イランの米軍基地攻撃で米株上昇、そして停戦実現?(2025/6)

はじめに

週末に

米国がイランの核施設3ヶ所を攻撃(2025/6)

をまとめた際に

「この週末にアメリカがイランの核施設を爆撃し、イランもイスラエルへの攻撃を行ったことで中東情勢は緊迫の度合いを更に増しており、週明けの米市場がどう動くかが注目される。6月23日週には米国市場が大きく変動し、自分の資産も大幅減少となることも覚悟しておいた方がよいだろう。」

と書いていたのだが、掲題の通り2025年6月23日(月)の米国株式市場は、取引時間中にイランによる米軍基地への報復攻撃があったにもかかわらず何故か上昇。

そしてその後(米国市場閉場後)にトランプ大統領がSNSにイスラエルとイランが停戦に合意したと投稿した。

以下、イラン/イスラエル/米国の情報発信と共に、イランの米軍への報復攻撃があった23日の米国市場をを整理しておくことにする。


日本時間2025年6月22日(日)からのイスラエル/イラン/アメリカの動き

主なものを概ね時系列順に列挙。日付については特記が無い限りは現地時間。

2025年6月22日(日)

  • イランのテレビ報道で、イラン議会がホルムズ海峡封鎖を承認。実行には国家安全保障最高評議会の決定が必要と報道
  • イランのアラグチ外相がトルコのイスタンブールでの会見で以下の発言
    • 米国は国際法を尊重しておらず、脅迫と武力という言葉しか理解していない
    • (米軍による核施設3ヶ所の攻撃に対し)報復への選択肢を検討しており、これを実行した後に外交による対応を考慮する
    • (ホルムズ海峡封鎖するかとの質問)様々な選択肢がある
  • 国連安全保障理事会が米国のイラン核施設攻撃を協議する緊急会合を開催
    • グテレス事務総長の発言
      • 報復の連鎖に陥る危険に直面している
      • 米国によるイラン核施設への爆撃は危険な転換点だ。安全保障理事会とすべての加盟国に対し、理性と自制心と緊急性をもって行動するよう強く求める
      • 戦闘を停止し、イランの核開発に関する真剣かつ持続的な交渉に戻るため、直ちに断固たる行動を取らなければならない
    • 国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長の発言
      • フォルドゥの核施設とナタンズのウラン濃縮施設では、アメリカ軍バンカーバスターが使用されたとみられる
      • イラン側からはイスファハンを含む3つの核施設で放射線量の上昇は見られないという報告を受けている
      • 被害の状況などをより詳しく確認するためには専門家を直ちにイランに派遣する必要がある
    • イランのイラバニ国連大使の発言
      • アメリカの政治史に新たな汚点が刻まれた。国際法の明白かつ甚だしい違反だ
      • 国際社会の平和と安全保障を維持するために創設された国連と安全保障理事会がこの決定的な瞬間に行動を起こせないようなら、信頼性と妥当性は永遠に失われることになる
    • イスラエルのダノン国連大使の発言
      • 世界はアメリカとトランプ大統領に感謝すべきだ
      • イランのゴールは死と破壊だ。交渉の場を隠れみのにし、ミサイル製造とウラン濃縮の時間稼ぎに使っていた
    • 米国のシェイ国連臨時代理大使の発言
      • 米国が断固たる行動を取るべき時が来た
      • 安保理はイランに対して核兵器開発を中止し、イスラエルを滅亡させようとする取り組みをやめるよう求めるべきだ
      • イランは長らく核兵器計画を曖昧にし、最近の交渉でわれわれの誠意ある努力を妨害してきた。イランは核兵器を保有することはできない
    • 中国の傅聡国連大使の発言
      • 中東の平和は武力行使では達成できない。対話と交渉こそが現状の根本的な解決策だ
      • イラン核問題に対処するための外交手段は尽きておらず、平和的解決への希望はまだ残っている
    • ロシアのネベンジャ国連大使の発言
      • 我々は再び米国のおとぎ話(イラクのフセイン政権時)を信じるよう求められている
      • 即時かつ無条件の停戦と、イランの核開発をめぐって外交的な解決を探る、簡潔でバランスのとれた決議案を中国、パキスタンと共に準備している
    • ロシア、中国、パキスタンは23日中に決議案への意見を提出するよう各国に要請
  • トランプ大統領がSNSに以下の投稿
    • 「政権交代(Regime Change)」という言葉を使うのは政治的に正しくないが、もし現在のイラン政権がイランを再び偉大にする(MAKE IRAN GREAT AGAIN)ことができないのであれば、なぜ政権交代が起きないのか??? MIGA!!!
  • イスラエルのネタニヤフ首相が報道陣に対して以下の発言
    • 核の脅威と弾道ミサイルの脅威という2つの具体的な脅威を排除するためにこの作戦(イランへの攻撃)に着手した
    • 私たちはそれらの目的達成に向けて一歩一歩前進している。(目的)完了に非常に非常に近づいている。目的が達成されれば作戦を完了し、戦闘は停止する
    • イランが保有する濃縮度60%のウランの行方についての質問
      • 私たちはその行方を非常に注視している。それが核兵器開発の重要な要素であることは確かだ
      • それは唯一の要素ではないし、十分な要素でもない。しかし、それは重要な要素であり、私たちはそれに関して興味深い重要情報を持っているが、それを明らかにするのは差し控えさせてほしい
  • 米バンス副大統領のNBCでのインタビューにおける発言
    • 我々はイランと戦争をしているのではない。イランの核開発計画と戦争をしている
    • イランの核開発をかなり遅らせたと思う。イランが核兵器を開発できるようになるまでには非常に長い年月がかかるだろう
    • 政権交代は望んでいない
    • 事態を長引かせたくはない。核開発を終わらせ、長期的な解決策についてイラン側と協議したい
    • 攻撃実施以降、イラン側からは間接的なメッセージを幾つか受け取っている
    • 地上部隊派遣に関心はない

