AT&Tの投資格付けアップデートと年初来の株価(2021/10)

はじめに

週末に自分の所有銘柄を確認していたところ、掲題の通りAT&T(T)に対するアナリストの投資格付けアップデートが先週あったことに気が付いた。

今回はその投資格付けアップデート内容を整理すると共に、ここ最近のAT&T株の動きについても確認してみることにする。


2021年10月7日のMoffettNathansonのAT&T株投資格付けアップデート

投資格付け:SellからNeutralに上方修正

目標株価:23ドルから28ドルに上方修正

以下はMoffettNathansonのアナリストCraig Moffett氏の見解要旨。

  • AT&Tのより狭い戦略的焦点(ワーナーメディアの分離)を支持してはいるが、通信業界の同業者との競争と会社の債務負担を懸念している
  • 具体的にはワイヤレススペクトルライセンス(wireless spectrum licenses)にさらに数十億ドルを費やす必要があり債務削減の進展がさらに遅れ、通信事業で競争圧力に直面するため、既存事業の成長(organic growth)が圧迫されると予想している
  • AT&Tは、特に相対的なP/Eを含むいくつかの相対的な指標からみるとこれまでにないほど安価(as cheap as it has ever been)としている
  • 一方で、残念ながら少なくともファンダメンタルズでは強気のケースは説得力がなく、同社の株価は依然として高水準であり、AT&TはGDP以下の成長率産業においてシェアを失っていく可能性(The company remains over-levered…and AT&T is likely to be a share loser in a sub-GDP growth industry)を指摘している
  • またワーナーメディアスピンオフ後の年間フリーキャッシュフローが200億ドルになるというAT&T経営陣のガイダンスに懐疑的な見方をしている
  • AT&Tのファイバー推し戦略のメリットは、規模の経済が始まり、先行マーケティングと顧客獲得のコストが低下する2023年以降にもたらされると予想している

この投資格付けアップデートは10月8日(木)の米国市場開場前にあったのだが当日のAT&T株は同日のS&P 500が0.82%上昇しているにもかかわらず

0.15%の下落。通常アナリストが投資格付け及び目標株価を上方修正すると株価は上昇するのだが、内容をよく確認すると相変わらずネガティブ(Craig Moffett氏はAT&T株に対して悲観的な見方が続いている)なことが投資格付け及び目標株価が上方修正されたにもかかわらずAT&T株が下落したことに繋がったのだろう。


年初来のAT&T株推移

年初来のAT&T株の推移をS&P 500と比較してみると

S&P 500が約17%上昇しているの対し、AT&Tは約7%のマイナスとなっている。5月半ばまではブレがあるもののS&P 500とAT&Tとほぼ同程度のパフォーマンスだったのが、5月半ばにAT&Tがワーナーメディアの2022年の分離を発表して以来右肩下がりが続いている。

AT&Tのここ半年のパフォーマンスがAT&T固有のものなのか、それとも業界全体の傾向としてのものなのかが気になるのでベライゾン(VZ)とも比較してみると

ベライゾンもS&P 500より悪く、AT&Tと概ね同じく右肩下がりの傾向。ここ半年の下落はAT&T固有の要因というよりは業界共通の傾向らしいことが判る。

先のCraig Moffett氏の見解の様に業界全体がそもそも低成長産業であるのに加え、インフラ整備への投資が不可避であり、投資の効果が出てくるのは数年先の見込みといった点が市場に評価されていない理由なのかもしれない。


まとめ

先週AT&T株へのアナリスト投資格付けアップデートがあった事に気が付いたのを機に、その内容と年初来のAT&T株の動きについてまとめてみた。

今回まとめてみて良かったと思ったのはアナリストの最新の見解を知れたこともそうだが、ここ半年程度のAT&Tの株価下落傾向がベライゾンの株価と比べてみたことで恐らく業界全体の傾向に拠る所が大きいと知れたこと(もしかすると間違っているかもしれないが)。

ここ数ヶ月のAT&T株の下落傾向に対してワーナーメディアも含めたAT&T個別の報道を中心に適宜確認してきてはいたが下落の原因が今一つ掴めていなかったの、で確度の問題はあるが一応AT&T株の下落傾向の理由付けが出来たことは有難い。

一方で、業界全体が下落傾向なので仕方がないという納得感はあるものの、よく考えてみるとそもそも業界全体が下落傾向であるという事は個別株の好材料があってもその影響は限定的なものになる訳で全然安心できる状況ではない。

また、まだ分離していないワーナーメディアで好材料(HBO Maxや映画の興行収入)があっても、数日は影響があっても数ヶ月単位でのAT&T株価には影響がないということも分かった。既に市場はAT&Tがワーナーメディアの2022年の分離を発表した5月半ば以降AT&Tを通信事業者として捉えているのかもしれない。

こういった今回の気付きを踏まえて今後のAT&T株の動きを考えると残念ながらしばらく先行きに期待は持てそうにない。10日後の10月21日に四半期決算の発表があるが、決算結果に少なくともネガティブサプライズがない事を願いたい。

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