つなぎ予算不成立による米政府機関閉鎖と米国市場(2025/10)

はじめに

米国では2026会計年度(2025年10月~2026年9月)の予算が未成立のため、10月1日から政府機関の一部が閉鎖に追い込まれるのを避けるために、つなぎ予算を成立させる必要があったのだが、米国時間2025年9月30日(火)の期限まで成立とはならず、一部政府機関が閉鎖されることとなった。

以下、つなぎ予算が不成立となった経緯とその直後の米国市場の動きについて整理しておく。


米2026会計年度つなぎ予算案不成立の経緯

以下は米現地時間順の時系列で主な出来事をまとめたもの。米下院の定数435のうち共和党220、民主党212、欠員3で法案成立には過半数が必要、米上院の定数100のうち共和党53、民主党45、無所属2で上院での法案成立にはフィリバスター(議事進行妨害)を避けるため定数の3/5、つまり60票が必要となる。

2025年9月17日

  • 米下院で共和党が提案していた11月21日までの政府機関閉鎖を回避するつなぎ予算案を審議する事が賛成216票、反対210票の賛成多数で承認
  • ホワイトハウスは、民主党が共和党の党派的法案として拒否している同案を支持する声明を発表
  • 民主党は10月31日まで政府を維持するための独自案を発表
  • 民主党のシューマー上院院内総務のコメント
    • (我々の案は)超党派の妥協案のたたき台となる可能性がある
    • あと2週間ある。彼らは我々と話し合うべきで、良い案が得られるかもしれない。様子を見よう

2025年9月19日

  • 米下院で11月21日までの政府機関閉鎖を回避するつなぎ予算案が賛成217票、反対212票で可決
  • 米上院では賛成44票、反対48票で否決
  • 上述した民主党の対案も上院で賛成47票、反対45票で否決

この時点で上院は今後1週間の休会を予定。下院も10月1日以降まで休会を続ける計画。

2025年9月23日

  • トランプ大統領がつなぎ予算案を巡る民主党議会指導部との会合をキャンセル
  • トランプ大統領のSNSへのコメント
    • 民主党議会指導部と会わないことが、生産的(な結果)になる可能性があると決断した
  • 民主党シューマー上院院内総務の声明
    • 民主党は政府閉鎖を避ける用意がある。トランプ氏と共和党は米国を人質にしている

2025年9月24日

  • ホワイトハウスの行政管理予算局(OMB)は、各省庁に対して閉鎖時に誰が休職となるかを明記した対応計画を修正するよう指示
    • 義務的支出で賄われないプログラムが、閉鎖の矢面に立つことになる
    • 政府機関が閉鎖になれば、トランプ氏の優先課題に沿わない政府プログラム職員の広範な解雇につながる

2025年9月28日

  • ロイターのインタビューにおけるトランプ大統領のコメント
    • 合意に至らなければ国は閉鎖される
    • だから(民主党は)対応したいと思っているという印象を受ける

2025年9月29日

  • 民主党シューマー上院院内総務、民主党ジェフェリーズ下院院内総務がトランプ大統領および共和党指導部と政府閉鎖の回避に向けた会合を実施したが、合意には至らず
  • バンス米副大統領の会合後コメント
    • (民主党は)アメリカ国民の頭に銃を突きつけている(a gun to the American people’s head)
    • 民主党が正しいことをしようとしないため、政府閉鎖に向かっていると思う
    • 考えを改めてほしいが、どうなるか見ていくことになる
  • 民主党のシューマー上院院内総務の会合後コメント
    • 最終的には彼(トランプ大統領)が決定権者だ
    • そして、もし彼が我々の求めているもの – 医療保険制度や予算削減について、アメリカ国民が支持していると考えているもの ₋ のいくつかを受け入れてくれれば、政府閉鎖は回避できるだろう
    • しかし、我々の間には引き続き大きな隔たりがある
  • 米労働統計局(BLS)を管轄する労働省は、政府機関が閉鎖された場合BLSは全ての業務を中断し、データ収集も停止すると発表
    • これにより10月3日の9月雇用統計を含め予定されているデータの公表は延期される

2025年9月30日

  • 米労働省は政府機関が予算切れにより一部閉鎖となった場合、週間失業保険申請件数報告の発表を取りやめると発表
  • トランプ大統領がホワイトハウスで記者団に対し以下のコメント
    • おそらく政府閉鎖になるだろう
    • 我々は彼ら(民主党)にとって不都合なこと、不可逆的なことをすることができる
    • 政府閉鎖中に(民主党にとって重要なプログラムの停止など)取り返しのつかないことを行うことが可能だ
    • 政府を閉鎖するのは絶対に避けたいが、閉鎖によって多くの良いことが生まれる可能性がある
    • 我々が望んでいない多くのものを廃止できる。そして、それらは民主党の政策となるだろう
  • 米上院で民主党、共和党のつなぎ予算案がいずれも否決される
    • 共和党案は賛成55、反対45で否決
  • 採決後の共和党のスーン上院院内総務のコメント
    • 上院民主党は党派的な利益のために米国人を犠牲にした
    • 下院で可決済みの法案を上院で週内に再度採決にかける
  • 採決後の民主党のシューマー上院院内総務のコメント
    • 共和党が米国民を政府閉鎖に突き落とした