2025年6月23日(月)

  • ロシアのプーチン大統領とイランのアラグチ外相がモスクワで会談
    • プーチン大統領の発言
      • イランに対するいわれのない攻撃には根拠も正当性もない。我々は、イラン国民の支援に取り組んでいる
    • アラグチ外相の発言
      • イランは正当な自衛を行っている
      • ロシアは今日、歴史と国際法の正しい側にいる
  • 米国株式市場開場直前トランプ大統領がSNSに以下の投稿
    • みんな、原油価格を引き下げてくれ。私は見ているぞ。敵の術中に陥るな
    • 米エネルギー省よ、石油を掘りまくれ!!!(DRILL, BABY, DRILL!!!)。今すぐにだ!!!
  • イランがカタールのカタールのアルウデイド米軍基地に向けてミサイルを発射
  • イランの最高指導者ハメネイ師がSNSに以下の投稿
    • 我々は誰にも危害を加えなかった。いかなる状況でも誰かの危害を受け入れることもない。これがイランという国家の論理だ
    • 我々は誰に対しても攻撃を仕掛けていない。いかなる状況下でも、誰からの侵略も受け入れない
  • 米国株式市場閉場間際にトランプ大統領がSNSに以下の投稿
    • イランは、我々による核施設の破壊に対し、予想通り非常に弱い公式な反応を行い、我々は非常に効果的に反撃した
    • 発射されたミサイルは14発、うち13発は撃墜され、1発は脅威のない方向へ飛んでいった。アメリカ国民に被害はなく、ほとんど損害もなかったことをご報告でき嬉しく思う
    • イランが早期に警告を発してくれたおかげで、人命損失や負傷者を出さずに済んだことに感謝する
    • イランは今後、この地域における平和と調和の実現に向けて前進できるだろう。私はイスラエルにも同様の行動を強く促す
  • トランプ大統領が日本時間6月24日7時ごろにSNSに以下の投稿
    • イスラエルとイランの間で、12時間の完全かつ全面的な停戦(今から約6時間後、イスラエルとイランがそれぞれ進行中の最終任務を縮小し完了した時点)を行うことで完全に合意し、その時点で戦争は終結したとみなされる!
    • 公式には、イラン側が停戦を開始した12時間目にイスラエル側が停戦を開始し、24時間目に12日間戦争の公式終結が世界から祝福される
    • 各停戦中、相手側は平和と敬意を保つ。すべてがうまくいくという前提で(そうなるだろうが)、イスラエルとイランの両国がいわゆる「12日間戦争」を終わらせるスタミナ、勇気、そして知性を持っていることを祝福したいと思う
    • この戦争は何年も続き、中東全域を滅ぼす可能性もあったが、実際にはそうならなかったし、これからも決してそうなることはない

