はじめに
2025年5月12日(月)に掲題の通り、米中が関税を90日間大幅引き下げをすることで合意したことが発表された。
市場が実際にどう反応したかは別途まとめるとして、これまでの米中関税と今回の合意内容について整理しておくことにする。
2025年これまでの関税に関する米中の主な動き
- 米国はフェンタニルをはじめとする違法に製造された麻薬性鎮痛薬の米国への流入阻止を目的として、中国の全製品に対して10%の追加関税を発動
- 上記措置を受け、中国は米国からの輸入品(主に液化天然ガス、石炭、原油など)に対し追加関税を賦課する措置を2月10日から実施することを発表
- 米国は中国が違法薬物の危機を緩和するための適切な措置を講じていないこと、フェンタニルなどの流入危機が沈静化していないことから、追加関税率を2月の10%から20%へ引き上げる措置を発動
- 上記措置を受け、中国は米国からの輸入品(対象品目計740品目)に対し10~15%の追加関税を賦課する措置を3月10日から実施することを発表
- 米国は相互関税として各国に基本10%、対米貿易黒字の大きい約60カ国・地域を対象に上乗せ税率をそれぞれ適用し発動。中国はへの関税は34%で、2月、3月の措置を併せて54%
- 4月2日の米相互関税措置を受け、中国は米国からの全輸入品に対し34%の追加関税を賦課する措置を4月10日から実施することを発表
- 米国が4月4日の中国の報復措置への対抗措置として、4月9日から更に中国への追加関税50%を課すことを発表。中国への追加関税合計は104%となる
- 上記措置を受け、中国は4月4日に発表した米国からの全輸入品に対する追加関税34%を84%に引き上げたことを発表(実施は4月10日で変わらず)
- 米国は4月2日の相互関税措置の上乗せ関税分を90日間一時停止を即時発動することを発表。しかし中国への関税は逆に125%へするとトランプ大統領がSNSに投稿。この125%には2、3月分は含まれないため、中国への追加関税合計は145%となった
- 上記措置を受け、中国は米国製品への関税を12日から125%にする措置を発表
- 中国は米国がこれ以上関税を上乗せしたとしても付き合わないことを示唆
今回合意までの米中の関税は、米国から中国製品に対して145%、中国から米国製品に対して125%だった。
2025年5月12日の米中関税合意内容と直近の経緯
【2025年5月7日】
- 中国外交部が何立峰副首相による5月9~12日のスイス訪問中に米国側との会談を実施すると発表
- トランプ大統領は、中国を交渉のテーブルにつかせるために追加関税をやめる可能性はあるかという記者団の質問に対し「No」と回答
【2025年5月8日】
- 中国商務省の定例記者会見で何亜東報道官が、米国は誠意を持って協議に臨み、誤りを正し一方的関税を撤廃する必要があると発言
- 別の中国外務省の会見で林剣報道官が、中国は原則として自国の正当な権利と利益を守るという立場を変えない。国際的な公正と正義を守るというわれわれの立場と目標は変わらないと発言
【2025年5月9日】
- トランプ大統領がSNSに「80% Tariff on China seems right! Up to Scott B.(中国に対する関税は80%が適切だろう!それはベッセント米財務長官次第だ)」と投稿
【2025年5月10日、11日】
- 米中による貿易協議がスイスのジュネーブで開催
- 米国からはベッセント財務長官、ジェイミソン・グリア通商代表、中国側からは何立峰副首相が出席し会談を主導
【2025年5月12日】
- 共同声明で以下の合意内容を発表
- 米国は中国に対する関税率を5月14日までに145%から30%に引き下げる。これには違法薬物フェンタニルの流入に絡む関税も含まれる
- 中国は米国に対する関税率を125%から10%に引き下げる
- いずれも期間は90日間
- 前述の措置を講じた後、両国は経済・貿易関係に関する協議を継続するためのメカニズムを構築する
- 共同声明発表後
- ベッセント財務長官のコメント
- 両国は自国の国益を非常によく代表した。両国とも均衡のとれた貿易に関心を持っており、米国は引き続きその方向へ進んでいく
- 双方ともにデカップリング(経済的分断)を望んでいないという点で一致している
- フェンタニル対策に関して非常に活発で実りある議論ができた
- 米中の貿易収支不均衡の是正に向け購入協定を締結する可能性がある
- 協議で為替については話し合わなかった
- 今回発表された関税率引き下げは、米国が全ての貿易相手国・地域に賦課している特定分野の関税には適用されず、4月2日に中国に対して課した追加関税も引き続き維持される
- 中国国営新華社通信
- 中国は常に相互尊重の原則に基づいて米国との関係に対処してきた
- 中国は米国との関係の安定的な発展にコミットしており、圧力や脅迫を用いることは中国に対処する正しい方法ではない
- ベッセント財務長官のコメント
まとめ
今回の会談前の段階では米中両国がそれぞれ強硬な立場を明確にしており、合意に至るまでの道のりが険しいと思われていたのだが、実際には一時的とはいえ関税の引き下げに合意し、共同声明を発表するという自分にとっては想定外の結果になった。
これを書いている現在米国株式市場はまだ取引を開始していないのだが、米中の関税懸念が和らいだことから大幅上昇が見込まれており、ドル円為替は
発表のあった日本時間16時(上記GMT+1の8:00)に1ドル=146円前後から148円前後まで2円近く上昇している。
今後はこの90日間の引き下げ期間中に、米中がどのレベルで合意に達することが出来るか(あるいは合意に至らないか)という点がポイントとなる。個人的には今回90日間引き下げとはなったもののどの程度が落としどころなのか見当もつかない。今回合意前までは米中の隔たりは大きかった様に思われたが、予想外に合意に達したことを考えると90日の間に更なる合意に達する可能性は高まっただろうから、何とか世界的な経済減速とならないよう両国間で上手い落としどころを見つけて欲しいものだ。