はじめに
2025年10月14日(火)の米国市場は
- 先週から激しさを増した米中の経済摩擦
- 米2026会計年度のつなぎ予算が不成立で、それが長引く(上院で7回否決)中で一部政府機関閉鎖による各種経済指標発表の遅れ
という状況がどう変化するのかという事に加えて、その様な状況下でFRBパウエル議長が行う講演がどの様な内容になるのか、直近9月23日の講演からどの様な変化があるのか(ないのか)、本格化する米企業四半期決算結果がどうなるかという点に注目が集まっていた。
以下パウエル議長の講演内容を中心に、同日の米中の動き、つなぎ予算案の動向と、それらを受けての市場の動きについて整理しておくことにする。
2025年10月15日のFRBパウエル議長の講演概要
以下は、 67th Annual Meeting of the National Association for Business Economics, Philadelphia, Pennsylvaniaにおけるパウエル議長の講演、質疑応答より引用・抜粋。
講演は
- パンデミック下におけるFRBのバランスシートの重要な役割とそこから得られた教訓
- FRBの潤沢な引当金の運用体制とバランスシート規模の正常化に向けた進捗状況について
- 経済見通しについての簡単な説明
という内容。
【パンデミック下におけるFRBのバランスシートの重要な役割とそこから得られた教訓】
- 話としては興味深いが、直近の市場とは直接の関係が薄いので省略
【FRBの潤沢な引当金の運用体制とバランスシート規模の正常化に向けた進捗状況について】
- 潤沢な準備金制度は非常に効果的であることが証明されており、様々な困難な経済状況において政策金利をうまくコントロールするとともに、金融の安定を促進し、強靭な決済システムを支えている
- 我々が以前から表明している計画は、十分な準備金状況に合致すると判断される水準を若干上回る準備金が集まった時点でバランスシートの減少を止めるというもの
- 今後数ヶ月でその点に近づく可能性があり、私たちはこの決定の根拠となる幅広い指標を注意深く監視している
【経済見通しについての簡単な説明】
- 政府機関の閉鎖により一部の重要なデータの公表が遅れているが、入手可能な公的および民間セクターの幅広いデータは定期的に確認している
- 入手可能なデータに基づくと、雇用とインフレの見通しは4週間前の9月の会合以降、大きく変わっていないと言える
- しかしながら政府閉鎖前に入手可能なデータは、経済活動の成長が予想よりもやや堅調な軌道を辿っている可能性を示している
- 失業率は8月まで低水準を維持したものの、雇用者数の伸びは急激に鈍化した。これは移民と労働力参加率の低下に伴う労働力人口の伸びの鈍化が一因と考えられる
- このように労働市場の動きが鈍化しやや軟調な状況にある中で、雇用に対する下振れリスクは高まっているように見受けられる
- 9月の公式雇用統計は発表が遅れているが、入手可能なデータから解雇と雇用はともに低水準にとどまっており、家計の雇用機会に関する認識と企業の採用難に関する認識は、ともに下降傾向を続けていることが示唆されている
- 一方12ヶ月物コアPCEインフレ率は8月に2.9%となり、今年初めからわずかに上昇した。これはコア財のインフレ率の上昇が住宅サービスにおける継続的なデフレーションを上回ったため
- 入手可能なデータと調査は、財の価格上昇が広範なインフレ圧力ではなく主に関税を反映していることを引き続き示している
- 雇用の下振れリスクの高まりによりリスクバランスの評価が変化し、その結果9月の会合において、より中立的な政策スタンスに向けてさらに一歩踏み出すことが適切であると判断した
- 雇用目標とインフレ目標の間の緊張関係をうまく乗り越えていく上で、政策にとってリスクのない道筋は存在しない。この課題は9月の会合における委員会参加者の見通しのばらつきに顕著に表れている
- これらの見通しは新たな情報に基づき会合ごとに政策立案のアプローチが変化する中で、その確率が変化する可能性のある一連の結果を示すものとして理解されるべきであることを改めて強調する
- 我々はあらかじめ決められた道筋を辿るのではなく、経済見通しとリスクバランスの進展に基づいて政策を策定していく
【質疑応答】
- 関税の影響及びFRBの政策について
- 関税の緩やかな転嫁が持続的なインフレのように見え始めるリスクがある
- リスクが一段と均衡するに伴い、政策はより中立的なものへと移行する必要がある
- 利下げを急ぎ過ぎれば、インフレ対策は未完のままとなる可能性がある
- FRBの二大責務(物価安定、雇用最大化)の間にある緊張を踏まえ、政策を巡り非常に健全な議論が行われている
- (FRB内で)コンセンサスを得ることは素晴らしいが、より重要なのは正しい政策決定を下すことだ
- 政府機関閉鎖の影響について
- 政府機関閉鎖が長引き10月指標の発表が遅れれば、(政策金利決定は)より困難な状況になる
- 雇用について
- 移民制度変更の影響は、多くの予想よりも強力だった
- 求人件数のさらなる減少で失業率が上昇し始める可能性がある
- 人工知能(AI)が生産性に与える影響を検討するにはまだ早い
その他2025年10月15日の出来事概要
米つなぎ予算案
- 米国市場閉場後に8回目のつなぎ予算案採決が行われたが否決
- トランプ大統領が記者団に対し以下の発言
- 現在続いている連邦政府機関の閉鎖に伴って撤廃する民主党の政策のリストを17日に発表する予定
- (具体的な政策に触れていないが)政策の撤廃は恒久的になるだろう
- 米司法省が14日に裁判所に提出した声明によると、政府閉鎖が始まった10月1日以降、トランプ政権は4108人の職員を解雇(先週、別の裁判所提出書類では解雇者数は少なくとも4278人と推定されていた)
米中経済摩擦
- トランプ大統領がSNSに以下の投稿
- I believe that China purposefully not buying our Soybeans, and causing difficulty for our Soybean Farmers, is an Economically Hostile Act. We are considering terminating business with China having to do with Cooking Oil, and other elements of Trade, as retribution. As an example, we can easily produce Cooking Oil ourselves, we don’t need to purchase it from China.
