の回復だ
- 我々は歴史上最も有利な時期に最も大きな影響力と力を持ち、組合員は我々がそれを行使することを期待している。だから、ストライキはしばらく続くかもしれない
まとめ
ストライキが始まった9月13日(金)のボーイング株は
前日比3.69%の下落。同日の米国市場が
いずれも上昇しているのと比べると当然下落幅は大きくなっている。
今後ストライキがどうなるかだが、報道されている内容からではどの程度続くのかが全く想像出来ない。ただ労働組合員の投票が圧倒的多数でボーイング提案拒否/ストライキ実施賛成だったことを考えると両者の隔たりは大きく、長引く可能性は高い気がする。
そうなるとただでさえ懸念されているボーイングのキャッシュフローに更なる悪影響となり、投資格付け会社によるボーイングの格付け引き下げもより現実的になってくる。そして格付けが下がれば、冒頭に挙げた9月のアナリストアップデートのシナリオも現実味を帯びてきてしまう。
一日も早い労働組合との合意締結を願いたいが、上にまとめた様に現時点では見通しが全く見えない状況。株価への影響も含め注意していくことにしたい。