はじめに
米国時間2月1日(土)にトランプ大統領は、カナダとメキシコ産の全製品に25%(カナダ産のエネルギー資源は10%の追加関税)、中国産の全製品に10%の追加関税を課す大統領令を発令した(実際の関税発効は米国時間2月4日午前0時1分)。
元々トランプ大統領は関税の引き上げを公約として掲げており、1月20日の大統領就任時すぐには実施しなかったものの、上記3国への課税を2月1日と考えている、と発言はしていた。
また3ヶ国への関税の目的は不法移民と合成麻薬フェンタニルをはじめとする違法に製造された麻薬性鎮痛薬の米国への流入を阻止すること、とトランプ氏は主張している。
そして実際に2月1日に大統領令が発令された訳だが、発令後初めての取引となる2月3日(月)の米国市場はどうなったのか、以下に整理しておくことにする。
2025年2月3日(月)の米国市場
米国株式市場
開場直後からダウ工業平均は1%台、S&P 500とNASDAQ総合は2%台と大きく下落となったのだが、その後急速に下げ幅を縮小している。ダウはほぼ横ばいまで戻り、NASDAQ総合は1%を超える下落で取引を終えている。
S&P 500の日中推移を見てみると
現地時間10時20分に急速に値を戻しているが目に付く。これはトランプ大統領がメキシコへの関税を1ヶ月延長すると発表したことによるもの。
米国10年債
債券市場のチャートは米国中部標準時(CST)は米国東部標準時(EST)と1時間の時差がある。
取引開始と共に利回りが低下し、その後は方向感に乏しい動きから一段と利回りが低下したが株式市場と同様にメキシコへの関税延期の報が伝わったタイミングで利回りは上昇。そしてその後は方向感が定まらない動きで前日比やや利回り低下で取引を終えている。
ドル円為替
ドル円為替チャートの英国標準時(GMT)は、米国東部標準時(EST)と5時間の時差がある。
ドル安傾向が続いていたものの、株式・債券市場と同様にメキシコへの関税延期が伝わったGMT15時過ぎにとドル高となり、その後米国株式・債券市場が閉場した後にはカナダへの関税延期も報道されたGMT23時過ぎに更にドル高傾向となった。そして米国の中国への関税が発動した4日GMT5時に少しドル安となったものの、中国の報復関税開始が2月10日と時間的余裕があるためかすぐに米国の関税発動と同水準の為替レートに戻っている。
2025年2月1日から4日までの米国の関税に関する動き
上述した様にトランプ大統領が追加関税の大統領令を発令して以来、米国市場は大きく変動した訳だがその動きを簡単にまとめてみる。以下は米国日付。
【2025年2月1日(土)】
- トランプ大統領がカナダとメキシコ産の全製品に25%(カナダ産エネルギー製品は10%)、中国産の全製品に10%の追加関税を課す大統領令を発令
- 関税発効のタイミングは米国時間2月4日午前0時1分
【2025年2月2日(日)】
- 中国はWTO(世界貿易機関)に提訴し、相応の対抗措置をとると表明
- 同時に率直な対話と理解を呼びかけ、協議の余地は残している
【2025年2月3日(月)】
- メキシコ関連
- トランプ米大統領とメキシコのシェインバウム大統領が電話協議を行い、トランプ大統領はメキシコに対する関税の発動を1ヶ月見送り、両国間の合意に向け交渉を続けると発表(米東部標準時9:20頃)
- ここでいう合意には以下のものが含まれる
- メキシコは米国への合成麻薬フェンタニルなどの麻薬の流入阻止に向け、国境警備を強化する
- 合意の一環としてメキシコは国境に1万人の部隊を派遣する
- 米国は高性能武器のメキシコへの密輸を阻止する
- 電話協議後のトランプ大統領コメント
- シェインバウム大統領と関税を巡り良い話し合いができた
- 今後メキシコとの大規模な交渉を計画している
- 電話協議後のシェインバウム大統領コメント
- 我々のチームは安全保障と商取引の2分野での作業を開始する
- 今後1ヶ月で、問題に取り組み、前進するための最善の方法として互いに納得することになるだろう
- カナダ関連
- トランプ米大統領とカナダのトルドー首相が電話協議を行い、それぞれソーシャルメディアでカナダに対する関税の発動を1ヶ月見送り、両国間の合意に向け交渉を続けると発表
- ここでいう合意には以下のものが含まれる
- カナダは国境警備に投資を行い、組織犯罪や合成麻薬フェンタニル、マネーロンダリングと戦うためのカナダと米国の合同部隊を創設する
- カナダはフェンタニル統括責任者を新たに任命し、米国と共に麻薬カルテルをテロ組織に指定する
- 中国関連
- 中国に対する10%の追加関税をさらに引き上げる可能性があると警告
- 一方で24時間以内に中国と協議する可能性があると発言
- その後ホワイトハウスのレビット報道官は、トランプ大統領が週内にも中国の習近平国家主席と電話会談を行うと明らかにした
【2025年2月4日(火)】
- 米国時間2月4日午前0時1分に中国からの全ての輸入品に10%の追加関税を発動
- 米国の対中追加関税が発動された後の中国の動き
- 中国財政省は米国産の石炭と液化天然ガス(LNG)に15%、原油、農機具、一部の商用車・乗用車に10%の関税を課すと発表
- 中国独占禁止当局は米アルファベット(GOOGL)傘下グーグルに対する調査を開始すると発表
- 中国商務省はカルバン・クラインなどのブランドを保有するPVHコープ(PVH)と米バイオテクノロジー企業イルミナ(ILMN)を「信頼できない企業リスト」に掲載したことを発表
- 中国商務省と税関当局は国家安全保障上の利益を保護するためとして、タングステン、テルル、モリブデン、ビスマス、インジウムの輸出規制を実施すると発表
まとめ
という事で米国日付2025年2月3日には様々な動きがあった。自分の米国株資産も寝る前は3万ドル近く減少し起きたらどうなる事かと身構えていたのだが、
最終的には約2800ドル減少とダウ工業平均と同程度の下落に留まってくれていた。
しかしトランプ大統領と習近平国家主席との会談は計画されているものの、米国の中国への関税は発動し、中国も10日報復関税を開始する予定などの対抗措置を取っており、まだまだ予断を許さない状況。カナダとメキシコの関税措置も1ヶ月延期されただけで取り消された訳ではない。
トランプ氏が2025年1月20日大統領に就任した際のまとめで
「やはりトランプ大統領が任期期間中は、突発的な発言や施策によって市場が大きく変動する機会が増えそうである。それが自分の資産や生活にとって悪い方向とならないことを願いたい。これまで以上に落ち着かない日々が続くのだろうか・・・。」
と書いていたのだが、早々にその様な事態が発生してしまっている。
トランプ大統領の任期中はこの様な事態が、自分が予想しているよりも高頻度で起こり得ることを再認識して、変化に対する耐性を上げていくことを心掛けていきたい。