はじめに
2025年6月の第1週は、5日(木)までに様々な経済指標の発表があったのだが概ね米国株式市場に与える影響は軽微だった。
そんな中、6日(金)の米労働省労働時計局発表の米雇用統計は、急速に変化する貿易環境下で労働市場がどうなっているかを初めて現実的に示すものとして市場からの注目度が高かった。実際、米雇用統計を受けて市場は大きく変動したのだが、以下6月第1週に発表された経済指標を簡単にまとめると共に、出来事及び市場の推移についても確認しておくことにする。
2025年6月第1週に発表された主な米経済指標
【2025年6月2日】
- ISM製造業購買担当者景気指数(PMI)(5月)
- 製造業購買担当者景気指数は48.5、市場予想の49.3を下回っている
- サブ指数である供給者納期指数(Supplier Deliveries Index)は56.1
ISM(Institute for Supply Management)が発表する製造業購買担当者景気指数(PMI)は50が景気拡大・縮小の分岐点になると言われており、指数の低下は3ヶ月連続。
供給者納期指数は50を超えると納入が遅延していることを示すと言われており、納入期間の長期化は通常好景気と関連しているのだが、今回の長期化は関税の影響でサプライヤーの納入に時間がかかっており、一部商品の供給不足が迫っている可能性を示唆している。
【2025年6月3日】
- JOLTS(Job Openings and Labor Turnover Survey:雇用動態調査)
- JOLTS求人件数は19万1000件増の739万1000件、市場予想の710万件を上回っている
- JOLTS解雇件数は19万6000件増加し178万6000件。増加幅は昨年7月以来の高水準
米労働省が発表するJOLTS求人件数は市場予想を上回った一方解雇件数も増加しており、関税の方針が二転三転しているため、企業が将来の計画を立てるのが難しくなっていることが原因とされている。
【2025年6月4日】
- ADP(Automatic Data Processing)民間雇用統計
- 5月の米民間雇用者数は3万7000人増、市場予想の11万4000人増を下回っている
- ISM非製造業指数(PMI)(5月)
- 非製造業総合景況指数は49.9で、市場予想の52.0を下回っている
- サブ指数である新規受注指数は前月比5.9低下の46.4
- サブ指数である事業活動指数は前月比3.7低下の50.0で5年ぶりの低水準
- サブ指数である仕入れ価格指数は68.7に上昇し、2022年11月以来の高水準
ADPの発表文では「年初は力強いスタートだったが、雇用は勢いを失いつつある」と指摘され、増加幅は2023年3月以来の低水準。
またISMの発表文では、全体の指数は「深刻な縮小を示すものではなく、むしろ調査対象者が言及している不確実性を反映している」とし、「関税を巡る長期的な不透明感により、予測や計画の策定が困難との声が回答者から引き続き寄せられており、影響がより明確になるまで発注を遅らせたり抑制したりしているとの報告も相次いでいる」と述べている。
【2025年6月5日】
- 米新規失業保険申請件数
- 5月31日までの1週間の新規失業保険申請件数(季節調整済み)は前週比8000件増の24万7000件、市場予想の23万5000件を上回っている
米労働省が発表した最新の規失業保険申請件数は、2週連続で増加し、昨年10月以来7ヶ月振りの高水準。休日が含まれる週(メモリアルデーの祝日あり)の申請件数は振れ幅が大きくなりやすいが、ブルームバーグによると週ごとの変動をならした新規申請の4週移動平均は、23万5000件に増加しており、これも昨年10月以来の高水準とのこと。
トランプ政権の関税政策と不確実性を受けて労働市場の状況が悪化していることを示している可能性があると市場は受け止めている。
【2025年6月6日】
- 米雇用統計
- 失業率は4.2%と前月と変わらず、市場予想も4.2%
- 非農業部門雇用者数(事業所調査、季節調整済み)は前月比13万9000人増、市場予想の12万6000人増を上回っている
米労働省労働統計局が発表した5月の非農業部門雇用者数は前月の14万7000人増から減速したが市場予想を上回る結果で、関税措置の不確実性を背景に鈍化したものの堅調な賃金上昇から経済拡大が当面続くとの見方から米連邦準備制度理事会(FRB)が利下げ再開を遅らせる可能性が強まると見られている。
2025年6月第1週の米市場の動き
米国株式市場
2025年6月第1週の米主要株式3指数の推移をS&P 500中心に見てみると、週間ではいずれも1%を超える上昇。既述の様に6月第1週には市場に重視される経済指標の発表が毎日あったのだが、いずれの指数も1%を超える上下動があったのは6月6日(金)のみ。
6月2日はISM製造業購買担当者景気指数(PMI)が市場予想を下回ったことや、前週にトランプ大統領が鉄鋼・アルミニウムへの関税を従来の25%から50%に引き上げることを表明したことなどから前日比下落してスタートしたが、終盤に米中首脳が週内に電話会談の可能性と報じられたことで前日比やや上昇。
