約6年振りの米中首脳会談結果と市場の動き(2025/10)

はじめに

2025年10月30日(木)にはAPECが開催されている韓国で、米トランプ大統領と中国習近平国家主席との米中首脳会談が行われた。両首脳の直接会談は、2019年6月の大阪G20サミット以来約6年振りのこととなる。

以下、直近の米中の動きと今回の米中首脳会談結果、それを受けて市場がどう反応したかについて整理しておく。


2025年10月30日の米中首脳会談概要

米中首脳会談前の米中の動き

直近では2025年10月10日(金)に

トランプ大統領が中国追加関税に言及し市場急落(2025/10)

でまとめた通り中国のレアアース規制を受けて、中国への追加関税、米中首脳会談の中止を示唆したことで市場は急落。しかしその後すぐに

トランプ大統領の対中関税発言トーンダウンと市場(2025/10)

米中首脳会談は予定通り行われそうであること、レアアース等に関して事務レベルでの会合が行われることなど、トランプ政権の強硬姿勢がやわらいだことで週明けの13日(月)の市場は上昇していた。

その後は米中首脳会談の実施に向けた枠組みの調整のためか、米中ともに市場に大きな影響を与えるような動きは無し。そして10月25(土)、26日(日)にマレーシアで行われた米中閣僚級会合で枠組みに概ね合意がなされた模様で、会合後は以下の様な発言/報道がなされている。

  • 米ベッセント財務長官のコメント
    • 来週木曜に会う両首脳にとって実質的な枠組みができたと思う
    • (トランプ大統領が以前投稿していた中国製品への100%の関税は)No(予想していない)。中国が言及していたレアアース輸出規制も、何らかの猶予が得られると想定している
    • (合意の内容が公表されれば米国の大豆農家は)今シーズンと今後数年間の見通しについて非常に満足するだろう
  • 米グリア通商代表のコメント
    • 双方が一部の懲罰的措置を一時停止することで合意
    • 中国からのレアアースへのアクセスを拡大し、米国からの販売によって貿易赤字を相殺できる道筋を見出した
  • 中国の李成鋼国際貿易交渉代表のコメント
    • 米国の立場は強硬だが、中国は自国の利益と権利を断固として守ってきた
    • 両国は非常に集中的な協議を行い、懸念に対処するための解決策や取り決めを模索する建設的な意見交換を行った
  • 中国の何立峰副首相のコメント
    • 米中が合意した内容を共同で実施すべき
    • 両国が対等な対話と協議を通じ、互いの懸念に適切に対処する方法を見つけるべき

10月30日(木)の米中首脳会談結果

【会談での両首脳コメント】

  • トランプ大統領のコメント
    • 大成功の会談になることは疑いない。しかし、彼は非常にタフな交渉相手であり偉大な国の偉大な指導者だ
    • すでに多くのことに合意しており、今まさにさらに幾つかの合意を交わすところだ
    • 我々は長期にわたって素晴らしい関係を築くことになると思う
  • 習近平国家のコメント
    • 再会できて非常に温かい気持ちだ
    • 中米関係の強固な基盤を築くため、引き続き協力する用意がある
    • 世界の二大経済大国が時折、摩擦を起こすことは当然だ。風や波、試練に直面しても、われわれ両国の関係もかじを取る者として、正しい航路を維持し、中米関係という巨大な船を安定して前進させるべきだ
    • 双方の経済・貿易チームはそれぞれの主要な懸念に関して基本的なコンセンサスに達し、前向きな進展を遂げた。これが本日のわれわれの会談の必要条件を整えた
    • 中国の発展はMAGA(Make America Great Again)というビジョンと歩調を合わせていると常に確信している

【会談での主な合意内容】

  • フェンタニル関税の半減
    • 合成麻薬フェンタニルに対する中国の対応不備を理由に中国製品に課している20%の追加関税を10%に即時引き下げることで合意
  • 中国のレアアース輸出規制の一時停止
  • 米国製ハイテク製品の中国への輸出規制一時停止
    • 半導体製造装置の輸出を含めた米国製ハイテク製品の中国への輸出禁止拡大措置を1年間凍結することで合意
  • 新たな港湾使用料の一時停止
    • 米国は通商法301条に基づき導入した中国の海運、物流、造船業への措置実施を1年間停止。米国が関連措置の実施を停止した後、中国もそれに応じて米国に対する対抗措置の実施を1年間停止

