2025年1月までの米債務上限問題合意内容まとめ(2023/6)

はじめに

先日2023年6月3日(土)にはここ1ヶ月特に取り沙汰されていた米債務上限問題に関してバイデン大統領が連邦債務の上限を停止する「Fiscal Responsibility Act of 2023」に署名を行った。

前回2021年の債務上限問題の際には割とこまめに情報をまとめていたのだが、今回は2023年1月に少し触れてからはあえて特に整理をしなかった。理由としては何となく前回と同様合意に達するだろうという根拠のない期待と、日々の細かい動きの市場への影響度がどの程度か判らずその価値が不明だったため。

そこで合意が成立した現在、今回の米債務上限問題の合意内容を改めて確認し整理しておくことにする。


2023年米財政責任法(Fiscal Responsibility Act of 2023)の概要

【債務上限停止期限】

  • 債務上限(31兆4000億ドル)を2025年1月1日まで停止し、連邦政府が借り入れをできるようにする
  • 債務上限の停止は2024年末まで続くため、議会は2024年11月の大統領選挙が終わるまでこの問題に再び取り組む必要はない

【裁量的支出に上限】

  • 2024年度の国防費を除く裁量的支出を「合意済みの歳出予算調整を考慮した」ベースで今年度と「ほぼ同水準」とする

【国防費の増額】

  • バイデン大統領の2024年度予算教書に沿って、国防費は今年度の8580億ドルから8860億ドルに約3%増額する

【内国歳入庁の予算圧縮】

  • 民主党は昨年成立したインフレ抑制法で、富裕層の徴税を強化するため内国歳入庁(IRS)向けに10年間で800億ドルの予算を確保したが、今回の合意により2024年度と25年度にそれぞれ100億ドルをIRS以外の予算に振り向ける

【新型コロナ対策費】

  • 未使用の新型コロナ対策費の大部分を今回の予算合意の一部として取り崩すことで合意。未使用の資金は500億~700億ドルと推定。ホワイトハウス当局者によるとワクチンや先住民向け支援に関する項目など一部資金は維持される

【低所得者向け食料・医療保険プログラムの就労要件】

  • メディケイド(低所得者向け医療保険)について変更を行わない一方、補助的栄養支援プログラム(SNAP)と呼ばれる低所得者向け食料補助制度の受給要件として就労を求める対象年齢を現行の50歳以下から54歳以下に引き上げる

【学生ローン】

  • 学生ローンの3年間返済休止措置を終了する条項が盛り込まれ、ローン返済は8月末に再開される予定。4300億ドルの返済免除計画自体の無効化には踏み込んでおらず、この計画を巡っては現在最高裁判所が審理を行っている

【Pay-As-You-Go】

  • 歳入に影響を及ぼす政府機関の新たな措置や支出に当たっては節減によってそれを相殺することを義務付ける「ペイ・アズ・ユー・ゴー(Pay-As-You-Go)」と呼ばれる仕組みで合意。ただ、この要件を免除する権限を政権の予算局長に与えているほか、その決定に対する司法審査は制限される

主な合意内容はこんなところだろうか。この中の「医療保険プログラムの就労要件」でメディケイドの仕組みが変わり予算が削減されれば、自分が所有している製薬のブリストル・マイヤーズ(BMY)が大きな影響を受けただろう。実際ブリストル株は

債務上限問題が取り沙汰されるようになったここ1ヶ月市場に比べて低パフォーマンスとなっており(2023年第1四半期決算が良くなかったことも理由の一つだろうが)、今回の米財政責任法2023の上下院通過に応じてやや持ち直している。


まとめ

過去3ヶ月のS&P 500の動きを見てみると

5月はこの問題が重しとなっていたこともあってかあまり上昇していなかったが、5月31日の下院、6月1日での可決(いずれも取引時間外後)を受けて6月1日、2日に大きく上昇している。

ただし大統領の署名を受けての週明け後月曜、火曜は先週末と然程変わらずで、米国債務上限問題解決での市場上昇はこの程度と思われる。

逆にブルームバーグの報道などでは、今回の合意を受けて米財務省が減少していた手元資金を拡充するため大量の債券を発行しようとしており、銀行にある預金がこの購入に充てられ流動性がさらに低下する見込みで株式と債券を合わせたパフォーマンスを今後押し下げる可能性について言及されており、単純に法案が成立したからといって安心はできないかもしれない。

法案成立による上昇も限定的であり今後にも不安は残るが、ひとまずは最悪の債務不履行や市場暴落などの事態にはならず今回も債務上限問題を乗り切ったことを良しとすべきなのだろう。

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