はじめに
2024年10月23日(水)には自分が所有しているボーイング(BA)の2024年第3四半期決算発表があった。
前回7月末の四半期決算時には新しい最高経営責任者(CEO)としてKelly Ortberg氏を指名したことが評価されたのか上昇したのだが、その後8月頭の株式市場大幅下落には抗えず
「今後のボーイング株だが、8月からの大幅下落の影響が大きすぎるので判断しづらい。一応品質改善や商用機生産数は改善しているようなので今後に期待したいところだが、8月の市場急落の要因の一つである米経済減速懸念が航空機利用者数などに反映されてくるようだと、年初来最安値を更新する可能性もあるかもしれない。」
と書いていた。
そしてその後は
ボーイング777型機、787型機にそれぞれ不具合(2024/8)
といった悪材料が続く中9月半ばに16年振りにストライキ突入にし、現在も終結していない長引くストライキを受けて1.7万人規模のリストラを発表している。
そんな苦しい状況の中、今回のボーイング決算内容及びそれを受けての株価はどうだったのか。以下に確認して整理しておく。
ボーイング2024年第3四半期決算概要
以下の内容はボーイングの企業サイトより引用・抜粋。
- 2024年第3四半期の売上高(Revenues)は178億4000万ドルで、前年同期比1%減少
- 2024年第3四半期のGAAPベース純損失(Net Loss)は61億7400万ドルの損失、前年同期は16億3800万ドルの損失
- 2024年第3四半期のGAAPベース一株当たり損失(Basic loss per share)は9.97ドルの損失、前年同期は2.70ドルの損失
- 2024年第3四半期のNon-GAAPベース調整後中核事業一株当たり損失(Core loss Per Share)10.44ドルの損失、前年同期は3.26ドルの損失
- 2024年第3四半期のフリーキャッシュフローは19億5600万ドルの流出、前年同期は3億1000万ドルの流出
- 2024年第3四半期の財務状況は総債務(Consolidated Debt)が577億ドル、前四半期から2億ドル減少
事業部別業績
【Commercial Airplanes(商用機部門)】
- 2024年第3四半期の商用機の引き渡しは116件、前年同期は105件で10%の増加
- 売上は74億4300万ドルで前年同期比5%の減少
- 損失は40億2100万ドル、前年同期は6億7800万ドルの損失
- 営業マージンはマイナス54.0%、前年同期はマイナス8.6%
- 受注残は5400機以上で4280億ドル
【Defense, Space & Security(防衛・宇宙・セキュリティ部門)】
- 売上は55億3600万ドルで前年同期比1%の増加
- 損失は23億8400万ドル、前年同期は9億2400万ドルの損失
- 営業マージンはマイナス43.1%、前年同期はマイナス16.9%
- 受注残は620億ドル。うち28%は海外からの注文
【グローバルサービス部門】
- 売上は49億100万ドルで前年同期比2%増
- 利益は8億3400万ドルで前年同期比6%増
- 営業マージンは17.0%、前年同期は16.3%
2024年通期見通し
2024年の業績や納入見通しは示されず。
その他
その他決算資料及びアナリストとのカンファレンスコールで気になった点は以下の通り。
- 我々は明らかに岐路に立っている。当社への信頼は損なわれ、多額の負債を抱えており、会社全体で業績に重大な欠陥があり、多くのお客様を失望させている
- 一方で将来には大きなチャンスがある。受注残は約5000億ドルで、当社を望み求めている顧客基盤がある。従業員は自分たちが知っている象徴的な会社に戻り、製品を提供することを切望している
- 私(最高経営責任者(CEO)のKelly Ortberg氏)の使命は非常に単純明快であり、この大きな船を正しい方向に向け、私たち全員が知っていて望んでいるリーダーの地位にボーイングを復帰させること。これを実現するには4つの領域で変化が必要
- 根本的な企業文化の変化
- 事業の安定化
- 会社全体で新しいプラットフォームへの取り組み実行の改善
- 上記3つを実行しながら、ボーイングの新しい未来を構築すること
- 当四半期の会社全体の財務実績は主にIAM(International Association of Machinists and Aerospace Workers:国際機械工労働組合)のストライキにより商用ワイドボディ機の納入数の減少が影響している
- 商用機部門
- 売上高は74億ドル、営業利益率はマイナス54%で、これは主に777Xおよび767プログラムで以前に発表された30億ドルの税引前費用、IAMの作業停止、研究開発を含む期間費用の増加を反映している
- 737プログラムでは当四半期中に92機の航空機を納入し、9月中旬に述べたように当社は生産の安定化と年末までに月38機の準備に向けて順調に進んでいたが、IAMの作業停止によりこれらの目標の達成にはより長い時間がかかる
- ストライキと現金節約の必要性を考慮し、サプライヤーへの出荷を広範囲に停止するための短期的な調整を実施
- 787プログラムでは当四半期に14機の航空機を納入。熱交換器の生産回復計画と座席認証に関連する納入遅延に引き続き取り組んでおり、現在月4機の生産を行っているが、年末までに月5機に戻す予定
