はじめに
2026年6月半ばに
でまとめた様に米イランが停戦枠組みに関する覚書(MOU)に合意したと相次いで発表した。その後のプロセスとしては
- 現状維持と戦闘停止(これがMOU合意にあたる)
- イランの高濃縮ウラン、凍結資産解除、原油輸出再開やホルムズ海峡などに関する60日間の技術的交渉(現在この段階)
- 最終合意(包括的停戦協定)
の3段階が想定され、現在は第2段階の調整/交渉が順調とは言い難いものの、進んでいると思われていた。
しかしここ数日の出来事からトランプ大統領が掲題の発言をすることになった。以下、トランプ大統領の発言に至る経緯とその後の主な動き、それらを受けて市場がどう反応したかについてまとめておく。
2026年7月8日のトランプ大統領の「停戦は終わった」発言に関する主な動き
以下は原則米国現地時間。トランプ大統領の実際の発言には結構汚い言葉が使われており、報道では緩和された表現に変更しているものも多い。
- 2026年7月6日
- イランがホルムズ海峡で商船(タンカー)3隻を攻撃
- 2026年7月7日
- 米財務省がイラン産原油の販売ライセンスを取り消し
- 米中央軍がイランの軍事施設80箇所以上へ報復空爆を実施
- イランがクウェートやバーレーンなどの米軍関連施設を報復攻撃
- 2026年7月8日
- 北大西洋条約機構(NATO)首脳会議のため訪問中のトルコ・アンカラで、記者団に停戦の現状について問われたことへの発言抜粋(米国市場開場のかなり前)
- The memorandum of understanding with Iran is over. The MOU is dead. I don’t want to deal with Iran with those sick people running the country. They are scum, they are evil, they are violent people, and I am done dealing with them
イランとの覚書(MOU)は終わった。MOUは死んだ。あんな病んだ連中が国を牛耳っているうちは、私はイランともう関わりたくなどない。彼らはクズであり、邪悪で、暴力的な連中だ。これまでの関わりは、もうおしまいだ - They can keep talking if they want to talk, but I don’t see anything. I think they are liars and they are cuckoo
話を続けたいなら勝手にさせればいいが、私には何の見込みもないと思える。彼らは嘘つきで、イカれている - If they had nuclear weapons, they’d use them, you know it. That’s why it’s over
もし彼らが核兵器を手に入れたら、間違いなくそれを使うだろう。だからこそもう終わりだ - They attacked tankers in the Strait. You can’t do that and think a ceasefire stands. We hit them hard, and they know it
彼らは(ホルムズ)海峡でタンカーを攻撃した。そんなことをしておいて、停戦が続いているなどと思えるわけがない。我々は彼らに思い知らせた(空爆した)し、彼らはそれをよく分かっているはずだ - Until they completely change their behavior and are ready to stick to their word, there is no dialogue, there is no framework. We will continue to do whatever it takes to protect our country and our allies
彼らが完全に態度を改め、約束を厳守する用意ができるまでは、いかなる対話も枠組みも存在しない。我が国は自国と血盟国を守るために、必要なあらゆる措置を執り続ける
- The memorandum of understanding with Iran is over. The MOU is dead. I don’t want to deal with Iran with those sick people running the country. They are scum, they are evil, they are violent people, and I am done dealing with them
- NATOルッテ事務総長との会談冒頭のトランプ大統領の記者団に対する発言(米国市場開場直前)
- (全面戦争に)戻るとは思わない(I don’t think it’s going to start again)
- (米軍の攻撃は)すぐに終了するだろう。イランが数隻の船を攻撃したので、われわれはさらに強く反撃した。石油産業を含め、より安全な状況になるだろう
- イランには指導者がいたが、彼らは立ち去り、今は別の指導者がいるが、彼らもいなくなるかもしれない
- 私自身もいなくなるかもしれない。私はイランの暗殺リストの1位だから
- NATOルッテ事務総長との会談終了後のトランプ大統領の記者団に対する発言(米国市場昼頃)
- 我々は昨夜非常に激しく相手の20倍の強さで叩いた(We hit them very hard last night, very hard. I would say 20 to one, 20 times tougher)
- 今夜も激しく攻撃するだろう(Probably tonight we will hit them very hard)
- 私にとっては、(イランとの停戦了解覚書は)もう終わった。相手にするのは時間の無駄だ。だが、もし彼らが望むなら、話し合いを続けても構わない。交渉団は自分たちの仕事を続ければいい。どうなるか見てみよう(For me, I think it’s over. It’s just a waste of time. But they can keep talking if they want. The negotiators, they can keep doing their work, we’ll see what happens)
- NATO首脳会議終了後の記者会見におけるトランプ大統領の発言(米国市場閉場後)
- 直近の戦闘は、全面的な戦争への逆戻りを意味するものではない(The most recent fighting does not mean a return to full-scale war)
- 何が起きるにせよ非常に迅速に進む。我々は長期戦を望んでいない(Anything that happens is going to happen very fast. We’re not looking for long-term)
- 北大西洋条約機構(NATO)首脳会議のため訪問中のトルコ・アンカラで、記者団に停戦の現状について問われたことへの発言抜粋(米国市場開場のかなり前)
- 2026年7月8日夜~9日
- 米中央軍がイラン沿岸部を中心に約90の軍事標的(防衛システム、ミサイル・ドローン保管庫、沿岸監視施設など)を破壊
- イランのイスラム革命防衛隊(IRGC)も報復攻撃を実施
同日の市場の動き
米国主要3株式指数