中国が意図的に我が国の大豆を購入せず大豆農家に困難をもたらしていることは、経済的に敵対的な行為であると考えている。報復として食用油をはじめとする貿易関連事項に関して、中国との取引を停止することを検討している。例えば、食用油は自国で容易に生産できるため、中国から購入する必要はない
- I believe that China purposefully not buying our Soybeans, and causing difficulty for our Soybean Farmers, is an Economically Hostile Act. We are considering terminating business with China having to do with Cooking Oil, and other elements of Trade, as retribution. As an example, we can easily produce Cooking Oil ourselves, we don’t need to purchase it from China.
- Jamieson Greer米通商代表部(USTR)代表のCNBCでの発言
- 米中当局者が13日にワシントンで事務レベル協議を行った。レアアースの規制を巡る紛争を解決するチャンスはまだある
- 我々はこの問題を解決できると考えているが、中国がこうした体制を維持し、世界のハイテクサプライチェーンに拒否権を行使しようとする状況は回避しなければならない
- また中国当局は13日の協議で、規制の目的について矛盾した発言をした
- 中国側は今回の規制措置について、米国の他の措置に対する報復を意図していると同時に、国家安全保障上の目的にもかなうものだと主張したが、その2つを両立することはできない
- (米中)双方が影響力を持っている。我々には独自の輸出規制があり、必要であれば導入できる。しかし、それは我々が目指していることではない。中国と良好な関係を築こうとしており、中国側が変化する必要がある
米大手銀行の決算発表と株価
10月14日に決算発表があったのはJPモルガン・チェース(JPM)、シティグループ(C)、ウェルズ・ファーゴ(WFC)。バンク・オブ・アメリカ(BAC)は10月15日。
決算を受けてJPモルガンは下落となったが、シティ、ウェルズ・ファーゴは大きく上昇。S&P金融セクター全体も1.12%上昇。
2025年10月14日の米国市場の動き
米国株式市場
14日に中国が各種海運関連の対抗措置を実施/発表していたことで、米主要3株式指数はいずれも下落してスタート。その後米大手銀行の決算内容などを受けて下げ幅を縮小し、11時半からのパウエル議長の講演を受けて更に上昇。その後ほぼ横ばいの動きが続いたが閉場間際にやや下落してダウ工業平均は前日比プラス、S&P 500とNASDAQ総合は前日比マイナスとなったが、最終的な前日比変動幅は小さかった。
ただし市場が閉場前に大きく落ち込んでいるのは上述したトランプ大統領のSNS投稿に反応しての事であり、先週米中関税懸念をまとめた際に
「またアメリカの農産物輸出の14%を占める大豆はここ数ヶ月輸入停止となっている(2024年アメリカの大豆輸出総額245億ドルのうち、半分以上の125億ドルが中国向けだった)。」
と書いていた大豆に関連するもの。
米国10年債
取引開始後は米中貿易摩擦への懸念から利回りは低下(つまり債権が買われた)したが、徐々に利回りは上昇し前営業日近辺まで戻す。しかし再び利回りは低下して取引を終えている。ただ利回りの変動は非常に狭いレンジでの推移に留まっている。また株式市場閉場前の下落要因となったトランプ大統領のSNS投稿は、債券市場が株式市場より早く始まり早く終わるため、14日の取引には反映されていない。
ドル円為替
14日米国市場開場中(上記チャートでは2:30PM~9:00PM)のドル円為替は1ドル=151円台後半での狭いレンジでの動きに留まり大きな変動は無し。その後日本市場が始まるとドル安傾向となり1ドル=151円台前半までドル安になったが、徐々にドル高となり15日の米国市場開場前には1ドル=151円半ばとなっている。
まとめ
以上パウエル議長の講演を中心に、2025年10月14日の米国市場及び関連する出来事について整理・確認してみた。
パウエル議長の講演は自分が思っていたよりも市場に大きな影響を及ぼさなかったが、それでも「経済活動の成長が予想よりもやや堅調な軌道を辿っている可能性を示している」といった発言が株式市場の上昇を多少は促した様に思える。
また開始早々の株式市場下落要因となった中国の各種海運関連対抗措置の実施/発表も、同日発表が本格化した米企業決算が概ね堅調だったことで概ね相殺されたようだ。
ただし株式市場閉場間際のトランプ大統領の大豆に関するSNS投稿や、米中貿易摩擦の各種要因が解決している訳ではないこと、つなぎ予算案がまた否決された事などを考えると、10月14日は上手く乗り切ったものの今後も不透明な状況は続き、気の休まらない日々がしばらく続きそうだ。
それでも10月上旬に自分の資産が大きく減少した要因の一つであるシティグループ(C)が決算を受けて上昇したことは本当に助かった。今後の懸念はあるものの、まずはその点を有難く思っておこう。