2025年6月24日(火)

  • イランのアラグチ外相がSNSに以下の投稿
    • 現時点では停戦や軍事作戦の停止に関する「合意」はまったくない
    • イスラエルがテヘラン時間の午前4時までにイラン国民に対する違法な侵略を停止すれば、それ以降イランとしては対応を継続するつもりはない
    • イスラエルの攻撃を罰するという、我々の強力な軍隊による軍事作戦は、午前4時ぎりぎりまで続いた
    • 最後の血の一滴まで、愛する国を守る覚悟を持ち続け、最後まで敵のいかなる攻撃にも対応した勇敢な軍隊に、すべてのイラン国民とともに感謝する
    • 軍事作戦の停止に関する最終決定は後日行われる
  • イスラエル軍が、イランから6回のミサイル波状攻撃がありベエルシェバで4人が死亡したと発表。トランプ氏の停戦発表後、イスラエルで死者が報告されたのは初めて
  • トランプ大統領がSNSに以下の投稿
    • 停戦は発効した。どうか違反しないでほしい!
  • イスラエルのネタニヤフ首相が以下の声明
    • トランプ米大統領が提案したイランとの停戦に合意した
    • イランの核とミサイルの脅威を取り除く目的は達成した
    • 合意違反には強力に対応する
    • トランプ米大統領の停戦発表後、イスラエルが公式に合意を認める声明を出すのは初めて
  • イランのSNN通信が、同国がイスラエルに向け最後のミサイル発射を行い停戦が発効したと報道。ただし公式ではない
  • イラン最高安全保障委員会が以下の声明
    • 12日間の血みどろの闘争で敵を打ち砕き、敵は一方的に侵略を停止せざるを得なかった
    • 23日のカタール米軍基地への報復と、その後のイスラエルへのミサイル攻撃が最後の攻撃だった
  • イスラエルのカッツ国防相が以下の声明
    • 米国大統領が宣言した停戦に対するイランの完全な違反とイスラエルへのミサイル発射(停戦発効予定の2時間以上後にイランがイスラエル領空にミサイルを発射したとの報道)を考慮し、またいかなる違反にも強力に対応するというイスラエル政府の方針に従い、私は首相と連携し、政権の標的とテロリストのインフラを阻止するため、テヘランへの激しい攻撃活動を継続するようイスラエル国防軍に指示した
  • トランプ大統領がホワイトハウスで報道陣に以下の発言
    • イスラエル、イラン両国が(停戦合意に)違反した。故意に違反したとは思えない。国民を統制できなかったのだ
    • 今すぐイスラエルを落ち着かせなければならない
    • あまりに長く、あまりに激しく争っているので、自分たちが一体何をしているのか分からない
    • (イランの体制変更を望むかという質問)望んでいない。一刻も早く、全てが落ち着くことを確認したい。体制転換は混乱を伴う。これほどの混乱は望んでいない
  • トランプ大統領がSNSに以下の投稿
    • イスラエルよ、爆弾を投下するな。もし投下すれば重大な違反だ。パイロットを帰国させろ、今すぐ!