【会談後の関係者コメント】

  • トランプ大統領のエアフォースワンでの記者団へのコメント
    • 0から10点の評価で、10点が最高だとすれば今回の会談は12点だ
    • 米中関係全体が非常に重要だ。非常に良かったと思う
    • 来年4月に中国を訪問するつもりだ。(習氏も)その後にアメリカに来るだろう
    • 大豆や他の農産物が大量に購入されることになる
  • 習近平国家主席のコメント(新華社通信より)
    • 双方のチームは可能な限り早期にフォローアップ作業を詰め、コンセンサスを実行に移し、中国、米国、そして世界経済に安心をもたらす具体的成果を出すべきだ
  • ベッセント米財務長官のFOXニュースでのコメント
    • 合意内容は首脳会談前日の深夜にまとまった
    • (今回の合意について)恐らく来週にも、署名を交わせると思う
    • 中国は米国産大豆を今年1200万トン、向こう3年間は少なくとも年2500万トンを購入することに合意した
    • エヌビディアの画像処理半導体(GPU)「ブラックウェル」や、台湾に対する政策などは議題にならなかった

【その他】

  • トランプ大統領が示唆した11月1日からの対中関税100%は見送られた模様
  • 米国産大豆の中国輸入に関しては、トランプ大統領、ベッセント米財務長官が首脳会談後にコメントしているが、新華社通信の報道では農産物の輸入拡大に合意と述べるにとどまっている
  • 今回のフェンタニル関税により中国への相互関税は57%から47%に引き下げられる(第1次トランプ政権が中国からの輸入品に課した約25%の関税、今回半減したフェンタニル関税10%、従来からの最恵国待遇関税率約12%)
    • これは現在米国がインド、ブラジルに課している相互関税50%よりも低い
  • ウクライナ問題については協議されたが、合意等には至らなかった模様

同日の米国株式市場の動き

米中首脳会談が行われ、上述した様な合意に至ったものの主要3株式指数はいずれも下落しており、市場への影響はほとんどなかった模様。直近のS&P 500の推移を見てみると

上述した週末25、26日に行われた米中閣僚級会合で楽観的な見方が広まり、27日(月)の株価上昇に既に織り込まれていたものと思われる。

この日は前日取引終了後に決算を発表したメタ・プラットフォームズ(META)が来年AI投資により、設備投資が今年の水準を大幅に上回るとの見通しを示し資金調達のため社債発行を発表したことで11.3%の大幅下落、またマイクロソフトも四半期の設備投資額が過去最高の350億ドル近くとなり、今年度の設備投資も増加する見通しで2.9%下落するなど、AI投資が一層大きくなることへの懸念から大型ハイテク銘柄が下落し、ハイテク銘柄の占める割合の大きいNASDAQ総合、S&P 500が大きな下落となったようだ。

米国10年債

こちらは前日のFOMC会合後の流れ(債券市場はパウエル議長の会見途中で閉場)を引き継いだこと、上述したメタ・プラットフォームズの社債への乗り換え準備などから、取引開始直後から米国債の利回りは上昇(つまり売られた)となった。

直近では

利回り4%前後で落ち着いていたのだが、29、30日の両日で利回りは大きく上昇している。とはいえ1%ポイント程度だが。

ドル円為替

ドル円為替は目立った変動は無し。日銀が金融政策決定会合で政策金利を0.5%程度に据え置くことを7対2の賛成多数で決定(上記チャートの10月30日03:00頃)したドル高の流れが続いており1ドル=154円台を挟んでの推移。

あえて言えば米国市場開場後にドル高の流れが止まった様に見えるが、流石にドル高が行き過ぎていると見られてのことだろう。少なくとも米中首脳会談はあまり関係なさそう。


まとめ

以上、直近の米中の動きと今回の米中首脳会談結果、それを受けて市場がどう反応したかについてまとめてみた。

米中首脳会談の結果が概ね想定通りだったこともあってか、株式市場は大型ハイテク銘柄の今後のAI投資出費に対する懸念、債券市場は前日のFOMC後のパウエル議長の会見やメタ・プラットフォームの社債発行、ドル円為替は日銀の政策金利据え置き決定といった米中首脳会談とは関係ないところでの反応が主だった印象がある。

とはいえ米中首脳会談が物別れに終わっていた場合もゼロではなく、その場合は市場が大きく混乱していた可能性があるので、残念ながら自分が思ったほど株式市場が上昇とはならなかったものの、米中首脳会談が無事に着地したことを喜ぶべきだろう。

細かいところで米中の表現に違いからみられる(大豆など)ので、文書化された合意の内容が調印されるまでは気に留めておく必要はあるだろうが、これでひとまず米中の貿易摩擦は一段落したことを願いたい。

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