- 777Xプログラムについては、以前発表したように26億ドルの税引前費用を計上し、主に777-9の飛行試験の遅れとIAMの作業停止に関連する予想される遅れに対処するための認証タイムラインの最新の評価を反映している
- FAAの指示に従い認証プロセスを進め続け、最初の納入は2026年の見込み
- 防衛・宇宙・セキュリティ部門
- 以前に発表した様にT-7A、KC-46Aタンカー、商用乗務員、MQ-25プログラムによる税引前費用20億ドルを計上
- また戦闘機プログラムでF-15EXが共有生産ラインで増加したことによる混乱及び追加のコスト圧力とF-18の生産が終了したこと、以前の固定価格開発プログラムに対する追加のコスト圧力が四半期の実績に悪影響を及ぼした
- グローバルサービス部門
- 今四半期も好調な業績を維持している
- 商用機部門
- 現金および有価証券については2024年第3四半期末の残高は105億ドルで、主に第3四半期のフリーキャッシュフロー20億ドルの使用を反映
- 先週、当社は100億ドルの短期信用枠を新たに締結し現在200億ドルの信用枠を利用できるが、そのすべてが未使用
- 第4四半期のフリーキャッシュフローは、ストライキからの職場復帰タイミング、生産増加のペース、在庫の解消によって左右される
- 2025年も現金が使用されると予想しているが今年よりも大幅に改善すると見込んでいる
- 当社は現金を保全し、将来を守るために厳しいが必要な措置を講じていく
- サプライチェーンパートナーと連携して、関連するトレードオフのバランスを取りながら支出を大幅に削減
- 財務状況とより重点を置いた優先事項に合わせるために人員削減の計画を共有
- 質疑応答
- ボーイング商用機部門以外のコア事業と非コア事業とは何か、そして今後の事業立て直しにおける事業簡素化について
- 我々は新しいCEOが就任した際必ず行うであろうポートフォリオの評価をしているところ
- 明らかに中核である商用航空機と防衛システムは長期的にボーイングに残る
- しかし、恐らくより効率的にできるものや、目標から邪魔になるものがその周辺にいくつかあるだろう
- 先走らないようお願いするが、現在保持するもの、保持しないものの具体的なリストはない。これは我々が評価すべきことであり、それを開始するためのプロセスが進行中であるとだけ言える
- 明確にしたいのだが、2025年通期でフリーキャッシュフローがマイナスになると予想しているのか
- イエス
- ボーイング商用機部門以外のコア事業と非コア事業とは何か、そして今後の事業立て直しにおける事業簡素化について
直接的にストライキに係るような質疑は出なかった。
市場予測との比較
今回の主な決算内容と市場予想とを比べてみると、
- 2024年第3四半期の売上高(Revenues)は178億4000万ドル、市場予想の178億2000万ドルをやや上回っている
- 2024年第3四半期の調整後中核事業一株当たり損失(Core Loss Per Share)は10.44ドルの損失、市場予想は10.52ドルの損失
となっている。
まとめ(その1)
上記の様な決算結果を受けてボーイング株は
前日比1.76%の下落。同日の米国市場も
大きく下落しているが、ボーイングの下落幅はそれを上回っている。継続するストライキの影響や、事前の発表で悪材料は織り込まれていたためか、思ったほどの大きな下落とはならなかったが、特に目立った将来への展望もないための下落だろう。
決算発表後の動き
決算発表以降にもボーイングに関しては以下の様な動きがあった。
- ボーイングの2024年第3四半期決算発表が行われた10月23日の夜、IAM労働組合員は4年間で35%の賃上げを含むボーイング側の新たな労働協約案を64%の反対票で拒否し、ストライキを継続することを決めている。
- 24日(木)にはホワイトハウスがこの件に関して、合意に向けた取り組みを継続するよう促していると明らかにしている。
- また25日(金)にはウォール・ストリート・ジャーナル誌が関係者の話として、宇宙事業の一部の売却を検討していると報道している。ボーイングは、市場の噂や憶測についてコメントすることはない、としている。
新たな投票で合意に至らなかったことから株価が大きく下落するのでは、という危惧があったのだが実際には下落はしたものの1.18%の下落にとどまっている。
まとめ(その2)
決算発表後の上述の動きが含まれる年初来のボーイング株の推移を市場(S&P 500)と比べてみると
年初来の下落が約40%と非常に大きいため判りにくいが、前回7月末の決算からも15%程度下落している。9月半ばにストライキに突入してから株価は何とか持ちこたえ続けているが、ストライキが解消しない限り、株価が下がることはあっても回復することは基本的にないだろう。
今後のボーイング株だが、基本的には10月8日のストライキ現状アップデートの際に
「一日でも早いストライキ終結を望みたいが、上で確認してみた過去1ヶ月の流れを見る限りでは残念ながらまだまだ時間がかかるのだろう。そしてここ1ヶ月は持ちこたえたボーイング株だがこれからの株価下落にも精神的に備えておいた方がいいだろう。10月23日に予定されている2024年第3四半期決算発表で説明されるであろうストライキの業績への影響が今から思いやられる。」
と書いていたものと大きな変わりはない。決算発表での大きな下落は避けられたが、ストライキが継続している状況は変わっておらず、ストライキが伸びれば伸びるほどボーイングのとれる選択肢も少なくなってくるので、些細なキッカケで大幅下落があり得るという認識は続けて持っておきたい。