2025年6月23日(月)の米国市場

米国株式市場

米国主要3株式指数はやや上昇して取引を開始。同日S&Pグローバルが発表した6月の米総合購買担当者景気指数(PMI)速報値が前月の53.0から52.8に低下したものの、市場予想の52.2は上回ったことが要因だろう。ただし仕入れ価格指数は上昇しており、今後のインフレが懸念されることもあって株式市場の上昇は限定的。

また米連邦準備制度理事会(FRB)のボウマン副議長(金融監督担当)が講演で、労働市場が強く6月の据え置きを支持したことを明らかにしたと同時に、インフレが引き続き抑制されれば7月の利下げを支持する可能性を示唆したことも、前半の上昇要因だろう。

そしてイランによる米軍基地攻撃の報が伝わると前日比マイナスに転じたものの、イランの報復にホルムズ海峡を通過する石油・ガスタンカーの通行を妨害する措置が含まれていなかったたため上昇に転じて取引を終えている(停戦合意報道は米国市場閉場後)。

ドル円為替

週末の米軍によるイラク核施設空爆を受けて、「有事のドル買い」の言葉通り先週末の1ドル=146円前後から一時1ドル=148円近辺までドル高へ。その後はややドル安となり米国市場開場時には1ドル=147円半ば。そしてFRBボウマン理事の講演を受けてドル安が加速し1ドル=146円台半ばとなり、イランの米軍の報復が限定的だったことや、イラン/イスラエルの停戦報道を受けて更にドル安が進み1ドル=145円前後となり、その後停戦が揺らいでいる中でも1ドル=145円台前後での推移が続いている。

ニューヨーク原油先物価格

トランプ大統領のSNS投稿(石油を掘りまくれ!!!(DRILL, BABY, DRILL!!!))にやや反応して1バレル=74ドル近辺から73ドル程度に下がったものの、その後イランによる報復報道を受けて再び1バレル=74ドルを突破。しかしイランの報復にホルムズ海峡に対する措置が含まれていなかったことが明らかになると、株式市場とは逆に原油先物価格は大きく下落。

その後はイスラエル/イランの停戦合意報道を受けてさらに原油先物価格は下がり、1バレル=65ドル近辺まで下がったが、その後停戦の行方が不透明なこともあり1バレル=65~66ドル台の動きとなっている。


まとめ

以上、前回まとめた日本時間2025年6月22日(日)夜までのイスラエル/イラン/米国の動き以降、日本時間6月24日(月)21時位までの主な出来事と、6月23日(月)の米国市場についてまとめてみた。

まず冒頭に挙げた様にイランの米国に対する報復措置が行われたにもかかわらず、米株式市場が上昇した点が驚きだった。理由は上述した通り、報復が米軍基地に対するものでありホルムズ海峡封鎖の措置が無かったことが要因だったようだが、個人的にはそれでも納得感は今一つ(後で米軍基地に対する攻撃は事前通告があり、人的被害が無かったことが明らかにはなったものの、当初はその情報は無かった)。市場は冷徹に動くものだなあ、という感想しかない。

そしてイランが米国に対して報復した数時間後に、トランプ大統領がイスラエル/イランが停戦に合意したとSNSに投稿したことにまたも驚いた。イランの報復によりイスラエル/イラン/米国の応酬が長引くのではと思ったのだが・・・。

しかし上述の様にイランが合意を破って攻撃し、イスラエルが攻撃を再開するとの報道もあり、停戦が本当に実現するかどうかは未だ不透明な状況となっている。何とか停戦が実現することを願いたい。

最後に23日はFRBボウマン副議長の利下げを示唆する発言があり、20日にはウォーラー理事もCNBCのインタビューで「早ければ7月にそれ(利下げ)をするかもしれない」と発言していることも、中東情勢に埋もれた感はあるが注目すべき出来事だろう。次回FOMCは7月29、30日に開催予定だが、それまでに中東情勢、そして4月に発動し90日間一時停止となった上乗せ分の相互関税はどうなっているだろうか。

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