はじめに
現地日付2025年11月5日(水)には、米ADP Research Instituteから10月の全米民間雇用統計が発表された。
米2026会計年度のつなぎ予算案が9月末の期限内に成立せず、未だ成立していないため政府機関の閉鎖が続いて公的機関の経済指標が発表されない/遅れる中で、米民間労働力の約20%をカバーしていると言われるADP統計は、雇用市場を把握できる数少ない月次データとなっているため、その結果が注目されていた。
以下、10月のADP雇用統計結果及びその他11月5日の出来事を受けて、市場がどう反応したかについて確認し、整理しておく。
2025年11月5日ADP Research Institute発表の2025年10月米民間雇用統計
以下の情報は米ADP Research Instituteの発表資料より引用・抜粋。
- 2025年10月の米民間雇用者数は4万2000人増(前月速報値は3万2000人減、確定値は2万9000人減)、市場予想は2万8000人増
- 2025年10月の米民間労働者賃金は4.5%増(前月と変わらず)

ADPチーフエコノミストNela Richardson氏のコメント
- 先月(10月)は2ヶ月続いた雇用低迷から回復を見せたものの、回復の兆しは広範囲に及ばなかった
- 教育・ヘルスケア、貿易・運輸・公益事業が成長を牽引
- 専門ビジネスサービス、情報、レジャー・ホスピタリティの分野では、3ヶ月連続で雇用削減が行われた
- 民間企業は10月に7月以来初めて雇用者数を増やしたが、今年初めに報告した数字と比較すると雇用者数は控えめだった
- 一方、賃金の伸びは1年以上ほぼ横ばいとなっており、需給バランスが取れていることを示唆している
ちなみに米ADPは10月28日に、今後、従来の月次報告に加えて週次の雇用者数統計を公表すると発表している。
同日のその他発表等
米供給管理協会(ISM)が10月の製造業/非製造業(サービス)総合指数を発表
製造業は48.7で市場予想の49.2を下回っているが、非製造業(サービス)は52.4で市場予想の50.8を上回っている。50が経済活動拡大と縮小の境目と言われている。
米連邦最高裁がトランプ関税の合憲性を問う訴訟を巡り口頭弁論を実施
米連邦最高裁は9人で構成され、6人が保守/共和党寄り(うち3人はトランプ大統領が指名)、3人がリベラル/民主党寄りとされており、今年に入ってからの一連の判決でトランプ大統領を支持してきた。
しかし口頭弁論後の報道では保守派からも今回の関税に関する疑問が出されるなど、どういう結果になるかは不透明な状況。
同日の市場の動き
米国株式市場

前日ハイテク株が割高ではないかという懸念から

大きく下落したのだが、取引前に発表された米ADP雇用統計、そして開場後に発表されたISM非製造業指数が市場予想を大きく上回ったことで、次回FOMCでの利下げ観測が弱まり上昇基調に。ただ急上昇という訳ではなく、前日の悪い流れが完全になくなったという訳ではない。
CMEのフェドウォッチによると次回FOMCでの利下げ確率は前日の68.6%から61.5%に低下している。
米国10年債

前日は低下した利回りが、ADP雇用統計を受けて利回りは上昇傾向。そしてISM非製造業指数を受けて更に利回り上昇となり、その後は概ね落ち着いた推移で取引を終えている。
米ADP雇用統計、ISM非製造業指数が予想外に堅調だったことを受けて、FRBによる追加の金融緩和観測が後退したことが利回り上昇(債権売り)の原因だろう。
ドル円為替

米国市場が開場したのは上記チャートのGMT(英国標準時)では14:30。
開場前のADP雇用統計を受けてやや上昇していたドル高の流れが、ISM非製造業指数を受けて更に加速して1ドル=154円台に。しかし、その後はこれら堅調な指標を受けて次回FOMCでの利下げが不透明になったためかややドル安の流れとなり、11月6日米国市場開場前時点では、ADP雇用統計前の水準となっている。
まとめ
以上2025年11月5日のADP雇用統計及びその他イベントと、市場がどう反応したかについて簡単に整理してみた。
前日11月4日の米国市場がハイテク銘柄を中心に大きく下落しており、5日もADP雇用統計結果次第では更なる下落になる可能性から戦々恐々としていたのだが、ADP雇用統計そしてISM非製造業指数が堅調だったことから市場は落ち着いた動きだったのは一安心。
ただハイテク銘柄が割高ではないかという見方は根強そうで、今後何かをキッカケに下落となる可能性もあることは気に留めておいた方がいいだろう。また、今回のADP雇用統計/ISM非製造業指数を受けて、FOMCでの利下げがどうなるかもやや不透明になってきたことから、今後の経済指標次第で市場が大きく可能性もある。
また続く米つなぎ予算不成立による政府機関閉鎖(11月5日で36日と過去最長らしい)の影響も段々大きくなりつつあり、上述したトランプ関税の米連邦最高裁の審理結果なども気になるところ。
米中貿易摩擦は一段落したとはいえ、まだまだ神経質な市場が続き、気の休まらない日々が続きそうだ。