6月3日はJOLTS(雇用動態調査)の結果はまちまちだったものの、ホワイトハウスがトランプ大統領が中国の習近平国家主席と週内にも電話会談するとしたことや、相互関税の上乗せが課せられる貿易相手国に対して4日までに最善の貿易交渉案を提示するよう求めるレターを送付したことなどから、関税交渉の進展加速への期待から前日比やや上昇。
6月4日は米の鉄鋼・アルミニウム関税50%措置が発動し、ADP民間雇用統計、それに続いて発表されたISM非製造業指数がいずれも市場予想を下回ったが、株式指数はほぼ横ばい。
6月5日は米新規失業保険申請件数が市場予想を上回る増加で下落して始まり、米中首脳電話会談が実施されたことが好感された一方、最近イーロン・マスク氏がトランプ大統領が推進する予算法案に対して公然と抗議していたのに対して、トランプ大統領がホワイトハウスで記者団に対し「イーロンと私は素晴らしい関係だった。今後もそうなのかは分からない。驚いた(Elon and I had a great relationship. I don’t know if we will anymore. I was surprised)」などと発言し、その後マスク氏がSNSに「Whatever.(どうでもいい)」と投稿したことでテスラ株(TSLA)が14%下落したため、方向感に欠ける動きだったが最終的には全指数とも前日比下落。
6月6日は冒頭に挙げた理由で注目されていた米雇用統計の非農業部門雇用者数が市場予想を上回ったことで、雇用市場が減速はしているものの堅調であり、FRBの利下げが早くても9月との見方が強まったことで株式指数はいずれも1%を超える上昇で終えている。
米国10年債
6月2日、3日は狭いレンジで動きはあったものの前日比では大きく利回りは変わらず。
4日は株式市場とは異なり、ADP民間雇用統計/ISM非製造業指数が材料視されて9月の利下げ観測が強まったため利回りは大きく低下(債権が買われた)。
5日は株式市場と同様方向感に欠ける動きだったがやや利回りは上昇。翌6日の米雇用統計を控えて取引が活発化しなかった可能性もある。
そして6日は米雇用統計で底堅さが見られたことで債券市場から株式市場に資金が流れたと思われ債券利回りは上昇(債権売り)、そして株式市場は上昇となったのだろう。
ドル円為替
ドル円為替チャートはGMT+1と時差があり、24時間取引をしていることから米株式/債券と1週間のタイミング併せるのは難しいでポイントだけに絞っておく。
上記チャートの6月3日で1ドル=143円前後から144円前後までドル高となったのは、関税交渉の進展加速の期待が高まったためだろう。
上記チャートの6月4日で1ドル=144円台から142円台後半までドル安となったのは、株式市場とは異なり債券市場と同様にADP民間雇用統計/ISM非製造業指数が材料視されたため。
その後対円では緩やかに上昇しているが、ドルユーロでは欧州中央銀行(ECB)が利下げを実施したことで対ユーロに対してドル安となっている。
そして6月6日には米雇用統計の結果から、米連邦準備制度理事会(FRB)は利下げを急がず早くても9月からとの見方が強まり、日米金利差が意識され1ドル=144円台後半での動きとなっている。
まとめ
以上2025年6月第1週の主な経済指標と出来事、市場の動きについて整理してみた。
2025年6月第1週には上述してきた様々な米経済指標の発表、そして出来事があった割には市場の動きは自分が思ったよりも激しくは無かった。週間ではNASDAQ総合が2.13%、S&P 500が1.48%、ダウ工業平均が1.15%上昇に留まっており、それも6日(金)の1日に拠る所が大きい。
この6月第1週に顕著な様に、どうもここ最近の米国市場は経済指標や各種出来事に対して以前の様に敏感に反応するのではなく、その影響が明確になるのを待つ/様子見するという姿勢が強まっている気がする(考えてみるとFRBの政策金利に関するスタンスもそれに近いものがあるかもしれない)。年初来のS&P 500の推移を見てみると
実際この2週間程は変動幅が限定的になっている。
ただこの様子見状態は長く続くものではなく、現在はまちまちなものが多い経済指標に何らかの明らかな傾向が反映されてくる、あるいはトランプ政権の政策に顕著な影響が見込まれるものが出てくると大幅に変動する可能性を秘めていると思われる。
特に、相互関税上乗せ一時停止の90日間が切れるタイミング(7月上旬)や米EUの関税50%引き上げ延長期限が切れるタイミング(7月9日)、米中関税大幅引き下げ90日間の切れるタイミング(8月半ば)前後で一波乱ありそうな気がするし、時間が進むにつれて関税政策の影響がより経済指標に明確になってくる気もしている。
自分の予想に反してこの6月第1週の様に、経済指標等に左右されず緩やかな株価推移(もちろん上昇)が続いてくれることを願いたいが、さてどうなることだろうか。そしてそろそろ配当金生活における為替のドル安傾向も気になってきているので、ドル円為替も現在の水準程度で落ち着いてくれるといいのだがなあ。