米雇用統計遅れで注目の米ADP雇用統計と市場(2025/12)

はじめに

現地日付2025年12月3日(水)には、米ADP Research Instituteから11月の全米民間雇用統計が発表された。

前月11月発表の10月全米民間雇用統計の際は、まだ米2026会計年度のつなぎ予算案が成立せず政府機関の閉鎖が続いていたため雇用関係のデータはほとんど提供されていない状況だったため、雇用市場を把握できる数少ないデータとして注目されていたが、結果は市場予想を上回る内容で市場は比較的落ち着いた動きだった。

しかしその翌日、米民間再就職支援会社Challenger, Gray & Christmasが発表した米企業による10月の人員削減数が急増したため市場は下落傾向。その後11月12日に米つなぎ予算が可決/承認されたのだが、政府機関閉鎖の影響でFRBの政策金利の重要な材料となる10月の雇用統計と消費者物価指数(CPI)が公表されない/一部に留まる/信頼性が損なわれる可能性が顕在化して市場は急落し株式市場は下落傾向となった。実際通常12月初旬に発表される米雇用統計(11月)は12月16日に延期されている。つまり12月9、10日開催のFOMCに間に合わないことになる。

この流れが続くかと思われたのだが、11月21日にニューヨーク地区連銀John Williams総裁の講演内容を受けて12月FOMCでの利下げ確率が1日で30%急上昇して市場も上昇し、11月はその流れが続いていた。

この様な状況の中で、今回の米ADP雇用統計がどの様な内容で、それが12月FOMCでの金利にどのような影響を与えるかを判断する材料として注目されていた。以下、11月のADP雇用統計結果及び市場がどう反応したかについて確認し、整理しておく。


2025年12月3日ADP Research Institute発表の2025年11月米民間雇用統計

以下の情報は米ADP Research Instituteの発表資料より引用・抜粋。

  • 2025年11月の米民間雇用者数(速報値)は3万2000人減(前月速報値は4万2000人増、確定値は4万7000人増)、市場予想は1万人増
  • 2025年11月の米民間労働者賃金は4.4%増(前月は4.5%増)

ADPチーフエコノミストNela Richardson氏のコメント

  • 2025年後半の雇用創出は横ばいとなり、賃金上昇率は低下傾向にある
  • 消費者の慎重な姿勢と不透明なマクロ経済環境を企業が乗り越えるため、雇用はここ最近不安定な状況が続いている
  • 11月の景気減速は広範囲に及んだが、中小企業の落ち込みが主な要因だった
  • 11月の雇用は、製造業、専門サービス・ビジネスサービス、情報サービス、建設業で特に低調だった

同日のその他発表等

米供給管理協会(ISM)が11月の非製造業(サービス)総合指数を発表

以下は米ISM(Institute for Supply Management)の発表資料より引用・抜粋。

  • ISM非製造業総合景況指数は52.6、市場予想の52.1を上回っている(前月は52.4)

ISMのSteve Miller委員長のコメント

  • 事業活動指数と新規受注がほぼ拡大圏で推移していることや、受注残が2月以来の高水準となっており、サービス業が回復し始めている前向きな兆候だ
  • 入荷遅延が増加したのは、政府閉鎖に伴う航空便の混乱や、関税変更に伴う税関手続きの影響が原因となった公算が大きい

50が経済活動拡大と縮小の境目と言われている。

マイクロソフトがAI製品の売上成長目標引き下げとの報道

以下は米国株式市場開場前にハイテク系ニュースサイト「The Information」が関係者の話として報道した内容より引用・抜粋。

  • マイクロソフトの複数部門は、6月に終了した会計年度で多くの営業担当者が特定のAI製品の販売目標を達成できなかったことを受け、担当者に課していた販売拡大のノルマを引き下げた
  • 投資ファンドのカーライル・グループ(CG)は昨年、会議の要約や財務モデルなどのタスクを自動化するためマイクロソフトのAIエージェント作成ツール「Copilot Studio」の使用を開始したが、他のシステムからデータを確実に統合させる上で課題があるとして、同製品への支出を削減した
  • クラウドサービス「Azure」の米販売部門の一つは、AIアプリケーション構築ツール「Foundry」への顧客の支出を前年度に50%増やすという目標を営業スタッフに設定したが、達成した担当者は2割に満たず、同社は7月に今年度の目標を前年比約25%増に引き下げた

