はじめに
色々と紆余曲折のあった米国の相互関税は、基本的に2025年8月7日米国東部時間午前0時1分以降に通関した貨物への適用が始まった。
これまでの経緯については主に
トランプ政権が新たな関税を通知/交渉期限延長(2025/7)
トランプ政権の新たな相互関税内容まとめ(2025/7/12時点)
2025年8月1日発動予定だった米国の相互関税がどうなったか
で整理してきたが、2025年8月7日から適用開始された米国の新たな相互関税に関する8月11日時点の状況を整理しておくことにする。
2025年8月11日時点の米国相互関税概要+α
特記が無い限りは米東部時間。
- 2025年7月30日に米国は、少額貨物の輸入(800ドル以下)に関する非課税基準額(デミニミス)ルールを廃止する大統領令を発表
- デミニミスルールは7月4日に成立した「One Big Beautiful Bill Act(大きく美しい1つの法案法)」により2027年7月1日での廃止が決まっていた
- 今回の大統領令はそれを約1年半前倒しし、8月29日から適用
- 2025年7月30日に米国は、ブラジルからの輸入に対して40%の追加関税を課す大統領令を発令
- 追加関税率は50%となり、大統領令の発令日の7日後の米国東部時間午前0時1分に発効
- ただし約4割の品目は対象外
- 米国の相互関税は原則米国東部時間8月7日午前0時1分以降に通関した貨物から適用
- カナダに対してはUMSCA協定の対象品以外に8月1日から35%の相互関税適用済み
- 相互関税率は大統領令の付属書Iに列挙した国・地域に対して、個別に定めている
- 付属書Iに記載のない国・地域に対しては、ベースライン関税10%が適用
- 主な適用例外は以下の通り
- 米国東部時間8月7日午前0時1分より前に積載港で船舶に積み込まれ、最終輸送手段で輸送中であり、かつ同10月5日午前0時1分までに通関した貨物に対してはベースライン関税10%が適用
- 米国・メキシコ・カナダ(USMCA)協定適用対象品
- 既に追加関税を課している品目
- 鉄鋼・アルミニウム(50%)
- 自動車・自動車部品(25%)
- 銅(50%)
- 相互関税を回避する迂回輸出と判断された場合、相互関税に代わって40%の追加関税が課される(具体的な判定基準は示されず)
- 8月4日に発表された米国税関・国境警備局(CBP)の文書によると、EUに対してのみ、一般関税率(MFN税率)が15%以上の場合は相互関税率がゼロになり、15%未満の場合は一般関税率と相互関税率を合計して15%になると明記
- 8月7日に赤澤経済再生相がラトニック米商務長官、ベッセント米財務長官と会談
- 赤澤経済再生相は、相互関税に関する合意の内容(EUと同様)を改めて確認した上で米国に対して、可及的速やかに相互関税に関する大統領令を修正する措置を取ること、また自動車・自動車部品の関税を引き下げる大統領令を発出することを申し入れた
- 8月8日、日本経済新聞の取材に対し、ホワイトハウス当局者が日本にも欧州連合(EU)と同じ措置を適用するように米国が修正することで両国が合意したと説明したと報道
- 米国は今後、日米合意の内容に沿うよう大統領令を修正し、支払い過ぎた関税の還付手続きを行う。ただし大統領令修正の適用タイミングなどは不明
- 8月11日のNHK報道では約50日とも
- 8月11日時点での米貿易トップ10の国/地域の新たな相互関税率は以下の通り。太字は合意/あるいは米国が通達した最新の相互関税率
- メキシコへの新たな相互関税発動はは7月末に90日間延長で合意
- 中国の相互関税交渉期限は8月12日
- 台湾は前回7月末からの間で相互関税率に変更なし
- インドは前回7月末からの間に相互関税率が50%に倍増
- 米国は8月6日、ロシアからエネルギーを輸入しているインドに対して追加で25%の関税を賦課する大統領令を発表
- 既存の25%に上乗せして8月27日から適用される
- その他関税が引き上げられた目立つ国はスイスで31%から39%
- 英フィナンシャル・タイムズがスイスの相互関税39%に関連して、スイスの金精錬業者がこの点について問い合わせたところ、米国税関・国境警備局(CBP)は、1キログラムと100オンスの金塊は関税の対象となると明確に説明したと報道
- 金取引関係者の間では、この種の金地金はトランプ米大統領の関税の対象外になると見られていた
- 金は金融資産であり国際通貨としての役割も担っているため、関税の影響を受けてきた銅などの他の商品とは異なる影響が出てくる可能性もある
まとめ
以上2025年8月7日に発動した米国の相互関税の現状についてまとめてみた。
ただ、既に米株式市場はその影響を織り込み済みだったためか週間でS&P 500は
2.4%の上昇となり、4月の米相互関税発動の様な事態にはならなかった。
ただしこれで相互関税が落ち着いたわけではなく、相互関税に合意した国/地域でも日本を含めて詳細まで完全に決着した訳ではない(一番最初に合意に達した英国でも未だ協議は続いている)し、新たな相互関税率の影響が経済指標に出てくるには時間がかかる。そして8月12日には米中の関税大幅引き下げ合意90日間の期限が切れるため、まだまだ予断は許さない状況。
まずは米中の関税が市場の想定範囲内に収まり、米国の相互関税にもかかわらず落ち着いていた米国市場の大幅下落へのキッカケとならないことを願いたい。