パウエル議長のジャクソンホール講演と市場動向(2023/8)

はじめに

2023年8月24日(木)から26日(土)まで、米カンザスシティ連邦準備銀行主催の年次シンポジウム(ジャクソンホール会議)が開催されていた。

その中で25日(金)に特に注目された米連邦準備制度理事会(FRB)パウエル議長の講演が現地東部時間の10:05から行われた。

以下、パウエル議長のジャクソンホールにおける講演内容を確認し、それを受けての市場状況について整理しておくことにする。


2023年8月25日のジャクソンホール会議におけるパウエル議長の講演概要

以下は米連邦準備制度理事会(FRB)のWebサイトより引用・抜粋。

2023年のジャクソンホール会議全体のテーマは”Structural Shifts in the Global Economy(グローバル経済の構造転換)”で、パウエル議長は”Inflation: Progress and the Path Ahead(インフレーション:進捗状況と今後の道筋)”という題目で講演を行った。

講演の流れは以下の通り。

  • オープニング
  • The Decline in Inflation So Far(これまでのインフレ率の低下)
  • The Outlook(展望)
    • Economic growth(経済成長)
    • The labor market(労働市場
  • Uncertainty and Risk Management along the Path Forward(進むべき道筋と不確実性及びリスク管理)
  • Conclusion(結び)

以下に自分が気になった部分を引用・抜粋する。

  • It is the Fed’s job to bring inflation down to our 2 percent goal, and we will do so. We have tightened policy significantly over the past year. Although inflation has moved down from its peak—a welcome development—it remains too high. We are prepared to raise rates further if appropriate, and intend to hold policy at a restrictive level until we are confident that inflation is moving sustainably down toward our objective.
    インフレ率を目標の2%まで引き下げることはFRBの仕事であり、我々はそうするつもりです。 私たちは過去1年間、政策を大幅に強化してきました。インフレ率はピークから低下しており、これは歓迎すべき展開ですが、依然として高すぎます。 我々は、適切であればさらに金利を引き上げる用意があり、インフレが我々の目標に向かって持続的に低下していると確信できるまで政策を抑制的な水準に維持するつもりです。
  • As is often the case, we are navigating by the stars under cloudy skies. In such circumstances, risk-management considerations are critical. At upcoming meetings, we will assess our progress based on the totality of the data and the evolving outlook and risks.
    よくあることですが、私たちは曇り空の下星を頼りに航海しています。このような状況では、リスク管理を考慮することが極めて重要です。今後の会議では、データの全体性及び進化する見通しとリスクに基づいて進捗状況を評価する予定です。

講演ではデータに基づく分析も当然話されていたがここでは割愛。上記が気になった理由は、1つ目(オープニング)で「raise(引き上げ)」という単語を使い今後の利上げを否定しなかったこと、2つ目(Conclusion)は「critical(極めて重要)」という単語を使い今後のFOMCでデータ分析とリスク管理をより重視する姿勢を打ち出したこと。


まとめ

8月25日(金)の米国市場は

一時前日比マイナスとなる局面もあったが、その後は持ち直して最終的にはいずれも前日比プラスで取引を終えている。

下落に転じたのは現地時間10時20分ぐらいだったのだが、恐らくパウエル議長の講演が終わったタイミング(講演は約15分程度)と一致している。これは講演で今後も利上げを行う可能性に言及したためだろう。

その後上昇に転じているのは明確な理由が分からないが、利上げについてはこれまで以上によりデータやリスク管理に熟考が必要だとの姿勢を打ち出していた点が市場の警戒感を和らげた可能性はある。

また同日昼過ぎにはCNBCが地区連銀総裁にインタビューをしており、その内容が午後の上昇を促した可能性もある。

米クリーブランド地区連銀のLoretta Mester総裁

  • われわれは長い道のりを歩んできたが、インフレ率はなお過度に高水準にあるため、満足することを望まない
  • インフレ率が適時かつ持続可能な方法で低下していると確信するために、より多くの証拠を確認する必要がある
  • インフレを目標の2%に回帰させるためにおそらくまだやるべきことがある

米シカゴ地区連銀のAustan Goolsbee総裁

  • (再利上げをする必要があるかどうかとの質問)ここ2~3ヶ月のような状況が続けば、金利をどこまで上げるべきかよりも、金利をいつまで今の水準に保つべきかという議論が中心になるだろう
  • 景気後退を招くことなくインフレを沈静化させることがFRBの勝利
  • コアインフレは明確に改善したが勝利宣言にはまだ早い
  • ソフトランディングへの道筋はまだあると感じている

Mester総裁はパウエル議長に近く、Goolsbee総裁は金利引き上げよりも維持の立場に傾いているような印象。ちなみにGoolsbee総裁は2023年の金融政策への投票権を持っており、Mester総裁は投票権を持っていない(投票権を持つメンバーは12名、FOMCメンバーは19名)。

いずれにせよ米国市場の動きだけを見ると前日比プラスで取引を終えており、無難にパウエル議長の講演イベントを消化した感がする。ただし、これまで以上にデータやリスク管理に重点を置くことが予想されるので、今後の各種経済指標結果で市場が大きく動く可能性は高い。Goolsbee総裁のインタビュー内容が正となってくれると良いのだがなあ。

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