はじめに
2025年11月5日(水)の米国株式市場は、同日発表されたADP雇用統計、ISM非製造業指数が堅調となり、労働市場に若干の改善が見られたことで、11月4日(火)にハイテク銘柄が割高ではという懸念から大きく下落した流れを引き継ぐことなく、若干ではあるが上昇して取引を終えており、
「前日11月4日の米国市場がハイテク銘柄を中心に大きく下落しており、5日もADP雇用統計結果次第では更なる下落になる可能性から戦々恐々としていたのだが、ADP雇用統計そしてISM非製造業指数が堅調だったことから市場は落ち着いた動きだったのは一安心。」
り書いていた。
しかし2025年11月6日(木)の米国株式市場は、

と再び大きく下落。
どうも普段は株式市場にあまり影響を及ぼさない米民間再就職支援会社Challenger, Gray & Christmasが発表した米企業による10月の人員削減発表が急増したことが原因らしい。
以下、Challenger, Gray & Christmasの発表内容と市場の動向について確認し、整理しておく。
2025年11月6日Challenger, Gray & Christmas発表の2025年10月の企業人員削減数
以下の情報はChallenger, Gray & Christmasの発表資料より引用・抜粋。
- 2025年10月の米企業人員削減数は15万3074人、前年同期の5万5597人、前月の5万4064人の約3倍増

以下は主な分析内容。
- 2025年10月の人員削減ペースは、10月の平均を大幅に上回った。10月としては22年振りの高水準
- 過去10年間、企業は第4四半期にレイオフを発表することを避けてきたため、10月にこれほど多くのレイオフが発表されるのは驚き
- パンデミック後の雇用ブームの後に雇用の調整局面となっている業界もあるが、これはAI導入、消費者/企業支出の低迷、コスト上昇が企業財務の緊縮化と採用凍結を促している中で起こっている
- 現在解雇されている人々は、新たな職を迅速に確保することが難しくなっており、これが労働市場のさらなる軟化につながる可能性がある
- 利下げや11月の堅調な経済データがあれば、企業が年末商戦シーズンの終盤に採用を強化する可能性もあるが、現時点では2025年の季節採用環境が強いとは見込んでいない
- 年初来10月までに企業は109万9500人の人員削減を行っており、既に2024年全体で発表された76万1358人の人員削減から44%増加している
- 10月の人員削減が多かった主な業種
- 倉庫:4万7878人(前月は984人、年初来では9万418人)
- パンデミック時の成長に伴い、過剰生産能力と自動化主導のリストラが続いていることを示唆
- テクノロジー:3万3281人(前月は5639人、年初来では14万1159人)
- AIの統合、需要の低迷、効率化への圧力等で企業が組織再編を実施したため
- 倉庫:4万7878人(前月は984人、年初来では9万418人)
- 10月の人員削減要因
- コスト削減:50,437件
- 人工知能(AI):31,039件
- 市場および経済状況の悪化:21,104件
- 店舗、事業部、工場の閉鎖:16,739件
- リストラ:7,588件
同日の市場の動き
米国株式市場

Challenger, Gray & Christmasの発表は米国株式市場開場前。開場直後から下落して始まり、時間の経過と共に下げ幅を拡大して取引を終えている。
前日のADP雇用統計が堅調だっただけに、本来あまり市場に影響を及ぼさないChallenger, Gray & Christmasの発表が意外と市場に受け止められたことが下落の原因だろう。
またCMEのフェドウォッチツールによると次回FOMCでの利下げ確率は、前日の約61.5%から約69%に上昇している。前日のADP雇用統計で雇用に安定の兆しが見られて利下げ確率は低下したのだが、今回のChallenger, Gray & Christmasの発表で労働市場のテコ入れのため利下げを行うのでは、という観測が強まったためと思われる。
米国10年債

債券市場取引前にあったChallenger, Gray & Christmas発表を受け、次回FOMCでの利下げ観測が強まったことで利回りは低下(債権買いが進んだ)。結局

前日のADP雇用統計を受けて上昇した利回り分がほぼ相殺され、11月4日終値と同程度の利回りに戻っている。
ドル円為替

Challenger, Gray & Christmasの発表があった米東部標準時7:00は上記チャートのGMT(英国標準時)では12:00。
発表前は1ドル=153円台後半だったドル円為替は、次回FOMCでの利下げ確率が上昇したことから、日米金利差の縮小を意識してドル安傾向となり、1ドル=153円を割る水準に。その後はややドル高となったが1ドル=153円を挟んで方向感が定まらない推移が続いている。
まとめ
前日に堅調だったADP雇用統計とは反対に、Challenger, Gray & Christmasの米企業人員削減数は前月の約3倍増加したことで、普段は市場に及ぼす影響は限定的である発表にも関わらず市場は大きく下落。やはり米政府機関閉鎖の影響で公的機関のデータが提供されないため、今回は市場が敏感に反応したのだろう。
前日のADP雇用統計まとめの際に「今後の経済指標次第で市場が大きく可能性もある。」とは書いていたが、今回の米企業人員削減数での市場の動きを見ると、自分が思っているよりも市場はこれまであまり市場に影響を及ぼさなかった各種指標に対して敏感に反応する可能性がある。昨日書いた繰り返しになるが「まだまだ神経質な市場が続き、気の休まらない日々が続きそうだ。」。