はじめに
昨日のシティグループ(C)最高財務責任者(CFO)Mark Mason氏の講演まとめで
「明日のBarr氏(Michael S. Barr氏、FRB副議長/金融規制担当)の講演でバーゼルIIIの進展について明らかになる」
と言及されていた米銀行資本規制(バーゼルIII)の修正案概要が2024年9月10日(火)に発表された。以下、その内容について確認し整理しておく。
2024年9月10日(火)Brookings InstitutionにおけるFRB副議長Michael S. Barr氏の講演
以下は米連邦準備制度理事会(FRB)のサイトより引用・抜粋。
- 1年と少し前、理事会は大手銀行のリスクベースの資本要件を修正する2つの規則案について意見を求め、提案の規定だけでなくその規定の根拠や分析についても多数のコメントが寄せられた
- 提案の総合的な影響を評価するため収集したコメントとデータの分析に取り組み、理事会、他の連邦銀行規制機関である連邦預金保険公社(FDIC)、通貨監督庁(OCC)と多くの生産的な会議を行ってきた
- このプロセスを経て、提案に対する広範かつ重大な変更が正当であるとの結論に至った
- 私は理事会がバーゼル最終案とG-SIBサーチャージ規則を再提案することを推奨するつもりで、これにより人々は当初の提案に対するいくつかの重要な広範かつ重要な変更点を十分に検討し、コメントを提供する機会が得られる
- 最終段階の再提案における変更は、信用リスク、業務リスク、市場リスクなど、規則の主要分野すべてに及ぶ
- 資産が1000 億ドルから2500億ドルの銀行は、規制資本に証券の未実現損益を認識するという要件を除き、最終段階の変更の対象ではなくなる
- 最大規模で最も複雑な銀行であるG-SIBsの普通株Tier1資本要件は合計9%増加することになる
- G-SIBsではない他の大手銀行の場合、再提案の影響は主に証券の未実現損益が規制資本に含まれることから生じ、長期的には資本要件が3~4%増加すると推定される
- 依然として規則の対象となる非GSIBs企業の資本要件は0.5パーセント増加
- これらの変更案は提案の最も重要な側面の一部に影響を及ぼしますが、再提案で明示的に対処されていないものも含め、再提案のいかなる側面についても当局は最終決定を下していない。これらの再提案で潜在的な変更が省略されているからといって、当局が提案どおりに条項を最終決定する兆候であると見なすべきではない。2023 年の提案に関してすでに受け取ったコメントを引き続き検討しており、それらのコメントを再提案に関して提出されたコメントとともに最終的な規則制定の一環として検討する。これは暫定的なステップであり、私たちは提案のあらゆる側面についてコメントを歓迎していることを改めて述べたい
以降は変更点の詳細説明とまとめのため省略。そして前提として「ここで述べる意見は私自身のものであり、連邦準備制度理事会や連邦公開市場委員会の同僚の意見と必ずしも一致するものではない」としている。
まとめ
自分が所有している大手米銀株であるJPモルガン・チェース(JPM)やシティグループ(C)に関する資本要件は2023年当時は約19%の資本要件引き上げが見込まれていたが、上述の通り今回の変更では9%増加と約半分になった。
しかし主要米銀株は
JPモルガンを筆頭に大きく下落。同日の米国市場が
ハイテク銘柄の割合が多いNASDAQ総合、S&P 500が上昇、ダウ工業平均も前日比ややマイナスで終えているのと比べると見劣りがする。今回の修正案は最終決定ではないものの、前回からのさらなる資本要件緩和を市場が期待していたのかもしれない。
また冒頭で言及したシティのCFOが講演を行った2024 Barclays Global Financial Services Conferenceの2日目で、JPモルガンの最高執行責任者(COO)のDaniel Pinto氏が
- 純利息収入と純利息支出の目標をすべて達成するペースにあるが、アナリストらが予想している2025年の利益額はやや楽観的すぎる(a bit too optimistic)。来年はもう少し厳しい年になる
- (資本要件の増加が)20より10がいいのは明らかだ。それはいいことだ。問題は何を変更したのか全くわからないことだ
などと発言したことが材料視されたため資本要件緩和にもかかわらずJPモルガンが大きく下落し、その他銀行もつられて下落したのだろう。
何とかこの1日の下落で悪材料を株価に反映して、資本要件緩和のメリットが改めて評価されてくれるといいのだが、本日米消費者物価指数(CPI)の発表内容次第では、FOMCでの利下げを睨んで良くも悪くも銀行株が大きく変動する可能性もある。しばらく銀行株は神経質な動きが続きそうだ。