はじめに
2022年3月に入ってからニューヨーク原油先物価格は上昇傾向が続き3月8日には1バレル=120ドルを超えたが翌日3月9日から下落傾向に転じており、このひと月で見るとほぼ変わらずとなっている。
以下直近のニューヨーク原油先物価格の変動要因について考えてみる。
直近のニューヨーク原油先物価格の変動要因
上昇要因
米国及び欧州のロシアからの原油(エネルギー)輸入禁止検討
ロシアのウクライナ侵攻に関連し、追加制裁として米国及び欧州でロシアからの原油を含むエネルギー輸入禁止の報道がなされ始め、原油/エネルギーが一段と供給不足に陥ることへの懸念が原油先物価格の上昇を促した一番の要因だったのだろう。
ちなみに米エネルギー情報局(EIA:Energy Information Administration)によると2021年に米国が輸入した原油のうちロシア産の占める比率は約3%、石油製品を含めると約8%。
一方で国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency)によるとEUにおけるロシアからのエネルギー輸入は天然ガスの全輸入の45%、原油の27%、無煙炭の46%となっており依存度が高い。
下落要因
アラブ首長国連邦(UAE)がOPECプラスに増産加速を促す姿勢を示したこと
- 3月8日にUAEのアル・オタイバ駐米大使「わが国は増産を支持しており、生産引き上げの検討をOPECに促す」と表明
- この内容は英紙フィナンシャル・タイムズが先に報じていた
- 声明の数時間後にUAEのマズルーイ・エネルギー相が同国はOPECプラスの合意にコミットしているとツイート
- ブルームバーグの報道によると、事情に詳しい関係者によればUAEは大使が声明を発表する前に他のOPECプラス加盟国と事前に相談はしておらず
ロシアからの原油(エネルギー)輸入禁止対応が欧米で分かれたこと
【米国】
- バイデン大統領が3月8日にロシアから原油などのエネルギーの輸入を全面的に禁止する大統領令に署名
- ロシア産の原油、石油製品、LNG、石炭などの米国への輸入禁止
- 米国企業によるロシアのエネルギー分野への新規投資禁止
- ロシアのエネルギー分野に投資する外国企業への融資禁止
- 既に成立した輸入契約には45日間の猶予
【イギリス】
- 3月8日にロシア産原油および石油製品の輸入を年末までに段階的に禁止する方針を発表
【カナダ】
- 2月28日にロシア産原油の輸入を禁止すると発表
【EU】
- 3月8日に欧州委員会(EC:European Commission)が、2030年までにEU域内のロシア産化石燃料への依存解消と、より安価で持続可能なエネルギーの安定供給に向けた政策文書を発表
その他
その他下落要因として考えられるものは以下の通り。
- 世界最大の石油輸入国である中国中国でCOVID-19が増加傾向にありいくつかの都市でロックダウンが始まり、需要減少の可能性があること
- 3月15日にOPECプラスが発表した月次報告書で、2022年の世界の原油需要は日量415万バレル増との予測を据え置いた一方で、今後世界経済に対する課題、中でも経済成長の減速やインフレの上昇、地政学的な混乱の継続は、様々な地域の石油需要に影響を与えるだろう、としたこと
まとめ
ここ最近は株式市場や原油などはロシアのウクライナ侵攻次第だと思って詳しくは確認しないことが多かったのだが、こうして原油先物価格を振り返って確認してみると自分が思っていた下落要因とは異なっていた。
自分はロシア産エネルギーの禁輸措置で欧米の足並みが揃わずEUが早期禁輸に踏み切らなかった事が下落の大きな原因と思っていたが、(原油先物価格は様々な要因が複雑に絡んでいるので一概には言えないのだが)情報を整理した限りではUAEがOPECプラスに増産加速を促す姿勢を示した後に原油先物価格が大きく下がっていた。
元々ここ最近でニューヨーク原油先物価格が1バレル=100ドル未満から120ドル超、そして再び100ドルを割り込むという大幅変動をしていたので確認してみたのだが、あくまで後付けでの確認であり今後どうなるかは分からない。
ただウクライナ情勢は勿論のこと、3月31日に予定されているOPECプラス会合でどの様な議論が交わされるかについては気に掛けておく必要があるだろう。
最後に原油先物価格と連動性が高い自分が所有しているエクソン・モービル株(XOM)と同業のシェブロン(CVX)のここひと月の株価を比較してみると
傾向は概ね原油先物と連動することが多く同じ様に見えるが、シェブロンがこのひと月で15%以上株価上昇しているのに対しエクソン株はマイナス1%となっている。同じ業界とはいえ差が出るものだ。まあエクソン株は低迷時期が長かったので、それを考えればこれでも良しと考えるべきなのだろう。