米のカナダ、メキシコ、中国への関税発動前日の市場(2025/3)

はじめに

米国東部時間2月4日午前0時1分に発動される予定だった米国がカナダとメキシコ産の全製品に25%(カナダ産のエネルギー資源は10%の追加関税)の関税を課す措置は1ヶ月延期され、3月4日に発動される予定となっている。また中国への10%追加関税は予定通り2月4日に発動され、3月4日には更に10%の追加関税が課される予定となっている。

以下、関税措置関連の直近の動きを整理しておく。


3月4日の米国のカナダ、メキシコ、中国への関税措置発動へ向けての直近の主な動き

【2月最終週】

  • 米政権の閣僚らとメキシコとカナダの高官は、トランプ大統領が両国への関税発動を言明した期日の3月4日を前に通商協議を実施

【米国日付2月28日】

  • ベッセント米財務長官がブルームバーグTVとのインタビューで以下の発言
    • メキシコが米国の対中関税に足並みをそろえることを提案した
    • 非常に興味深い動きで、カナダも同様の措置を取れば素晴らしい意思表明となり、不公平な中国製品の洪水から北米を要塞化することができる

【米国日付3月2日】

  • ラトニック米商務長官がFOXとのインタビューで以下の発言
    • 4日にメキシコとカナダに対する関税がかけられる。正確な内容については大統領とそのチームが交渉する
    • メキシコとカナダは米国との国境の警備でまずまずの仕事をしているが、合成麻薬フェンタニルの流入は続いている
    • 中国が米国へのフェンタニル密輸を止めない限り、4日に関税を引き上げる
  • 中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報は、フェンタニルを口実に中国製品にさらに10%の追加関税を課すという米国の脅しに対抗する措置を準備していると報道。対抗措置には関税のほか、非関税措置も含まれるとみられ、農産物や食品が対象になる可能性が高いとのこと

【米国日付3月3日】

  • ナバロ米大統領上級顧問(貿易・製造業担当)がCNBCとのインタビューで以下の発言
    • トランプ大統領は関税について、実質賃金の上昇と雇用創出を伴い、米国が強く繁栄する世界を実現するための道と理解している
    • 政権が目指す規制緩和や連邦政府の縮小、エネルギー生産の拡大といった一連の計画を踏まえると、関税による米消費者への影響は軽微
  • メキシコのシェインバウム大統領は、米国がどのような決定を下してもメキシコには緊急時対応計画の準備ができている、と発言
  • ラトニック米商務長官がCNNとのインタビューで以下の発言
    • メキシコとカナダが国境警備強化で進展を示したものの、合成麻薬フェンタニル問題において一段の取り組みが必要
    • メキシコとカナダに対する関税措置を巡り引き続き検討しており、発動期限の米東部時間4日午前0時までに決定が下される
  • トランプ大統領が自身のソーシャルメディアTruth Socialに以下の投稿
    • To the Great Farmers of the United States: Get ready to start making a lot of agricultural product to be sold INSIDE of the United States. Tariffs will go on external product on April 2nd. Have fun!
      米国の偉大な農家の皆さんへ: 米国内で販売する農産物を大量に生産する準備をしてください。4月2日から対外製品に関税がかかります。楽しんでください!
  • トランプ大統領が記者会見で、カナダとメキシコからの輸入品に対する25%の関税について「もう決まったことだ。明日発効する」と述べ、4日から発動すると表明
    • 膨大な量のフェンタニル(合成麻薬)が米国に流入している。中国からメキシコへ、そしてカナダへ流れている
    • 彼らがすべきことは、自動車工場やその他のものを米国に建設することだ。そうすれば関税はかからない
    • (カナダとメキシコが米国への合成麻薬フェンタニル流入抑制で合意すれば関税を回避できるのかという質問に対して)両国に余地は残されていない
  • カナダのジョリー外相が記者団に対して、トランプ大統領がカナダからの全ての輸入品に関税を課すのであれば、カナダは米国の関税措置に対抗して米国の輸入製品に1550億カナダドル相当の報復関税を適用するとの考えを改めて示す
  • カナダのトルドー首相はトランプ米政権がカナダ製品に対する関税計画を実行に移した場合、カナダは1550億カナダドル相当の米国製品に25%の関税を課すと表明
    • 4日から300億カナダドル相当の米製品に関税を課し、残る1250億カナダドル相当の米製品に対する関税は21日後に発効する
    • 関税は米国の貿易措置が撤回されるまで維持する。米国の関税が停止されない場合、われわれは幾つかの非関税措置を模索するため州や準州と協議している

