はじめに
昨年末からエクソン・モービル(XOM)とアクティビスト投資家であるEngine No.1の委任状争奪戦(プロキシーファイト)は何度か報道されていたのだが、2020年第4四半期決算発表での環境に配慮する姿勢やその後他のアクティビストを取締役に加えるなど、エクソンがアクティビストと何とか協調していると個人的には思っていた。
ところが昨日2021年3月16日(火)の現地時間にエクソンは掲題の正式な委任状勧誘書類(definitive proxy statement)を米証券取引委員会(SEC)に提出したことを明らかにし、併せて株主へのLetterを開示している。
以下にその内容について簡単にまとめておく。
2021年3月16日のエクソンの発表
以下はエクソンの企業サイトより引用・抜粋。
発表タイトルは、
- ExxonMobil files definitive proxy and shareholder letter urging support for directors
エクソンモービルは、取締役のサポートを促す委任状勧誘及び株主への書類を提出します
となっており、説明として以下の様に加えている。
- ExxonMobil today filed its definitive proxy statement and a letter to shareholders, urging them to vote using the BLUE CARD to support the company’s 12 director nominees at its 2021 annual meeting of shareholders on May 26.
エクソン・モービルは本日、正式な委任状勧誘書類と株主宛ての書簡を提出し、5月26日の2021年の年次株主総会で、ブルーカードを使用して投票するよう促しました
そして要点として以下の3点を挙げている。
- Shareholders urged to vote using BLUE CARD to support ExxonMobil directors
株主は、エクソンモービルの取締役を支援するためにブルーカードを使用して投票するよう促されました - Investment plan to grow earnings; flexible to market conditions, benefits from cost reductions
収益を伸ばすための投資計画;市場の状況に柔軟に対応し、コスト削減のメリットを享受できます - Continued investment in lower-carbon technologies to support societal net zero ambitions
社会のネットゼロ目標をサポートするための低炭素技術への継続的な投資
その後最高経営責任者(CEO)のDarren Woods氏が上記3点を補完する説明をしているが、ここでは割愛。詳しい点についてはSECへ提出したdefinitive proxy statementと株主へのLetterで述べられており、両書類ともリンクから閲覧できる。内容は重複するところが多いのだが、ここではより直截的な株主へのLetterをまとめておく。
株主へのLetterより
- Engine No. 1, a small, three-month-old hedge fund with about an 0.02 percent ownership in ExxonMobil, wants to make big changes to our company.
エクソン・モービルの所有権が約0.02%で設立から3ヶ月の小さなヘッジファンドであるEngine No.1は、当社に大きな変化をもたらしたいと考えています - They have made false statements about our plans and strategy.
彼らは私たちの計画と戦略について虚偽の発言をしています - And they are proposing initiatives that would jeopardize our ability to generate the earnings and cash flow that we need to pay our dividend, invest in future growth and work on technologies that will be important to help tackle climate change.
彼らは、我々の配当を支払うために必要な収益とキャッシュフローを生み出し、将来の成長に投資し、気候変動への取り組みに役立つ重要な技術に取り組む能力を危うくするイニシアチブを提案しています
このLetterは11ページに渡るので全部は引用できないが、基本的には現在のエクソンの方針や取締役が適切であるので信任してください、というのがエクソンが株主に強調しているところ。
一例としてEngine No.1がしばしば言及しているエクソンの投資計画について以下の様に説明している。
- Our plan, and the value it will deliver, is being threatened by the newly formed Engine No. 1 hedge fund. Engine No. 1 is proposing that we radically reduce investment to levels that would endanger future cash flows that are needed to sustain and grow the dividend, future projects and low-carbon initiatives to support the energy transition.
私たちの計画とそれがもたらす価値は、新しく設立されたEngine No.1ヘッジファンドによって脅かされています。Engine No.1は、エネルギー転換を支援するための配当、将来のプロジェクト、低炭素イニシアチブを維持および拡大するために必要な将来のキャッシュフローを危険にさらすレベルまで投資を大幅に削減することを提案しています - To illustrate, it’s important for shareholders to know that ExxonMobil’s planned investments in new projects will generate roughly 40 percent of the company’s operating cash flow in 2025.
例えば、エクソン・モービルが計画している新しいプロジェクトへの投資により、2025年には同社の営業キャッシュフローの約40%が生み出されることを株主が知っておくことが重要です。 - Engine No.1 has not said where cash flows needed to pay the dividend will come from if we elect their directors and adopt their ill-conceived proposals.
エンジンNo.1は、彼らの推薦する取締役を選出して十分に検討されていない提案を採用した場合、配当を支払うために必要なキャッシュフローがどこから来るのかについては述べていません - To put it bluntly, we have a plan that will grow earnings and cash flow, pay and grow the dividend, fund future growth and position the company to have a meaningful role in the energy transition. Engine No. 1 does not. They’ve made false statements about our strategy. They don’t have a plan.
率直に言って、我々には収益とキャッシュフローを増やし、配当を支払い増やし、将来の成長に資金を提供し、エネルギー転換において意味のある役割を果たすように会社を位置付ける計画があります。Engine No.1はそうではありません。彼らは私たちの戦略について虚偽の発言をしています。彼らには計画がありません
また度々出てくる虚偽の発言(flase statements)については、一例として以下の2点を挙げている(温室効果ガスに関する前提資料やカバーしている範囲など)。
2021年3月16日のEngine No.1のコメント
同日発表されたEngine No.1のコメント要旨は以下の通り。
- エクソンは、平均資本利益率が低いプロジェクトへの何年にもわたる無駄な債務による支出を通じて配当を危うくしている(has jeopardized its own dividend through years of wasteful, debt-fueled spending on projects with a low average return on capital)
- 近年同社の債務は急増し、信用格付けはS&Pによって3回格下げされ、市場は同業他社よりも配当のリスクが高いとしている(debt has skyrocketed, its credit rating has been downgraded by S&P three times, and the market has ascribed a higher risk to its dividend than its peers)
- 持続可能な配当などを通じて長期的な価値を生み出すのに役立つ「成功した変革的なエネルギー経験(successful and transformative energy experience)」を持つ取締役を追加することを引き続き主張する
まとめ
最初はこのタイトルを「エクソン(XOM)が委任状勧誘書類を提出」としていたのだが、株主へのLetterを読んでいる内に、想像していたよりも直接的にEngine No.1を強い調子で非難していることを鑑みて、これはやはり「ファイト/戦」の方が適切だろうと思って変更している。
上記の出来事を受けて昨日のエクソン株は、
2.12%の下落。昨日のダウ工業平均が0.39%、S&P 500が0.16%それぞれ下落、NASDAQが0.09%上昇しているのと比べると見劣りがするが、同業他社のシェブロン(CVX)が2.37%の下落だったことを考えると、この発表はそれ程エクソンの株価に影響を与えなかったようだ。
問題は今後エクソンがどうなるかなのだが、これがサッパリ分からない。
エクソンとEngine No.1のどちらかが委任状争奪戦に勝つのか、エクソンとEngine No.1の主張している内容のどちらが正しいのか、更に言ってしまうと両社の主張/計画ともにダメなものである可能性もある。あるいは逆にどちらでもエクソンの株価/業績が上向く可能性もある。
直近半年の株価は市場を上回っているので今の施策で問題ない気もするのだが、
これにNY原油先物を加えてみると、
単に原油価格に引っ張られている様な気もする。
取り合えず現時点では、発表を受けての分析もまだなされていないので、今後行われるであろうアナリストの分析等を注意深く確認して、自分の考えを整理することにしよう。