トランプ大統領の「停戦は終わった」発言や米軍の攻撃再開を受けて米主要3株式指数はいずれも下落してスタート。午前中は下げ幅を拡大していたが、昼頃からトランプ大統領の交渉継続を示唆する発言のためか下げ止まり。S&P 500とNASDAQ総合は下げ幅を縮小したが、ダウ工業平均は下げ止まったレベルで取引を終えている。
S&P 500とNASDAQ総合が下げ幅を縮小、NASDAQ総合に至っては僅かながらプラスに転じたのは同日のフィラデルフィア半導体指数(SOX)が2.19%上昇したことが大きい。ここ最近下落していたのだが、ブロードコム(AVGO)がアップル(AAPL)による300億ドルの巨額投資コミットメントを受けたとの発表や、買い戻しの動きがあったことが上昇の原因。
ただS&P 500構成銘柄全体では値下がり銘柄数が値上がり銘柄数を3.5対1の比率で上回っており、11主要セクターのうち情報技術、エネルギーを除いた9セクターも下落となっている。
米国10年債

トランプ大統領の「停戦は終わった」発言や米軍の攻撃再開を受け、地政学リスクの高まりから比較的安全資産とされる債券に買いが集まる(利回り低下)かと思ったが、前日比利回り上昇で取引開始。これは地政学リスクよりもエネルギー価格高騰によるインフレ圧力の高まりが市場により重視されたためだろう。
利回り上昇はしばらく続いたのだが、S&P 500やNASDAQ総合が下げ幅を縮小したタイミングで債券利回りもやや低下傾向となり、そのまま取引を終えている。また昼に発表された財務省が実施した10年債入札が堅調な結果となったことも影響しているだろう。
ドル円為替

それまでややドル高傾向にあったが米軍の再攻撃報道を受けて1ドル=162.4円位からややドル安傾向になり1ドル=162.1円を割り込む水準へ。その後トランプ大統領の「停戦は終わった」発言が報道されると再びドル高へと転じ、162円半ばを中心に方向感が定まらない動きが続いている。
ただ中東情勢、インフレ圧力、FRBの利上げ時期などを睨んで変動幅はそれ程大きくはない。
ニューヨーク原油先物価格

米軍の攻撃再開やトランプ大統領の「停戦は終わった」発言が報道され始めると、それまでの1バレル=72ドル台から75ドル台へと上昇。その後は各種状況のアップデートにより主に1バレル=73~75ドルのレンジで方向感の定まらない動き。
ちなみに自分の所有銘柄であるエクソン・モービル(XOM)は原油先物価格が上昇して同業他社が上昇した中、下落している。

これは前日7月7日の米国市場閉場後にエクソンが米証券取引委員会(SEC)に提出した書類によると2026年第2四半期の業績予想を若干下方修正したためだろう。これに伴いUBSはエクソンの2026年第2四半期の1株当たり利益予想を従来の3.20ドルから約3.14ドルに下方修正している。
まとめ
以上、トランプ大統領の「停戦は終わった」発言と米国市場の動きについてまとめてみた。
寝る前に覚悟していた様な株式市場急落とはならず、NASDAQ総合に至っては僅かながら上昇して終えている。ただ上述した様に半導体銘柄の上昇に助けられた部分が大きく、S&P 500構成銘柄で値下がり銘柄数が値上がり銘柄数を3.5対1の比率で上回ったことを重視すべきだろう。
株式市場以外の債券、ドル円為替、ニューヨーク原油先物価格も思ったほど顕著な反応とはなっていないが、事態の見極めのための様子見の側面もあるだろうし、事態そのものがどうなるかは極めて不透明であるので、状況の推移とそれに伴う市場の動きには注意していきたい。
ちなみに自分の米国株資産は

と半導体を含む大型ハイテク銘柄がないこと、通常なら原油高により上昇するであろうエクソン株が上述の理由で下落したこともあり、市場よりかなり悪いパフォーマンス。昨日まとめた
で懸念していた200万ドル割れとはならなかったものの、状況の不透明さからすると200万ドル割れの可能性はやはり高いまま。キリが良い数字を割り込んでしまうと、どうしても精神的なショックはあるのだが、自分の投資スタンスはあくまでバイアンドホールド/長期投資である事を思い出し、過度に悲観することが無い様にしたい。年初からはまだ20万ドル位プラスだもの。