【米国日付3月4日】

  • 米東部時間3月4日午前0時1分に米国がカナダとメキシコ産の全製品に25%(カナダ産のエネルギー資源は10%の追加関税)の関税を、中国に更に10%の追加関税を課す措置が発動
  • 中国政府が米国産の小麦やトウモロコシに15%、大豆や牛肉に10%の追加関税を課すと発表

2025年3月3日の市場の動き

米国株式市場

米国主要3株式市場はいずれも1%を超えて大きく下落。S&P 500の日中推移を見てみると

取引開始からは前日とほぼ変わらずからやや下落で推移し、トランプ大統領のSNSへの投稿、そして14時半過ぎの会見でトランプ大統領がカナダとメキシコに予定通り関税を課すことを表明したことを受けて急速に下げ幅を拡大。ただ取引終了前にはやや値を戻して取引を終えている。

米国10年債

取引開始後は細かいレンジでの動きだったのだが、上記チャートCST(米国中部標準時)の9:00(米国東部標準時の10:00)に米供給管理協会(ISM)が発表した2月の製造業購買担当者景気指数(PMI)が50.3と景気拡大/縮小の分岐点となる50は超えたものの市場予想の50.6よりも低く、また同時刻に米商務省から発表された1月建設支出が前月比0.2%減と昨年9月来のマイナスに落ち込んだことを受けて債券利回りは低下。その後は細かい動きで取引を終えている。

債券市場の取引時間帯が米国株式市場とは異なっているため、トランプ大統領の会見は影響していない。

ドル円為替

PMI/1月建設支出の発表前からドル安の流れだったが、発表があった上記ドル円チャートのGMT15:00(米ET10:00)に1ドル=150円台後半から150円台前半へとドル安に変動。その後はほぼ変わらずで推移していたが、トランプ大統領の会見を受けて1ドル=149円台前半へと1円近くドル安に。その後日本市場開場(GMT0:00)と共に一段安となって1ドル=148円台になる局面も出たが、その後ややドル高となり1ドル=149円台半ばで推移。そしてまたドル安となりこれを書いている日本時間21:00前後では1ドル=148円台前半となっている。

トランプ大統領の会見で急速にドル安となったのは、カナダ、メキシコ、中国への関税発言に加え、日本と中国に対して以下の様な発言をしたため。

  • 日本が円を押し下げて、中国が元を押し下げれば、我々は極めて不当に不利な立場に置かれる
  • 中国の習近平国家主席や日本の首脳に電話し、米国にとって不公平であることを理由に、通貨を押し下げ続けることはできない、と話した
  • これを非常に簡単に解決する方法は関税だ。彼らがそうする(通貨安政策をとる)なら、われわれは関税で埋め合わせる

まとめ

以上の様な状況を受けて3月3日のS&P 500は2025年で最大の下落となった。そして3月4日に関税が発動された後の米国株式市場はどう反応するのか、そして関税措置は今後どうなるのかという点が注目。

これを書いている時点では、カナダ、中国は米国が発動した関税に対抗して関税を課す措置を発表しているが、特にカナダの関税が米国市場にどう影響を与えるかは不透明。カナダ、メキシコ、中国への関税措置に今後の調整余地は残されているのだろうか。

こうなってくると他の国々にも4月1日をメドとしている相互関税措置が現実味を帯びてくる。そしてその場合、最近の経済指標でインフレに加え経済減速の可能性も見えている米国市場がどうなっていくのか非常に不安。

ここでまとめた以外にもウクライナへの支援や、米予算のとりまとめ、日本に関する為替政策言及等々、今後もトランプ大統領の施策、発言の影響は避けられないのだろう。何とか自分の投資/生活に急激な悪影響が出ないことを願いたい。

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