はじめに
大まかな前提としては米国の新たな相互関税措置については
トランプ政権が新たな関税を通知/交渉期限延長(2025/7)
で整理した通り、主に4月2日にトランプ政権が米国への全輸出国に基本税率10%、対米貿易黒字の大きい約60カ国・地域を対象に個別の上乗せ税率を発表、その後数日で上乗せ関税を90日間一時停止しており、その90日間期限が切れる7月9日を前に7月7日から新たな上乗せ関税を通知し始め、適用は8月1日からとするという流れがある。
また2025年7月9日(水)には
アメリカの貿易トップ10と現在の相互関税措置概要(2025/7)
と題したまとめをしており、その中でアメリカの貿易トップ3はEU(18.3%)、メキシコ(15.0%)、カナダ(13.0%)である旨を書いていた。
そこから数日しか経過してない中、これらアメリカの貿易トップ3も含め新たな相互関税が相次いで発表されているので、以下に整理してまとめておくことにする。
2025年7月7日以降の米国の新たな相互関税措置概要
7月7日には
トランプ政権が新たな関税を通知開始/交渉期限延長(2025/7)
でまとめた日本を含めた14ヶ国に対して新たな関税が発表されている。
2025年7月8日(火)
- トランプ大統領がSNSに以下の投稿
- 関税の徴収は2025年8月1日から開始される。この日付に変更はなく、今後も変更されることはない
- 言い換えれば、全ての関税支払いは8月1日から発生し、延長は一切認められない
- 前日には8月1日の期限について、確定だが100%確定ではない、と発言していた
- トランプ大統領が閣議で以下の発言
- BRICSに加盟している国はかなり近いうちに10%の関税を課される。BRICSメンバーなら10%関税を払わなければならず、長くはメンバーにとどまらないだろう
- (関税は)近いうちに適用する
- 彼らが狙っているのはドルを破壊し、別の国の通貨を基軸(通貨)にすることだ
- (それは)戦争に負けるようなものであり、容認するつもりはない
- トランプ大統領が記者団の質問に対し以下の発言
- (銅に対する関税率について)銅には50%の関税を賦課するつもりだ
- 輸入する半導体や医薬品などに対する関税を近く発表する予定
- (医薬品メーカーに対する関税について)関税導入までに米国内に生産拠点を移転するためおよそ1年から1年半の猶予を与える
- それ以降は医薬品を国外から米国に持ち込む場合、200%といった極めて高水準の関税を課す。一定の期間を与えるが、その間に体制を整える必要がある
- (EUとの通商協議について)通商協議は進展しているが、米テクノロジー企業に対する課税や制裁金に不満がある。向こう2日以内にEUに新たな関税を通知する可能性がある
- (インドへの関税について)BRICSに参加しているインドからの輸入品に追加で10%関税を課すつもりだ
- ラトニック米商務長官がCNBCのインタビューで以下の発言
- 医薬品と半導体については今月末に調査が完了し、その後大統領が政策を決定する
2025年7月9日(水)
- 欧州連合(EU)のシェフチョビッチ委員(通商担当)が以下の発言
- 米国との交渉による解決が最優先事項
- 相互関税上乗せ分の交渉期限が7月9日から8月1日に延長されたことで時間的猶予が生まれ、EUの交渉担当者らが早期に作業を終えられることを期待している
- おそらく数日中に、満足のいく結論に達することを期待している
- トランプ大統領が以下の8ヶ国に対する新たな上乗せ関税率を順次SNSに公表
- アルジェリア:30%、4月と変わらず
- イラク:30%、4月の39%から9%減少
- リビア:30%、4月の31%から1%減少
- スリランカ:30%、4月の44%から14%減少
- ブルネイ:25%、4月の24%から1%上昇
- モルドバ:25%、4月の31%から6%減少
- フィリピン:20%、4月の17%から3%上昇
- ブラジル:50%、4月の10%から40%上昇
- トランプ大統領がSNSに以下の投稿
- 調査の結果、様々な産業にとって極めて重要な資源の国内生産を守るために関税が必要だと結論付ける強固な評価を受け取った
- 銅は半導体、航空機、船舶、弾薬、データセンター、リチウムイオン電池、レーダーシステム、ミサイル防衛システム、そして我々が多数製造している極超音速兵器にも必要だ
- 銅に対する50%の関税を8月1日に発動する
2025年7月10日(木)
- トランプ大統領がNBCニュースのインタビューで以下の発言
- 全ての国が書簡を受け取る必要はない。それは分かっているはずだ。われわれは関税を設定しているだけだ
- 20%であろうと15%であろうと残りの全ての国が支払うことになる。今から決める
- トランプ大統領がカナダに対する新たな上乗せ関税率をSNSに公表
- 35%、3月の25%から10%上昇(カナダとメキシコには3月から関税賦課開始。ただし米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に含まれるものは対象外)
2025年7月12日(土)
- トランプ大統領がEU、メキシコに対する新たな上乗せ関税率をSNSに公表
- EU:30%、4月の20%から10%上昇
- メキシコ:30%、3月の25%から5%上昇(カナダとメキシコには3月から関税賦課開始。ただし米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に含まれるものは対象外)
まとめ
以上トランプ政権の新たな上乗せ分相互関税に関する情報について整理してみた。
ただこの期間中の市場(S&P 500)の動きを見てみると
上下動はあるものの、新たな関税の通知を開始した7月3日(木)の6,279.35から7月11日(金)の6,259.75へと僅か0.31%の下落に留まっている(ドル円為替はそれなりにドル高に振れたが)。期間中は上記チャートではそれなりに動いている様にも見えるが、7月7日に1%を超える下落局面があっただけで、均してみると1%強の下落から0.5%程度の上昇と変動幅はそれ程大きくない。
これがいわゆる「Trump Always Chickens Out(トランプはいつもビビってやめる)」という市場の見方なのかどうかは定かではないが、少なくとも今のところ市場は上述の様に思ったよりも落ち着いた動きを見せている。
ただ米国との貿易割合の大きいEUとメキシコに対する関税30%措置は、7月12日(土)に発表されており、それが市場にどの様な影響を与えるかは不透明。7月14日(月)の市場の動きには要注目。
そして8月1日に予定されている米国の新たな関税は最終的にどういう形になるのだろうか。4月の時の様な自分の資産の大幅下落は避けて欲しいものだが、現時点では想像もつかず不安は募るばかりである。