先月市場に影響を与えた米企業人員削減数と市場(2025/12)

はじめに

2025年12月4日(木)には、米民間再就職支援会社Challenger, Gray & Christmasが米企業による11月の人員削減数を発表した。

先月11月の発表では当時米2026会計年度つなぎ予算が成立せず、政府機関の閉鎖が続いて公的機関のデータが十分には公表されていなかったことと、発表された人員削減数が予想外に多かったことから普段はあまり市場に重要視されてはいない指標にもかかわらず市場は敏感に反応していた。

現在は1月末までのつなぎ予算が成立して政府機関は活動を再開しているのだが、閉鎖の影響でデータの公表に遅れが出たり発表されなかったりしており、12月9、10日のFOMCでの金利政策を推し量る上で、FRBが2つの命題としているインフレと雇用関係のデータは内容次第で先月11月発表の10月の米企業人員削減数の様に市場に大きな影響を及ぼす可能性もある。

そんな状況の中で、今回発表された11月の米企業人員削減数の結果、併せて同日発表の新規失業保険申請件数、それを受けて市場がどう反応したのかについて確認し、整理しておくことにする。


2025年12月4日Challenger, Gray & Christmas発表の2025年11月米企業人員削減数

以下の情報はChallenger, Gray & Christmasの発表資料より引用・抜粋。

  • 2025年11月の米企業人員削減数は7万6835人、前年同期は5万7727人、前月の15万3074人から53%減少

以下はAndy Challenger氏の主な分析内容。

  • 先月のレイオフ計画は減少しており、これは確かに明るい兆候
  • とはいえ11月の人員削減数が7万人を超えたのは、2008年以降、2022年と2008年の2回だけ
  • 以前は多くの企業の会計年度末に合わせて、年末に向けてレイオフ計画を発表するのがトレンドだったが、2010年代以降はベストプラクティスではレイオフ計画は年末年始以外の時期に実施されるべきだと考えられてきた
  • ブラックフライデーと感謝祭の週末の支出増加により、12月のホリデーシーズン直前に採用活動が行われる可能性がある。しかし、これらのポジションが新年まで続くかどうかは不透明
  • 11月の人員削減が多かった主な業種
    • 通信事業者:1万5139人
      • 主にベライゾンの人員削減計画によるもの
    • テクノロジー:1万2237人
      • 前月の3万3281人からは減少
  • 11月の人員削減要因
    • リストラ:20,217件
    • 市場および経済状況の悪化:15,755人
    • 人工知能(AI):6,280件
    • 関税引き上げ:2,061件

同日のその他発表等

米労働省が11月29日までの1週間の新規失業保険申請件数(季節調整済み)を発表

  • 新規失業保険申請件数(11月29日終了週)は19万1000件(前週比2万7000件減)、市場予想は22万件
  • 失業保険の継続受給者数(11月22日終了週)は193万9000人(前週比4000人減)、市場予想は196万3000人

ただこの週のデータには感謝祭の祝日が含まれており、祝日前後は失業保険申請件数が変動しやすい傾向があるとのこと。


同日の市場の動き

米国株式市場

Challenger, Gray & Christmasの2025年11月米企業人員削減数、米労働省の新規失業保険申請件数(11月29日終了週)の発表はいずれも米国株式市場開場前。

非常に狭いレンジで方向感が全く定まらない動きが1日を通して続き、主要3株式指数ともにほぼ前日比変わらずで取引を終えている。

11月米企業人員削減数は前月から大きく減少し市場予想を下回り、前月比新規失業保険申請件数も市場予想を下回ったため、労働市場にやや安定の兆しが見られ12月FOMCでの利下げ確率が大きく低下し、株式市場も下落するかと思ったのだが、CMEフェドウォッチツールによると

  • 12月4日の12月FOMCでの0.25%利下げ確率:87.0%
  • 1日前の12月FOMCでの0.25%利下げ確率:90.0%
  • 1週間前の12月FOMCでの0.25%利下げ確率:83.4%
  • 1ヶ月前の12月FOMCでの0.25%利下げ確率:68.6%

前日からやや低下しただけで、12月FOMCでの利下げが有力視されている状況は変わらず。継続受給件数が高止まりしており労働市場がなお軟調である可能性もあるため、株式市場は上述の様に方向感に乏しく前日比ほぼ変わらずで取引を終えたのだろう。

米国10年債

米国市場が開場する米国東部標準時9:30は上記チャートのCST(米国中部標準時)では8:30。

こちらは株式市場とは異なり労働市場が思ったよりも堅調だったことを受けて、開場直後から利回りが上昇(債権売りが進む)し、そのままの傾向で1日の取引を終えている。

ドル円為替

米国株式市場が開場したのは上記チャートのGMT(英国標準時)では14:30。

元々ドル安基調が続き1ドル=154円半ばだった為替レートが、米国株式市場開場前のChallenger, Gray & Christmasの2025年11月米企業人員削減数(上記チャート12:30)、米労働省の新規失業保険申請件数(11月29日終了週)(上記チャート13:30)の発表を受けて1方向感が定まらない動き。米国株式市場取引が進むにつれてドル高傾向が明確となり1ドル=155円台に。

しかし日本時間昼過ぎからブルームバーグが関係筋の話として「日銀が今月利上げし、今後の利上げ継続姿勢も維持する」と報道したことを受けてドル安基調になり1ドル=154円半ばになったが、その流れは長く続かず再びドル高傾向となり、これを書いている時点では1ドル=155円台前半の取引が続いている。


まとめ

以上、11月の米企業人員削減数及び新規失業保険申請件数の結果、そして市場がどう反応したのかについてまとめてみた。

先月の米企業人員削減数発表時には、普段は反応しない市場が敏感に反応していただけに今回はどうなるかを懸念していたのだが、先月から人員削減数が半減したこともあってか株式、債券、為替の反応はいずれも限定的で、無難にイベントを乗り切ったと言えるだろう。

また同日発表のデータから労働市場がやや安定したとみられて12月のFOMCでの利下げ確率が下がるかとも思われたのだが、CMEフェドウォッチツールを見るとさほど大きな変化は無かったので、来週のFOMCでの利下げは有力視されたままという状況にも変わりは無し。

昨日の米ADP雇用統計も無難に乗り切ったし、このまま12月のFOMCまでの経済指標に大きなサプライズがなく、FOMCで既定路線通りに利下げが行われて安定した市場が続くことを願いたいものだ。

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