品質計画に関するボーイングとFAAトップの会談(2024/5)

はじめに

先週5月23日にボーイング株が前日比7.55%大幅下落した際のまとめの中で、FAA(米連邦航空局)はボーイングに対して品質管理上の問題を修正するための総合的な計画を策定するよう命じており、ボーイングは5月30日にその計画を提出する予定と書いていたが、5月30日の米国市場閉場後に品質計画の提出とトップの会談が3時間超に渡って行われた。

以下、提出された計画の内容とその後の関係者のコメントについて整理しておく。


ボーイングの改善品質計画内容及び会談後のトップのコメント

実際にはボーイング及びFAA双方ともに改善品質計画そのものは公表しておらず、改善品質計画の概要はボーイング企業ページの声明からの引用となる。

【改善品質計画概要】

  • 本日、安全管理(safety management)、品質システム(quality system)、安全文化(safety culture)、ODA(Organization Designation Authorization:FAAの組織指定認可)責任(ODA responsibilities)を強化するための包括的計画をFAAに提出
  • 改善品質計画は規制当局の要件と監視の下、従業員のフィードバック、FAAの有識者、お客様、業界の専門家からの推奨事項に基づいて作成された
  • 改善には7500の新しい工具と設備、400個の作業指示書の改善、300時間の従業員研修資料が含まれる
  • 計画には、生産システムの健全性を継続的に管理するための具体的な対策を含む以下の4つのカテゴリに該当する措置が含まれている
    • Invest in workforce training(人材トレーニングへの投資)
    • Simplify plans and processes(計画とプロセスの簡素化)
    • Eliminate defects(欠陥の排除)
    • Elevate safety and quality culture(安全と品質文化の工場)
  • 提案した計画に自信を持っており、FAAの監視下で継続的な改善に取り組んでいく

【会談後のMike Whitaker FAA長官のコメント】

  • ボーイング社の品質と安全性の向上を確認するため、FAAは今後数ヶ月ボーイング社を監視する
    • ボーイングと米規制当局のトップによる週1回のミーティングと四半期ごとの意見交換
  • 改善品質計画はボーイングのものであり、どのように公表するかは同社が決めることができる
  • ボーイングは事故機737MAXの生産上限規制(月38機)の緩和を要求しておらず、それについての予備的な話し合いも行っていない。今後数ヶ月のうちに増産承認を得られるとは思わない
  • この計画は、ボーイングとそのサプライヤーに対する我々の監視強化の終わりを意味するものではない
  • ボーイングが何機の飛行機を製造するかにかかわらず、私たちは安全性と品質に対する強く揺るぎないコミットメントを長期にわたって確認する必要がある
  • これはシステミックな変化であり、やるべきことはたくさんある

まとめ

以上ボーイングの改善品質計画とボーイングとFAAトップの会談について整理してみた。

改善品質計画は今後もFAAの監視が数ヶ月続くことになるが、先週のMike Whitaker FAA長官のコメントでも改善品質計画は始まりに過ぎないとしていたことから概ね想定通り。一方会談後のコメントではボーイング737MAXの生産制限解除も更に数ヶ月はかかる見込みという点が目新しい点。

この改善品質計画/トップ会談(当日の米国株式市場時間外後)があった翌日のボーイング株は

前日比2.81%の上昇。同日の米国市場が

とまちまちであったのに比べるとまずまず上昇している。ボーイング株の上昇は上記内容によるものだと思ったのだが、日中の推移を市場(DOW 30)と比べてみると

開場直後から13時過ぎまではダウ工業平均とさして変わらない動きで前日比プラスではあるものの1%を下回る動きであることから、改善品質計画/FAAのコメントが株価へ与えた影響はさほどでもなかったと思える。

ではなぜ最終的にボーイング株が3%近い上昇になったかというと最後の30分間は市場につられた上昇だが、13時過ぎからの上昇は色々調べてみたところロイター通信の報道に影響を受けた様に思える。

同日格付け会社のフィッチ・レーティングスがボーイングの2024年航空機納入数とフリーキャッシュフローの予測を下方修正している(格付け自体はBBB-、見通しはNegativeで4月末から変わらず)のだが、それを受けてロイター通信がフィッチ・レーティングスとムーディーズ・レーティングにインタビューを実施しており、

【フィッチ・レーティングスのシニア・ディレクターNick Varone氏】

  • ボーイングが2024年までにフリーキャッシュを使い果たす可能性は、概ねフィッチのネガティブ・アウトルックに織り込まれている
  • アウトルックをstableに戻すには737MAXの生産が月38機程度に戻ることか在庫が削減されることが必要

【ムーディーズ・レーティングのシニア・バイス・プレジデントJonathan Root氏】

  • ボーイングのフリーキャッシュフローがマイナスになるという最近(5月23日)のコメントは予想外だった
  • これはボーイングが民間航空機事業を再建している間、ネガティブサプライズが続いているもう一つの例だ
  • ただボーイングが5月に100億ドルの社債を発行して流動性を強化したことは、潜在的な格付け圧力を緩和している

との報道がなされていたのだが、時間的にボーイング株が一段高となったタイミングと合致している。フィッチの4月末の格下げではキャッシュフローのマイナスが既に織り込み済みだった事やムーディーズが直近の社債発行での流動性強化を評価していることが材料視されたのではないだろうか。

ボーイングの株価は上昇したものの737MAX型機の生産増強はまだ数ヶ月先となることが明らかになったので、短期的にはボーイング株の上昇は見込めないのではないかと思っている。しばらくはボーイング株には期待せず、今回の改善生産計画が有効に機能するのを待つことにしよう。

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