2025年10月1日

  • 10月1日となり一部米政府機関閉鎖が開始
    • 不可欠な業務は維持されるが、国民向けの公共サービスの多くが停止
  • 格付け会社のコメント
    • フィッチ
      • 米国の規制環境、法の支配、制度的チェック・アンド・バランスを巡る動向を引き続き評価する
      • 米政策を巡る不確実性が高まり、チェック・アンド・バランスが損なわれる可能性があるにもかかわらず、予見可能な将来において米ドルの基軸通貨としての優位な地位は続く見通し
    • S&Pグローバル・レーティングス
      • 政府機関閉鎖は一般的に経済全体への影響がわずかで、米ソブリン格付けの信用イベントとは見なさない
      • ただし、一時帰休の労働者が支出を減らしたり、重要経済指標の遅延により米連邦準備理事会(FRB)の政策の不透明感が増すなど、時間とともに影響が蓄積される
      • 政府閉鎖が1週間続くごとに成長率が0.1~0.2%押し下げられると試算
    • 米上院で民主党、共和党のつなぎ予算案の採決を実施するがいずれも否決される

今後のつなぎ予算案の採決に関連する事項として、ユダヤ教の贖罪の日に合わせて10月1日夕方から2日夕方まで上院は一時休会される点がある。


2025年10月1日の米国市場の動き

米国株式市場

つなぎ予算案が成立せず政府機関閉鎖が始まるも小幅上昇。これで主要3指数は9月26日発表の米個人消費支出(PCE)価格指数イベントから4営業日連続で上昇したことになる。

政府機関が10月3日までに再開されなければ、労働省の9月雇用統計発表が延期される見通しの中、市場は最近軟調となっている労働市場に関するデータとしてADPリサーチ・インスティテュートが同日発表した9月の全米雇用報告に注目していた。

結果は民間雇用者数は市場予想の5万人増に反して3万2000人減少し、2023年3月以来最大の落ち込みとなり、その影響もあってか前日比マイナスでスタートしたものの最終的にはいずれも上昇して取引を終えている。今回のADP雇用統計も次回FOMCでの有力視されている利下げを損なうものではないと受け止められたのだろう。

市場は政府閉鎖による不確実性をとりあえずパニックにならずに受け止めているようだが、S&P主要11セクターのうち、7セクターは前日比マイナスとなっており、業種によってバラツキは見られる。

米国10年債

米債券市場は開場と共に利回りが低下して始まり、概ねそのレベルでの推移のまま取引を終えている。

米政府機関の閉鎖、ADP雇用統計が市場予想に届かなったため市場と経済への影響を巡る不透明感から債券が買われた(つまり利回り低下)ものと思われる。

ドル円為替

過去数日、政府機関閉鎖の可能性が高まり、実際に閉鎖となった流れのままに1ドル=149円台後半からドル安傾向が続き、これを書いている日本時間10月2日21時前後では1ドル=146円台後半まで下落が続いている。今の所はドル安の流れが止まらない状況に見える。


まとめ

以上、米2026会計年度のつなぎ予算案が期限の2025年9月30日までに成立しなかった経緯とそれを受けて一部政府機関閉鎖が始まった10月1日の米国市場の動きについて整理してみた。

意外にも米国市場は比較的落ち着いた動きとなったが、今後どうなるかは未だ不透明。

また政府機関閉鎖に伴い、上述した様に10月3日に発表が予定されていた9月雇用統計や週間失業保険申請件数報告が延期されることになった。これらのデータはFRBが政策金利を決定する際に重視するとされるデータであり、特に雇用統計は先週まとめた

2025年9月発表の米個人消費支出(PCE)価格指数と市場の動き

で「そうなると気になるのは次回10月3日発表予定の米雇用統計で、ここで改めて労働市場の軟調さが際立つと一波乱あるかもしれない。何とか労働市場が堅調に向かう兆しが伺えるといいのだが。」と書いており、FRBはFOMCにおいて政策金利決定に際してデータを重視する姿勢を取り続けているため、FRBの政策金利決定にデータ不足という不確定要素が追加されることになってしまう。

今後はつなぎ予算がいつ成立するのか、そしてそれまで市場がどう反応するのか、政府機関閉鎖の影響がどの様な形であらわれてくるのかを注視しておきたい。

とここまでは冷静かつ客観的にまとめたつもりだが、最後に自分の米国株資産についても書いておくと、所有割合の最も大きいシティグループ(C)が9月末から下落傾向となっており、10月1日も上述したS&Pセクター別で金融セクターは0.92%下落、シティは2.75%下落)で10月1日米国市場閉場後の米国株資産は

大きく減少となっている。円ベースでは更にドル安も相まって

と酷い状況になっている。早く落ち着いて欲しいところだが、どこまで自分の資産が減少するか戦々恐々であるのが現在の心境である。はあ。

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