はじめに
2025年10月に入ってからの米国株式市場は、未だ米2026会計年度のつなぎ予算が成立しない状態が続いている中で意外にも持ちこたえ、米主要3株式指数は小幅ながらも上昇し最高値を更新する日が多かった。
しかし2025年10月10日(金)の米国株式市場は
自分が寝る前までは10月の堅調な流れでややプラスだったのが、ある時点から急激に悪化して主要3株式指数ともに大きく下落し、1日で10月の上昇分を上回る下落となって取引を終えている。
下落の要因は明らかに掲題の件のため。以下、トランプ大統領のSNSへの投稿/記者団への発言、そして米国市場の動きについて整理しておくことにする。
2025年10月10日トランプ大統領のSNSへの投稿及び記者会見での発言
以下はトランプ大統領のTruth Socialへの投稿、ブルームバーグ、ロイターの報道より引用・抜粋。
最初の投稿(米国東部夏時間11時前)
- Some very strange things are happening in China! They are becoming very hostile, and sending letters to Countries throughout the World, that they want to impose Export Controls on each and every element of production having to do with Rare Earths, and virtually anything else they can think of, even if it’s not manufactured in China. Nobody has ever seen anything like this but, essentially, it would “clog” the Markets, and make life difficult for virtually every Country in the World, especially for China.
中国で非常に奇妙なことが起こっている!彼らは非常に敵対的になり、世界各国に書簡を送りつけ、レアアースに関連するあらゆる生産要素、そして中国産でなくても彼らが思いつく限りのあらゆるものに輸出規制を課したいとしている。このような事態は前代未聞だが、実質的には市場を「閉塞」させ、世界のほぼすべての国、特に中国にとって困難な状況をもたらすだろう - We have been contacted by other Countries who are extremely angry at this great Trade hostility, which came out of nowhere. Our relationship with China over the past six months has been a very good one, thereby making this move on Trade an even more surprising one.
突如として現れたこの貿易における敵対行為に、他国から激怒する連絡を受けている。過去6ヶ月間、中国との関係は非常に良好だったので、今回の貿易に関する動きはさらに驚くべきものとなっている - I have not spoken to President Xi because there was no reason to do so. This was a real surprise, not only to me, but to all the Leaders of the Free World. I was to meet President Xi in two weeks, at APEC, in South Korea, but now there seems to be no reason to do so.
習近平国家主席と話をしなかったのは、そうする理由がなかったからだ。これは私だけでなく、自由世界のすべての指導者にとって本当に驚きだった。2週間後、韓国で開催されるAPECで習近平国家主席と会う予定だったが、今はそうする理由がなくなったようだ - I never thought it would come to this but perhaps, as with all things, the time has come. Ultimately, though potentially painful, it will be a very good thing, in the end, for the U.S.A. One of the Policies that we are calculating at this moment is a massive increase of Tariffs on Chinese products coming into the United States of America. There are many other countermeasures that are, likewise, under serious consideration.
こんなことになるとは思っていなかったが、恐らくあらゆる物事と同様に、その時が来たのだろう。最終的には痛みを伴う可能性はあるがアメリカにとって非常に良い結果となるだろう。現在検討中の政策の一つは、アメリカ合衆国に輸入される中国製品への関税の大幅な引き上げだ。同様に他にも多くの対抗策が真剣に検討されている
米国市場閉場後の投稿(米国東部夏時間17時前)
- It has just been learned that China has taken an extraordinarily aggressive position on Trade in sending an extremely hostile letter to the World, stating that they were going to, effective November 1st, 2025, impose large scale Export Controls on virtually every product they make, and some not even made by them. This affects ALL Countries, without exception, and was obviously a plan devised by them years ago. It is absolutely unheard of in International Trade, and a moral disgrace in dealing with other Nations.
中国が貿易に関して極めて攻撃的な姿勢を示し、世界に向けて極めて敵対的な書簡を送付したことが分かった。書簡では2025年11月1日より、自国製品のほぼ全て、そして一部は自国以外で製造された製品にも大規模な輸出規制を課すと述べられている。これは例外なく全ての国に影響を及ぼし、明らかに中国が何年も前に考案した計画だ。国際貿易においてこのような行為は全く前代未聞で、他国との取引において道徳的に不名誉な行為だ - Based on the fact that China has taken this unprecedented position, and speaking only for the U.S.A., and not other Nations who were similarly threatened, starting November 1st, 2025 (or sooner, depending on any further actions or changes taken by China), the United States of America will impose a Tariff of 100% on China, over and above any Tariff that they are currently paying. Also on November 1st, we will impose Export Controls on any and all critical software.
中国が前例のない措置を取ったという事実を踏まえ、米国のみを代表し、同様の脅威にさらされた他の国々を代表しない形で、2025年11月1日より(あるいは中国の今後の行動や変更次第ではそれより早く)、米国は中国に対し現在中国が支払っている関税に加えて100%の関税を課す。また11月1日より、あらゆる重要なソフトウェアに輸出規制を課す - It is impossible to believe that China would have taken such an action, but they have, and the rest is History.
中国がそのような行動を取るとは信じ難いことだが実際にそうした。そして、その後は歴史が物語っている
2件目のSNS投稿以後の記者会見での応答
- 習近平国家主席との会談は中止したのか?
