はじめに
数日前に
AT&TのDirecTV売却がまたまた報道される(2021/2)
というまとめをしたのだが、その際は正直また実現しない可能性が高いよなあ、と書きながら思っていた。
ところが今回はDirecTVが一応AT&Tから分離することになったとの正式発表が現地時間2月25日米国市場閉場後に発表された。
以下にその内容について整理するとともに併せてAT&T株の動きについてまとめておくことにする。
AT&Tの投資格付け下方修正
ちなみにこのDirecTVの分離発表と同日2月25日の米国市場開場前にはAT&Tの投資格付けが下げられていた。
投資格付け:OutperformからPerformへ下方修正
目標株価:元々無し
【Oppenheimerのアナリスト Timothy Horan氏の見解要旨】
- 米連邦通信委員会(Federal Communications Commission)が最近の周波数帯オークションの結果を明らかにしたことを受けてAT&Tの格付け下方修正
- このオークションは通信事業者が5Gネットワークを構築するために使用するミッドバンド無線スペクトルへのアクセスを可能にするもの
- オークション全体では812億ドルだったが、うちAT&Tの入札価格(bid)は1621ライセンスを234億ドルで取得(Verizonは455億ドルで3511ライセンス。これも格下げされている)
- T-Mobileのネットワーク品質と競争するために5Gミッドバンドスペクトルを取得する必要はあるが、このスペクトルの展開を開始するには少なくとも1年かかり、それから生み出される収益には数年かかる
言及されているT-Mobileは昨年のSprint買収を通じてミッドバンドスペクトルを既に取得している(142ライセンスを93億ドル。T-Mobileは格付け上方修正されている)。
個人的にはこの5Gネットワークに関連する情報で格下げされてもなあ、というのが正直なところ。この日のAT&T株は、
と2.55%下落している(DirecTVの分離発表は米国市場閉場後のためこの日の株価に影響せず)のだが、同日のダウ工業平均が1.75%、S&P 500が2.45%、NASDAQが3.52%いずれも下落しているので、この格付け下方修正がどの程度株価に影響を及ぼしたかは今一つはっきりしない。
ただ同日のVerizonとT-Mobileの株価がそれぞれ、
となっているので、Oppenheimerの格付けアップデートはそれなりの影響をAT&Tの株価に及ぼしたのだろう。
2月25日の米国市場閉場後のDirecTVに関する発表
以下はAT&Tの企業サイトより引用・抜粋。
- AT&T Inc.(NYSE: T) and TPG Capital, the private equity platform of global alternative asset firm TPG, announced today that they have signed a definitive agreement under which the two parties will establish a new company named DIRECTV (“New DIRECTV”) that will own and operate AT&T’s U.S. video business unit consisting of the DIRECTV, AT&T TV and U-verse video services.
AT&TとグローバルオルタナティブアセットファームTPGのプライベートエクイティプラットフォームであるTPGキャピタルは本日、両当事者がDIRECTV、AT&T TV、U-verseビデオサービスで構成されるAT&Tの米国ビデオビジネスユニットを所有および運営するDIRECTV(「NewDIRECTV」)という名前の新会社を設立するという最終合意に署名したと発表しました - The transaction to separate AT&T’s U.S. video business into New DIRECTV implies an enterprise value for the new company of $16.25 billion.
AT&Tの米国のビデオ事業をNew DIRECTVに分離する取引は、新会社の企業価値が162.5億ドルであることを意味します - Following the close of the transaction, AT&T will own 70% of the common equity and TPG will own 30%.
取引に伴いAT&Tが普通株式の70%、TPGが30%を所有します - When the transaction closes, which is expected in the second half of 2021, AT&T expects to receive from New DIRECTV $7.8 billion ($7.6 billion in cash and the assumption from AT&T of $200 million of existing DIRECTV debt). AT&T expects to use the proceeds from this transaction to reduce AT&T debt.
2021年下半期に予定されている取引の完了時に、AT&TはNew DIRECTVから78億ドル(現金76億ドル、AT&Tからの既存のDIRECTV債務2億ドルの想定)を受け取る予定です。AT&Tはこの取引からの収益をAT&Tの負債を減らすために使用する予定です - New DIRECTV has secured $6.2 billion in committed financing from its bank group, $5.8 billion of which is expected to be paid to AT&T in cash plus the assumption from AT&T of $200 million of existing DIRECTV debt.
New DIRECTVは、銀行グループから62億ドルのコミットメントファイナンスを確保しており、そのうち58億ドルはAT&Tからの2億ドルの既存のDIRECTV債務想定に加えて現金でAT&Tに支払われる予定です
AT&Tへの財務への影響は以下の様に想定している。
先に述べた以外では、
- Do not expect material impact to 2021 financial guidance
2021年の財務見通しに重大な影響を与えるとは想定しない - After closing, AT&T expects to deconsolidate New DTV from consolidated financial results
取引完了後、AT&TはNew DTVを連結決算から非連結化する予定
といった点が重要だろうか。
まとめ
DirecTVのスピンオフ発表を受けてAT&Tの株価がどうなったかというと、
2.58%の下落。同日のダウ工業平均が1.50%、S&P 500が0.48%それぞれ下落し、NASDAQが0.56%上昇したのに比べると見劣りがする。
これはやはり個人的に思い付くだけでも、
- 売却ではなくスピンオフであり70%の株式はAT&Tが保有
- New DIRECTVの企業価値が162.5億ドルと買収時の480億ドルからかなり見劣りがする
- この取引は米国の事業のみでありラテンアメリカは含まれていない
- AT&TはNew DIRECTVに既存の2021~22年NFLサンデーチケット契約に関して最大25億ドルを累積上限として引き続き資金を提供する
といった点が気になるので市場には好意的には受け止められなかったのだろうか。ちなみにラテンアメリカのDirecTV事業に関しては、この発表説明時に最高経営責任者(CEO)John Stankey氏が引き続き売却の可能性を検討していると述べている。
まだ発表から時間が経っていないのでこのスピンオフに対するアナリストの評価は報道されていないし、同日の市場も軟調だったことから今後のAT&Tの株価についてはまだ分からない面もある。
ただ先日の売却検討をまとめた際に
「このDirecTVの売却が成立して株価上昇のきっかけになってくれればと期待したのだが、昨日の市場の反応を見ると、残念ながら成立したとしても過度の期待は抱かない方が良さそうだ」
と書いた株価上昇のきっかけに対する期待どころか、現時点では期待外れに終わりそうな感じがする。DirecTV以外にはAT&T株が急上昇するきっかけとなる事柄は自分には思い浮かばないので、今後しばらくは急激な業績改善は望めず残念ながら徐々に業績・株価が回復することを期待するしかなさそうだ。