報道を受けてのマイクロソフト広報担当者の声明

  • 成長と販売ノルマという概念を不正確に結びつけており、営業組織の仕組みや報酬体系への理解不足を示している
  • AI製品の販売ノルマ全体を引き下げてはいないことは、記事掲載前に先方に伝えていた

同日の市場の動き

米国株式市場

米国市場開場前に米ADP民間雇用統計の発表とマイクロソフトの報道があり、ADP雇用統計では民間雇用者数が予想を下回ったことで12月のFOMCで雇用テコ入れのために利下げが行われるという見通しが変わることは無かったのだが、マイクロソフトの報道が重しとなりAI関連銘柄が軟調なスタート。しかし米国市場取引中にISM非製造業総合景況指数が堅調であったこと、マイクロソフトが報道を否定したこともあってかAI関連銘柄もやや持ち直し、最終的にはいずれの指数も前日比プラスで終えている。

ちなみにCMEフェドウォッチツールによると現時点での12月FOMC利下げ確率は

  • 12月3日の12月FOMCでの0.25%利下げ確率:89.0%
  • 1日前の12月FOMCでの0.25%利下げ確率:88.4%
  • 1週間前の12月FOMCでの0.25%利下げ確率:83.4%
  • 1ヶ月前の12月FOMCでの0.25%利下げ確率:66.8%

となっている。

米国10年債

米国市場が開場する米国東部標準時9:30は上記チャートのCST(米国中部標準時)では8:30。

前日比で利回りが低下して取引が始まったのはADP雇用統計で民間雇用者数が予想を下回ったことで12月のFOMCでの利下げが改めて有力視されたためだろう。その後一時前日と同程度の利回りまで上昇する局面もあったが、最終的に開場直後の利回り水準で取引を終えている。

ドル円為替

米国市場が開場したのは上記チャートのGMT(英国標準時)では14:30。

ADP雇用統計発表の時点では方向感が1ドル=155円半ばで方向感が定まらない動き。米国市場開場後ISM非製造業総合景況指数が発表された辺りからややドル安傾向となり、1ドル=155円位まで。その後は1ドル=155円台前半での推移が続いていたが、日銀が12月18、19日開催の金融政策決定会合で追加利上げに踏み切るとの観測報道を受けて1ドル=154円台後半までドル安が進んでいる。


まとめ

以上、米ADP雇用統計を中心に12月3日の出来事とそれらを受けての市場の動きについてまとめてみた。

ADP雇用統計で労働市場の軟調さ、ISM非製造業総合景況指数で経済の堅調さが伺われたことで、12月のFOMCで労働市場のテコ入れのために利下げが行われるだろうという市場の認識は変わらず強化されたということになるのだろう。

ただマイクロソフトに関する報道がAI関連銘柄への重しとなったため、米株式市場は思ったよりも上昇しなかった。この報道がなければ米株式市場はもっと上昇していたと思われる。

いずれにせよ、注目されていたADP雇用統計をまずまず無難に乗り切り、12月FOMCでの利下げ見通しが強まった訳だが、12月9、10日開催のFOMCまでには12月5日(金)に米個人消費支出(PCE)が発表される予定。そのPCEはFRBが重要視する公的機関(米商務省経済分析局(BEA))のインフレデータではあるが、政府機関閉鎖の影響で9月分の発表(10月分は無し)となるため、どの様な内容でどの様な影響が市場に出るのかは今一つ不透明。今回のADP雇用統計と同様に穏当にイベントを乗り越えて、12月FOMCで市場予想の通り利下げが行われて市場に大きな変動がないことを期待したい。

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