- いや、まだ、中止していない。開催されるかわからないが、私は現地に行くつもりだ。だから、おそらく行われることになるだろう
- 中国への追加関税の発動について
- 中国がレアアース輸出規制を撤回すれば、追加関税を取り下げる可能性もある
- だから(発動日を)11月1日にした。どうなるか見てみよう
今回の中国への追加関税警告の契機
直接的な契機は上記でも触れられているレアアースに関して、2025年10月9日に中国が輸出規制を強化する方針を示したこと。中国商務省の発表によれば
- 中国産レアアースが使用された製品を輸出する外国企業は同省から輸出ライセンスを取得する必要がある
- レアアースの採掘、磁石の製造、鉱物のリサイクルに関する技術は同省の許可がない限り禁止される
- 軍事用途に関しては原則として許可されない
- 半導体の研究・開発に使われる一部のレアアース製品については個別に審査を行う
といった点が主な項目。中国はレアアース世界供給の約70%を占めていると言われる。
また中国関連ではこれ以外にも2025年10月9日、10日に以下の発表や報道がなされている。
2025年10月9日
- 中国商務省が、一部のリチウムイオン電池および正極材や黒鉛負極材の輸出について、11月8日以降は政府の許可が必要になると発表
2025年10月10日
- 中国交通運輸省が、米国船舶が中国の港に寄港する際に特別料金を課す方針を発表
- 交通運輸省はこの措置について、中国で建造、所有される船舶に対し米国が14日から港湾使用料を課す計画であるため、その報復だと説明
- 国家市場監督管理総局(SAMR)が、米半導体製造大手クアルコムによるイスラエルのオートトークス買収について、競争法上の調査に着手したと発表
- 英フィナンシャル・タイムズが、米国の輸出規制に準拠しつつ中国向けに設計されたエヌビディア製の人工知能(AI)アクセラレータ「H20」などの半導体製品について、輸入規制の取り締まりを水際で強化していると報道
- 中国各地の主要港では、税関職員のチームが数週間前から動員され、厳重な検査が実施
- エヌビディア製のH20と「RTX Pro 6000D」が取り締まりの対象となっており、中国向けに設計されたエヌビディア製半導体製品の発注を確実に止めることが狙い
- 8月に中国当局は、政府向けのほか、国有企業や民間企業が国家安全保障関連の業務にH20製品を使用することに強く反対する指針を企業に通達したとブルームバーグが報道している
またアメリカの農産物輸出の14%を占める大豆はここ数ヶ月輸入停止となっている(2024年アメリカの大豆輸出総額245億ドルのうち、半分以上の125億ドルが中国向けだった)。
2025年10月10日の米国市場の動き
米国株式市場
S&P 500の日中の動きを見てみると
開場直後から前日比ややプラスでほとんど動きのない状態が続いていたが、トランプ大統領のSNS投稿があったタイミングで急激に下げ幅を拡大して取引を終えていることから、(この時点では)対中関税の大幅引き上げに関する懸念が下落原因だったことが判る。
米国10年債
米国10年債も取引開始から落ち着いた動きが続いていたが、トランプ大統領のSNS投稿で利回りが大きく低下してそのまま取引を終えている。
対中関税の大幅引き上げによる米経済減速が懸念され、比較的安全と見なされる米国債に資金が移動したことで利回りが低下したのだろう。
ドル円為替
トランプ大統領の1回目のSNS投稿前までは1ドル=152円台半ばでの推移が続いていたが、1回目のSNS投稿を受けて一気に1ドル=151円台半ばまでドル安に。その後1ドル=152円に戻ったがややドル安傾向となって1ドル=151円台後半での動きが続いていたのだが、週の取引を終える直前にトランプ大統領の2回目のSNS投稿(追加関税100%、ソフトウェア輸出規制に言及)があり、再びドル安となり1ドル=151円台前半で取引を終えている。
まとめ
以上2025年10月10日の米国株式市場急落の原因となったトランプ大統領の中国への追加関税の動きについて整理してみた。
最近米中関係では市場に影響が出るようなことは起こっていなかった(自分が気が付いていなかっただけかもしれないが)だけに、自分にとっては大きなネガティブサプライズ。
5月に90日間、8月に更に90日間延長された米国の対中相互関税大幅引き下げの期限が11月10日に迫っているため、冷静に考えると何らかの交渉や駆け引きがあってもおかしくない時期ではあった。
恐ろしいのはこの10月10日の米国株式市場の下落が、トランプ大統領の1件目のSNS投稿「米中首脳会談をしない」、「中国製品への関税の大幅な引き上げ可能性」のみを反映しており、2件目の「100%追加関税」、「ソフトウェア輸出規制」を「11月1日から」という情報が含まれていないこと(その後トランプ大統領は記者団に対して、SNS投稿からややトーンダウンした内容をコメントしたが)。
ただでさえ2026会計年度つなぎ予算が成立しない状況が続いている中で、10日には示唆されていた通り一部閉鎖政府機関の解雇が始まった(大規模と言われるが詳細は現時点では不明)とも伝えられており、週明けの米国株式市場は更に大きな下落となる可能性が高い。
日本の自民党で高市氏が総裁となったことでドル高となっているため、最近自分の資産はドルベースでは大きく減少する中、円ベースではそこまででもなかったのだが、今回の動きを受けて先行きは一層暗くなった。何とか米国株式市場の懸念材料が早期に解決してくれるといいのだが・・・。