はじめに
米現地時間2025年7月7日(月)に、トランプ大統領が4月に発動し90日間一時停止(7月9日まで)をしていた相互関税上乗せ分の新たな関税率をSNSに公表し始めると共に、交渉期限を8月1日まで延長する大統領令に署名した。
以下、公表された内容を中心に現在の状況を整理しておくことにする。
現地時間2025年7月9日の相互関税一時停止期限前のトランプ政権の関税に関する主な動き概要
2025年7月6日(日)
- 大統領経済諮問委員会(CEA)のミラン委員長がABCニュースの番組で以下の発言
- 関税率を下げるためには各国は譲歩する必要がある
- (欧州やインドとの協議について)良いことを聞いている
- 譲歩の過程にある多くの国々は、交渉期限が伸びるかもしれない
- 国家経済会議(NEC)のハセット委員長がCBSのニュース番組で以下の発言
- 真剣に交渉に取り組んでいる国に関しては合意が近いものもあり、交渉期限を過ぎるかもしれない
- ベッセント財務長官がCNNのニュース番組で以下の発言
- 今後数日のうちにいくつかの大きな貿易協定が発表される可能性がある
- 欧州連合(EU)との交渉は順調に進んでいる
- トランプ大統領がSNSに以下の投稿
- 関税に関する他国宛て書簡を米現地時間7日正午に送付を始める
- トランプ大統領がSNSに以下の投稿
- BRICSの反米政策に同調する国には10%の追加関税を課す。例外はない
2025年7月7日(月)
- トランプ大統領が以下の14ヶ国に対する新たな上乗せ関税率を順次SNSに公表
- 日本:25%、4月の24%から1%上昇
- 韓国:25%、4月と変わらず
- マレーシア:25%、4月の24%から1%上昇
- カザフスタン:25%、4月の27%から2%減少
- チュニジア:25%、4月の28%から3%減少
- 南アフリカ:30%、4月と変わらず
- ボスニア・ヘルツェゴビナ:30%、4月の35%から5%減少
- インドネシア:32%、4月と変わらず
- セルビア:35%、4月の37%から2%減少
- バングラデシュ:35%、4月の37%から2%減少
- タイ:36%、4月と変わらず
- カンボジア:36%、4月の49%から13%減少
- ミャンマー:40%、4月の44%から4%減少
- ラオス:40%、4月の48%から8%減少
- トランプ大統領はSNSで、何らかの理由で(相手国が)関税を引き上げる場合、引き上げる割合は我々が課す25%に加算される、と警告
- 今回発表された関税は、自動車や鉄鋼・アルミニウムなど、以前に発表された分野別関税とは別枠
- 例えば日本の場合、今回の新たな関税25%が上乗せされると既に課されている25%の自動車に対する関税に追加となり、合計50%の関税となる
- ホワイトハウスのレビット報道官によると、同日トランプ大統領は関税の交渉期限を8月1日まで延長する大統領令に署名(上記14ヶ国以外の国/地域も)
- EUの執行機関である欧州委員会が加盟各国大使に対し以下の説明
- EUは不均衡な合意を受け入れるか、より大きな不確実性に直面するかの選択を迫られている
- トランプ政権が一段の関税を課したり、追加的な譲歩を要求したりしない保証はない
2025年7月8日(火)
- トランプ米大統領から8月1日に25%の関税を適用するとの書簡を受け取ったことについての石破首相のコメント
- (関税率について)トランプ大統領が最近発信した30%や35%ではなく、事実上の据え置きであり、協議の期限を延長するものと受け止めている
- 米側からは日本の対応次第では書簡の内容見直しも可能として、8月1日の期限に向けて日本側との協議を速やかに進めていきたい旨の提案を受けている
- 関係閣僚に対し、引き続き対米協議で国益を守りつつ日米双方の利益となるような合意の可能性を精力的に探り、国内産業や雇用に与える影響緩和に万全を期すよう指示
2025年7月7日(月)(日米の時差があるため現地時間は7日だが、日本時間では8日)
- トランプ大統領がイスラエルのネタニヤフ首相との夕食会において記者団の質問に対して以下のコメント
- (8月1日の期限は確定か)確定だが100%確定ではない
- (書簡は最終提示条件か)最終的だが、相手国がこれまでとは異なる私の気に入る提案をしてくれば、もちろん応じる
2025年7月7日の米市場/8日の日本市場の動き
米国主要3株式指数
主要株式指数はいずれも前営業日の7月3日(木)より下落(7月3日は取引時間短縮、7月4日は祝日のため休場)。ただその下落幅は7月4日成立の減税・歳出法案を受けて市場がどう反応するかと身構えていたほどには大きくは無かった。
S&P 500の日中の動きを詳しく見てみると
開場直後から下落傾向にはあったが前営業日比では0.5%程度。そして12時過ぎにトランプ大統領がSNSで日本、韓国への新たな関税を投稿したことで下落幅が拡大。その後順次上述した各国への関税が発表されると14:30頃には前営業日1%を超える下落まで落ち込む。しかしその後ホワイトハウスのレビット報道官が、関税の交渉期限を8月1日まで延長する大統領令に署名したと発表したことで下げ幅を縮小して取引を終えている。
米国10年債
上記チャートはCDT(米中部夏時間)のため、米国株式市場チャートのEDT(米東部夏時間)と1時間の時差がある。
米国株式市場が下落傾向だったのとは逆に、米10年債利回りはやや上昇傾向。そしてトランプ大統領のSNS投稿を受けてやや利回り上昇は落ち着いたものの、最終的には前営業日比1%程度の利回り上昇となっている。
ドル円為替
元々前週7月4日成立の減税・歳出法案を受けて1ドル=144円前後から144円台後半~145円の範囲で推移していたドル円為替だが、週明け7月7日になってからドル高傾向が顕著になり1ドル=145円台半ばまでドル高。そして日本への関税25%が発表されると、更にドル高となり1ドル=146円台となって以降は概ねその水準での小動きが続いている。
日経平均
日本への新たな関税率が、4月より1%とはいえ上昇して25%になったことを受けて下落するかとも思ったのだが、8月1日まで交渉期限が延長されたことが市場に重視されたためか、方向感がはっきりしない中で大きく下落することはなく、前日比0.26%の上昇となっている。
まとめ
以上、トランプ政権が4月に発動し90日間一時停止(7月9日まで)をしていた相互関税上乗せ分の新たな関税率と8月1日までの発動延長、そしてそれを受けての市場の動きについて整理してみた。
市場の反応については前週に成立した減税・歳出法案の影響(特にドル円為替)があっただろうから一概には言えないが、覚悟していた程大きな反応は無かった。新たな関税率が予想されていた程は高くなく、発動自体も8月1日まで伸びたことが原因なのだろう。
とりあえず新たな8月1日という少しの猶予が生まれたことは良かったが、米国の相互関税が落ち着いたわけではないこと、各国/地域とどの様な内容で相互関税が8月1日にまとまるか、あるいはまとまらないかで市場の反応が変わってくることを考えると、7月末が近付くにつれて市場の変動は激しくなるだろうから、落ち着かない日々はまだまだ続きそうだ。