はじめに
現地時間2025年7月3日(木)の米国株式市場閉場後、2025年米大型減税・歳出法案、いわゆる「One Big Beautiful Bill Act(大きく美しい1つの法案)」が米下院で可決され、翌日7月4日(金)にトランプ大統領の署名をもって成立した。
2025年3月に3回目のつなぎ予算案が可決されてから法案成立までには様々な出来事があったが、以下簡単に経緯・内容をまとめると共に法案成立を受けて米国市場がどう反応したかについて整理し、まとめておくことにする。
2025年米大型減税・歳出法案が可決に至るまでの動き
以下は2025年3月のつなぎ予算可決以降の主な動き。
2025年5月12日
- 米連邦議会下院の歳入委員会が、減税や歳出削減、債務上限引き上げなどをまとめた、いわゆる「One Big Beautiful Bill Act」のうち、税制に係る部分の条文案を発表(税制以外の条文案については、各委員会ごとに歳出削減などに係る該当部分の条文案を発表)
- 主な内容は以下の通り
- 個人向け減税
- 企業向け減税
- インフレ削減法(IRA)下でのエネルギーなどに関連する税額控除の見直し
- 不法移民への給付の防止
- 債務上限の4兆ドル分の引き上げ
2025年5月16日
- 米格付け会社ムーディーズ・レーティングが米国の信用格付けを最上位の「Aaa」から「Aa1」へと1段階引き下げ
- 理由として「One Big Beautiful Bill Act」による以下の点を挙げている
- 今後10年間で米国の財政赤字は約4兆ドル増加する
- その結果2035年までに米国の債務負担はGDPの134%に達する可能性がある
- 米国の経済と財政の力強さは認識しているが財政状況は歴代政権の結果であり、もはや財政指標の低下を完全に相殺することはできないと考えている
- 理由として「One Big Beautiful Bill Act」による以下の点を挙げている
2025年5月22日
- 米連邦議会下院が「One Big Beautiful Bill Act」を賛成215、反対214、棄権1の僅差で可決
以降は下院で可決された「One Big Beautiful Bill Act」に対する修正案が上院を中心に議論されていた。
2025年7月1日
- 米連邦議会上院が、下院で可決されていた「One Big Beautiful Bill Act」の修正案を賛成51、反対50で可決
- 議員票では賛否ともに50で同数だったが、規定に従いバンス副大統領が賛成票を投じたことにより可決している
- メディケイド、州税に係る税額控除幅(SALT)、インフレ削減法(IRA)に基づく税額控除の見直し、債務上限の引き上げ5兆ドルが下院案との違いで、修正に伴う財政赤字のさらなる拡大など、財政保守派から反発の強い内容が盛り込まれている
- この修正案は下院に送付され、再度可決される必要がある
2025年7月2日
- 米共和党下院の財政保守派が上院で可決された「One Big Beautiful Bill Act」修正案を批判するメモを発表
- このメモでは上院修正案の問題点について15項目が挙げられているが、主な点は以下。
- 財政赤字の増加
- インフレ削減法(IRA)に基づくクリーンエネルギー関連の税額控除の終了がされていない
- 不法移民のメディケイド(低所得者層向けの公的医療保険)受給を阻止するのに有効な規定が削除されている
- 民主党州に恩恵を与えるSALT控除の拡大
2025年7月3日
- 米連邦議会下院が「One Big Beautiful Bill Act」の上院修正案を賛成218、反対214で可決
- 共和党財政保守派に対しては、インフレ削減法(IRA)に基づく風力・太陽光発電向けの税額控除の運用を厳格化することなどが約束され、支持を取り付けた模様
2025年7月4日
- トランプ大統領が「One Big Beautiful Bill Act」に署名
最終的な「One Big Beautiful Bill Act」の概要
法案の内容は多岐に渡るため、ここでは概要に留める。
- 総額4兆5000億ドル規模の減税
- チップ収入、超過勤務手当、高齢者、自動車ローンに対する新たな減税措置が盛り込まれ、トランプ大統領の選挙公約が実現された
- トランプ大統領が1期目の2017年に実施した個人・法人減税は2025年末に期限切れとなるはずだったが、法案によって回避された。これらの減税は恒久化され、親や企業に対する減税措置が拡大される
- 減税の一部は歳出削減によって賄われることになり、セーフティネットの要件は厳格化され、バイデン前政権下で導入されたクリーンエネルギー関連の税額控除の多くは段階的に廃止される
- 連邦債務の法定上限を5兆ドル引き上げ
- 短期的にはデフォルト(債務不履行)の可能性が回避される一方で、債務拡大により法案に盛り込まれた景気刺激策の効果が抑制され、長期的には借り入れコストの上昇リスクを生むのではないかとの懸念もある
- 議会予算局(CBO)は、この法案によって今後10年間で米財政赤字が3兆4000億ドル増え、1兆1000億ドルの歳出が削減されると予測
- 歳出削減は主に7100万人の低所得者層をカバーする医療保険メディケイドからもたらされ、加入基準が厳格化され就労要件が設けられることから、1200万人近くが今後、保険に加入できなくなる可能性がある
トランプ大統領の署名前の式典のでコメント
- まさに公約は守られた
- この法制化は(強い米国を取り戻すための取り組みとして)これまでで最大の勝利だ
- これほど多くの人々が喜んでいるのを見たことがない。軍関係者、市民、あらゆる職種の人々、それぞれの立場が大切にされているからだ
- これこそが史上最大の減税、最大の歳出削減、国境安全保障に対する米国史上最大規模の投資だ
与党共和党の見解
- 「One Big Beautiful Bill Ac」により国民の税金が幅広く引き下げられ、経済成長に拍車がかかる
- 共和党のジョンソン下院議長は「経済にとってのジェット燃料にあたる」と発言
民主党の見解
- 富裕層への優遇措置になると厳しく批判しており、下院全ての民主党議員が反対
- 民主党全国委員会のケン・マーティン委員長は、同法の成立により2026年の議会選挙で共和党が票を失うと予想し、「今日、トランプ氏は共和党の運命に引導を渡した。共和党はもはや富裕層と特権層のための政党であり、働く人々の味方ではない」とコメント
まとめ
以上、2025年米大型減税・歳出法案、いわゆる「One Big Beautiful Bill Act(大きく美しい1つの法案)」の成立と、その最終的な概要についてまとめてみた。
下院通過が7月3日(木)の米国株式市場閉場後、トランプ大統領の署名は7月4日(金)で米国は独立記念日のため祝日ということもあって、この法案成立が米国市場にどの様な影響を及ぼすのかは定かではない。市場がどう反応するのかには要注目。
そして週明け7月7日(月)週はこの法案に対する市場の反応に加えて、米国が4月に90日間一時停止した相互関税上乗せ分の期限となる週でもあり、波乱含みとなるだろう。
短期的な市場の動きはともかく、長期的にはアメリカの財政赤字が拡大することは有力視されており、そうなると米国債や米ドルの信頼低下、そして米国株式市場からの資金引き上げにつながる可能性もある。数年後、10年後にこの法案はどのような評価を受けているのだろうか。