バイデン次期大統領の米証券取引委次期委員長指名(2021/1)

はじめに

2021年1月18日(月)の米現地時間に、バイデン次期米大統領の政権移行チームが米証券取引委員会(SEC)委員長にゲイリー・ゲンスラー(Gary Gensler)氏、米消費者金融保護局(CFPB)局長に米連邦取引委員会(FTC)委員のロヒト・チョプラ(Rohit Chopra)氏を指名する予定という報道があった。

以下にこの指名(まだ確定ではないが)が金融業界に及ぼす可能性のある影響について整理しておくことにする。


この指名の意味

1月初旬にジョージア州上院決算投票の結果金融株が上昇したことについてまとめたが、

米ジョージア上院選後の金融株上昇について(2021/1/7)

その際に

「通常民主党が支配的になると金融規制の強化と税金の引き上げに繋がるケースが多いため、金融株にマイナスの影響を与えるのではないかという懸念を持っていた」

と書いた(実際には選挙結果を受けて金融株は上昇したが、経済刺激策がスムーズに実行されるとの期待がその時点では高かったためと思われる)。

実際上院で民主党が多数派となるのに伴い、反ウォール街の急先鋒として知られるシェロッド・ブラウン(Sherrod Brown)上院議員が上院銀行委員長に就任するのだが、同氏は先週トランプ政権下で規制当局が導入した規制緩和措置を撤回させる考えを示している。

そして両者の過去の経歴を見ると今回の指名はその規制強化へ向けての第一歩の様な気がする。


指名者の主な経歴

【Gary Gensler氏(63歳)】

  • 米ゴールドマン・サックス出身
  • 1999~2001年までクリントン民主党政権下で財務次官(国内金融担当)
  • 2009~14年までオバマ民主党政権下で米商品先物取引委員会(CFTC)委員長
  • 2016年米大統領選でヒラリー・クリントン氏陣営の最高財務責任者(CFO)
  • 2020年大統領選後にバイデン氏の政権移行チームに参画

特に、金融危機後に議会で策定された新たなスワップ取引規制を推進したことで、大手金融出身ながら古巣ウォール街の強大な権益に立ち向かう厳格な規制当局者として知られている。

【Rohit Chopra氏(38歳)】

  • 金融危機後にCFPBの設立に尽力、CFPBで学生ローンの初代オンブズマン
  • 現在米連邦取引委員会(FTC)委員

まとめ

2020年11月の大統領選と共に行われた上院議員選挙では、共和党が半数(50)、民主党が48議席であり、決選投票が行われるジョージア州は伝統的に共和党が強い州であったので、共和党が過半数議席を維持する可能性があり、市場はバイデン次期大統領が金融規制当局トップにより穏健派を指名すると考える報道が多かった(ちなみに決選投票は上院選で50%以上の得票率に達した候補がいない場合に上位2名による再選挙が行われるのだが、この制度を採用しているのはジョージア州とルイジアナ州の2州のみ)。

しかし実際にはジョージア州の決選投票で民主党が2議席確保し、上院議長を兼務するハリス次期副大統領が賛否同数の際の決定票を握るため、上院は民主党が事実上支配することとなった。

今回の人事は上記の流れを経ての強硬派指名であるので、新政権の金融業界への姿勢は大方が予想していたより厳しいものとなる気がする。これを書いている2021年1月19日の直近ではバイデン次期大統領の経済刺激策や2020年第4四半期決算などが金融株の上下により大きな影響を及ぼすだろうが、中長期的に見た場合、今回の指名により規制が強化され金融業界銘柄に少なからず影響を及ぼすのだろう。

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